デスマスクレスラー
カリナ〈仮名〉
第1話デスマスクレスラー
「わあああああ遅刻だあああああ!」
カーテンを開け頭が一気に冴えると
学校への身支度をした
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい大河」
家の表にたつ花屋で働く母に見送られ
僕は商店街を駆けて行く
僕の名前は紺野大河
高校一年生
バス停までたどり着くと
後ろの方から
丁度バスが来る所だった
「よしっ!運良く乗り損なわずに済みそうだぞ!」
周りを見てみると結構
バスを待ってる人は沢山居た
このくらい人数なら
多分乗れるよね
バスが停留所にまで来ると
連なる列に付く人々が次々と乗車していく
徐々に車内は
ひしめき合う
ギリギリ乗れて後4人くらいか
「はいっ糠等高校入口前は200円ね」
運転手に言われた分のお金を払い
僕も乗り込もうとした
だが・・・
「どけどけぇ!オレたちが先だぁ!」
その瞬間
後からやってきた不良中学生3人に
割り込まれた
「でっでも僕が・・・先で」
「うっせぇ!邪魔だチビ!」
背中を引っ張られ地面へと転げ落ちる
こうして大柄の子と小柄二人に乗り込まれ
4人分乗れる余裕があったはずのバスは
完全に埋め尽くされた
ううう・・・僕が先だったのに
涙を浮かべていると
僕を背に突然不良3人の前に
誰かが立ちはだかった
「ちょっとあなた達!」
恐る恐る僕が見上げると
そこに居たのは近所に住む夏川雨音お姉ちゃんだった
「雨姉ちゃん・・・」
「割り込みなんか・・・するなあああ!」
雨姉ちゃんは
いきなり
大柄の不良中学生のベルトを持ちあげ
その子をバス停へと放り投げた
「うわああああ〜〜⁉」
後の二人も残さず
雨姉ちゃんにバスから投げ飛ばされる
その後から
杖をついたおばあちゃんとおじいさんを先に乗せると
雨姉ちゃんは3人に言い放つ
「よぉしっ!君たちは
次のバスが来るまで待ってなさい!」
「ひいいっ!はっはい!」
3人が返事をすると
雨姉ちゃんは僕の手を取った
「ほらっ!大河
早く乗らないと乗客の人にも迷惑になっちゃうし
遅刻しちゃうよwさぁっ!」
「うっうん・・・!」
無事高校に着き
階段を上がりざまに
雨姉ちゃんは僕に手を振る
「じゃあね大河」
「うんっじゃあね」
雨姉ちゃんは幼い時から
僕のこと助けてくれる優しい人だ
喧嘩の強い男子の揉め事にも割り込んで
仲裁するし
力が強い上
スポーツもできて運動神経も良くて
とてもカッコいい年上のお姉さん
今日も昼間の校庭で
そんな活発な姿が伺えた
一人ベンチに座って眺める僕に
雨姉ちゃんは気づき駆け寄ってきた
「ねっ!大河も
一緒に遊びましょうよw」
「僕はいいや
足手まといになるしw」
断る僕の手の火傷痕が
雨姉ちゃんの目に映り込む
「その怪我・・・どうしたの?」
「べっ別にw家でカップ麺食べる時
ポットのお湯を手首に引っ掛けちゃっただけだからww」
「ふーんw気をつけなよ♪
あっ!そういえばさ
今日のニュース記事見た?」
雨姉ちゃんは
ポケットから
朝刊の新聞の記事一枚を取り出し
広げて見せる
「なにそれ・・・家から折りたたんで持ってきたの?」
「だって学校での緊急時以外のスマホの利用は校則で禁止されてるんじゃんw
まぁそんなことよりもこの記事見てよw♪」
指を当てられた記事の一面には
プロレス関連の内容が記されていた
〈新参者、デスマスクレスラーが強者:一人で50人の動きの百足ハンマーにあっさりと勝つ!〉
〈百足ハンマー不祥事を働き引退〉
〈リング上だけならず新人レスラー:デスマスクレスラー
その力で放火魔の被害者を救出
なお、集団犯行と思われる容疑者等未だに捕まらず〉
「凄いわよね!まるで架空のヒーローみたい
でも女子プロを目指す以上アタシも負けちゃいられないわよね!」
雨姉ちゃんの家はプロレスの道場を経営してて
それで雨姉ちゃんも強い
「へっへぇ・・・そうだね
最近集団犯行と思われてる事件多いよね
あっ放火犯の現場の記事の中に雨姉ちゃん写ってるね!」
「そうなのよ〜・・・デスマスクレスラーさんが活躍する時は
いつも私達の居る身近な場所ばかり」
「うっ⁉そっそうかな・・・?僕はw
プロレスのニュースチェックしてないからわかんないやwあはは」
ふと、雨姉ちゃんはベンチから立ち上がった
「そうだ!明日の休み一緒にデスマスクレスラーさんの正体を探しに
街に調査しに行きましょうよwねっ!大河」
えっ・・・
「ええええええええ〜⁉」
そっそんな
こんな展開って・・・
一人あたふたしてると
昼休み終了のチャイムが鳴った
「じゃあ約束だぞ!また明日ね大河!」
断る間もなく雨姉ちゃんは
校舎の方へと先に戻っていってしまった
「どーしよう・・・」
放課後
家へと帰宅した
