01-15 子孫に託した使命

 グリフォンパーツ学院大学が開校されてから5年後。ルチアは奇妙な光景に出会った。


 彼の目には、グリフォンパーツ学院大学生の双眸が緑に光り、学生寮で悲鳴を上げている様子を捉えていた。


『目が緑に光る……そんなことが……』

 ルチアはその場で動揺する。魔術で夜に目を光らせるのは不可能だと知っているからだ。

 魔術を利用して、道具や建物などを出現させることはできても、生命活動に影響するDNAや遺伝子を魔術で操作できたという話は聞いたことがない。


 ルチアは腕組みして信じ難い光景を見つめる。


『もしや、これは未来を見せているのか……』


 そうである場合は一大事だ。世のため人のために尽くそうとしている学生たちを苦しめる訳にはいかない。


 ルチアは解決策を必死に模索したが、数年後に彼は病に冒されてしまった。


 フェリウル歴8008年。ディールス・ルチアは病で帰らぬ人となった。


 死因は定かではないが、生まれつき心臓が弱かったため、心臓病ではないかと言われている。


 ルチアが成し遂げられなかった、グリフォンパーツ学院大学の学生が夜に光る目のせいで、苦しむ未来を解決することを子孫に託した。


 ルチアが亡くなる直前、親戚縁者にこう遺言を遺したという。


――私の血を引く子孫のミドルネームに『ディールス』と名づけてくれ。私が成し遂げられなかったことを、使命として果たして欲しい――


  ――***――


 ルチアの遺言を最後に映像は途切れた。


「前世に魔術界ヴァールで罪を犯した人が、世のため人のために貢献する使命を持って、非魔術界ル=ヴァールへ生まれ変わった人たちの使命を果たすために、ディールス・ルチアはグリフォンパーツ学院大学を建てました」

 ロザン先生は黒板に背を向け、真面目な表情で講義のまとめを語る。


「実際に、グリフォンパーツ学院大学を卒業した者は、魔術界ヴァールに限らず、故郷である非魔術界ル=ヴァールに帰って活躍しています」


 しかし、とロザン先生は着席している学生を睨みつけるように、険しい表情に変わる。


「皆も気にしていると思うが、今やここの学院生は暗闇で目が緑に光り、不思議に思ったり苦痛に感じたりしていると思う」


 ロザン先生はまるで他人事のように言ったが、それを覆す言葉を発した。


「僕のミドルネームは『ディールス』。映像で見てもらったルチアの血を引いている。だから、僕はその謎を解決する使命にある。一方で、皆はここの大学に在籍している以上、大学の歴史を知ってもらいたい。その想いで、講義を進めていきます」


 GFP学院生が夜に光る目を解決したい。GFP学院生の命を狙うフォール=グリフィンから守りたい。ロザン先生のこれらの気持ちは、切るような鋭い視線に表れた。


 ロザン先生の力んだ顔つきが緩んだ瞬間、3限目の講義が終了を告げるベルが鳴り、今週の講義を終えた。



 2限目に登場したゼリアザード・フェリウル・ツェルが生きていなければ、魔術師は誕生していなかった。


 昨晩と3限目で聞いたディールス・ルチアが生きていなければ、前世の罪の報いとして非魔術界ル=ヴァールに生まれ変わった人の中で、本来の使命を果たせずに過ごしているに違いない。


 昔に生きていたゼリアザードとルチアのお陰で、雅稀らは非魔術界ル=ヴァールに生まれながらも魔術界ヴァールへ来ることができた。


 彼らはこの世を去った今も語り継がれている魔術師であり、ゼリアザードについては知らぬ者はいない。ルチアに関しては、生前に成したことをGFP学院の関係者であれば、誰もが知っている人物として伝えられている。


 ところが、偉業を為したとも過言ではない2人の恩恵や当時の心境を知らず、悪行に走る人がいる。


 その一部の者がGFP学院の存在を恨む組織、フォール=グリフィンに所属している。


 魔術を使えないはずの人がGFP学院大学へ入学することで、魔術を使えるようになることを不快に思う魔術師は、多かれ少なかれ存在することは理解できる。


 しかし、だからと言って、魔術を悪用して人を苦しめたり、殺めたりすることは罪であり、魔術すなわち神なる力を冒涜していることになる。

 GFP学院生の命を狙うフォール=グリフィンの連中は、そのことを理解しているのだろうか。


 それ以前に、何がきっかけで組織ができたのだろうか。今日の講義ではわからなかった。ひょっとすると、今後の講義でもその組織名が出てくることはないかもしれない。


 フォール=グリフィンについて1日でも早く知りたい気持ちが抑えられずにいる雅稀らは、ロザン先生にGFP学院や学生を狙っている組織が結成した過程を尋ねることにした。

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