「ただいま・・・」
閉店後の掃除をしている母に会った
「おかえり大河
アナタの部屋にお客さんが来てるわよ」
「えっお客さん・・・?」
まっまさか・・・
嫌な予感がした僕は
急いで自分の部屋へと走った
「!」
ドアを開けると
そこには同い年の他校の制服の女子がくつろいでいる
「こんにちは
早いお帰りだね」
彼女の名前は剥溜ルカ
「人の部屋に勝手に入んないでよぉ・・・」
すると彼女は
巻物のような長い請求書を僕に見せた
「侵入するもの何も
借金保証人であるアナタに小言言う権限はないわ
これは私の父である
プロレスグリム・リーパーの剥溜裏社長から
借金取りを頼まれた私の自由よ
ねっ!最近外でも活躍してるらしいじゃないw
”デスマクスレスラーくん”。」
二度目のニュース記事を
今度はルカちゃんに見せられる
「我がプロレスグリム・リーパーに魂を売った亡き
プロレスラーの紺野天文〈あまふみ〉の代わりに
レスラーをして借金を返済するのが彼の息子である貴方の役目よ」
父の顔の覆面を指さされ
僕は頭を抱える
「・・・母子家庭同然で育って
そんなある日
僕たちが作ったわけでもない多額借金とともに
父さんの顔のデスマスクだけが戻ってくるなんて
・・・あんまりだよこんなの・・・」
「あらっその割に
父親の顔のデスマスクをつけては
色々した活躍がニュースに載るんだし
楽しいんじゃないの?」
僕は窓の外の星空を見上げた
「別に・・・ソレに
ただ助けたくて
ボランティアでやったことだから
払えるお金なんてないよ」
「そんなの当てにしてないってw
貴方の今月のコンビニのバイト代から
もう引かせてもらってし、ほらっ♪」
「えっええええ⁉」
慌てて給料の封筒を見ると
しっかり
抜き取られていた
ぼっ僕の・・・給料が・・・
「まぁとにかく、
あんまり外で活躍するのも程々にしなさいよね
これだけは忠告しとくわ
じゃっまた来月ね♪ばいばーいw」
泣き崩れる僕を背に
能天気にもルカちゃんは帰っていった
「・・・」
次の日
集合場所まで来ると
雨姉ちゃんが手を振った
「じゃっ行きましょ!」
二人で町中を歩き
最初に着いたのは火災の遭った
第3通り目の商店街のコインランドリーとクリーニング屋さん
今はもう建て直され以前の状態に戻っている
雨姉ちゃんは店主にデスマクスレスラーの話を聞く
「デスマスクレスラーにはホント助けられたよ
あの日2階に娘と母が閉じ込められた状態の中
家の裏窓から乗り込んで二人を救出してくれるんだもんなぁ〜
でも誰なのかは知らんなぁ〜
ってか警察の話だとまだ放火魔集団犯捕まってないんだよ
早く逮捕されてほしいものだよな〜」
「そうですね・・・」
雨姉ちゃんが落ち込む横で
僕は安心するが・・・
「次の場所よ!」
一箇所目だけでは
まだ諦めないらしい
2箇所目
僕たちはサイクリング場に来る
「さぁねぇ〜あの人覆面も付けてたし
レスラーなんだから
正体なんて暴かないほうが良いんじゃないのぉ?
それより雨音ちゃんもあの時はうちに来てて大変だったよねぇ
お客さんが危ない目に遭うのはホント困るからね
犯人が逮捕されても
模倣犯が増えないことを願うよ」
管理人のおじさんの答えも
ほとんど変わりない
トボトボと行く雨姉ちゃんとともに
サイクリング場
施設を後に道へと出る
「やっぱり諦めようよw
皆だって正体なんかどーでも良いって思ってるじゃんw」
だがそんな僕たちの様子を
建物の影から謎の男が覗き込んでいた
「あの高校生・・・」
犯人は持っていた
新聞の切り抜き本を開いた
ソコには
プロレス関連の記事がまとめられていた
後半のページには
デスマスクレスラーと外で起きた事件の記事も載っている
それを遠くに見える僕たちと重ね
犯人は
不敵な笑みを浮かべる
「ふふっ・・・何か嗅ぎ回ってるみたいだが
オレにバレた以上オマエには不幸が待ち受けている
復讐の開始だぜ・・・!」
「じゃ気を取り直して3箇所目は
ボート乗り場ね!」
「えー!まだ調査するの・・・」
再び商店街に
戻ってくると突然
後ろの銀行のほうから悲鳴が聞こえてきた
「きゃああああ!ひったくりぃいい!」
現金封筒を奪い取った男が遠くへと逃げていく
「何あれ・・・泥棒?」
気を取られていると
同じ服装の男が突然背後から走ってきて
雨姉ちゃんに体当たりした
「きゃあっ⁉
痛てて・・・」
「だっ大丈夫⁉」
怪我はないが
一つの違和感に気がつく
「あっアタシのカバンがない!」
「同じ服装・・・同じ背格好だったけど
こんな短時間で普通の人間じゃあ
商店街の南口から北口まで一周して回ってこれないよな・・・
金目のものを盗まれるなんて・・・
もしかして、これも集団犯の仕業なんじゃ・・・」
「それなら尚更!追いかけて捕まえてやるわよ!
もうっ頭来たわ!こらっ待てええ!」
「ああ、待って!雨姉ちゃん!」
追いかける雨姉ちゃんの後を僕も追いかけていく
商店街を抜け
川沿いに沿って走る姿を見せる犯人を見つける僕たち
しかし犯人は狭い小道へと入り姿を消した
その奥は分かれ道になっている
悩む雨姉が目そらした瞬間
右の道の奥で微かに
ひったくり犯が背を向け手元から覆面をちらつかせた
確実に僕が見ているのを理解している素振りで・・・
あの覆面は・・・
察した僕は
右の道へと踏み込む
すると何を思ったのか
雨姉ちゃんは左の道に入る
「・・・アタシは左に行くわ
大河は左の道に行って!」
そう言い残すと雨姉ちゃんは左
僕は右の道へと駆け出した
しかし道を抜けると分かれ道先は
左右両方とも同じ場所だった
そして
右の道の突き当りにあったのは
理容室の六角柱ショーウィンドウの
マジックミラーの窓ガラスだった
どうやら遠くに見えたのは
犯人の姿が反射して映ってただけらしい
じゃあ・・・
背をこちらに向けてたってことは・・・
犯人の狙いは・・・
「雨姉ちゃん!」
気づいたときにはもう遅く
犯人に車へと押し込まれる雨姉ちゃんの姿が見えた
車は動き出し向こうへと走っていった
僕じゃ到底追いつけないだろう
僕は黙ったままポケットから
デスマスクを取り出し身につけた
途端に
身長と筋肉で体重が増量し
服がきしみを上げると
デスマスクが馴染み本物の皮膚に変わった
「・・・」
一方その頃
連れ去られた雨姉ちゃんは
廃マンションに取り囲まれた
裏庭の人気のないバスケコートに降ろされていた
「アタシをさらったりして一体何の用なの!
カバン返せ!」
「ヤダねオマエには
役目を果たしてもらわないとw」
犯人は持っている覆面を
片手で振り回す
「ってかアンタの
その覆面・・・って
元レスラーの百足ハンマーの・・・」
「くっくくw気づいたか」
犯人は私服を脱ぎ
覆面を被り
その姿を百足ハンマーへと変えた
「オレは知ってるぜw
デスマスクレスラーが被害者たちを救助した
その現場にはいつもオマエが居るってことw
だからおびき出すためにオマエを連れ去ったのさ!」
「そっそんな無茶苦茶な
アタシだってデスマスクレスラーさんのこと知らないわよ!」
「ふっwでもヤツは来たみたいだぜ?」
頭を振って向こうを指すと
そこにはデスマスクレスラーが立っていた
「よぉっデスマスクレスラー!
お前に会えるのを楽しみにしてたよ・・・!
あの日お前に負けたオレは
所属していた団体のおえらいさん方から
ハメられ
理由もわからず切り捨てられたんだ」
語り口調だったその話し方は怒りを含み始め
こちらへ猛突進してきたかと思ったその時
「幻技!架空の49人・・・!」
言葉通り
素早い瞬発力で架空の49人を生み出し
百の手足を作り出した百足ハンマーは
ムカデの如く
僕の体に巻き付き動きを封じ込む
「喰らえええ!毒牙のギックリ腰!」
そして毒針のような鋭い手刀を腰へ喰らわし続けた
「へっへっへwこれぐらいやればお前ももう動けまい!」
しかし攻撃が止んだ
その瞬間
百足ハンマーは手足を逆固めされる
「なっ何いぃ⁉」
慌てたときにはもう遅く
僕の攻撃範囲内へと百足ハンマーは居た
「必殺!無限回転胃袋打たき!」
百足ハンマーの体を回転させ
その後から一発腹にパンチした
「ぐへぇ⁉おげぇ・・・
目が・・・目が回る・・・!
腹が胃が気持ち悪い・・・」
お腹を抑え地面を這っている百足ハンマーをよそに
拘束されている雨姉ちゃんの縄を解き
その場を立ち去った
「・・・」
入れ替わるように
元の姿の僕が
バスケコートへと歩いてくる
「雨姉ちゃん・・・」
「大河!」
腰を抑え
ボロボロの服装で来た僕に
雨姉ちゃんは駆け寄った
「どうしたの⁉
腰なんか抑えて・・・
まっまさか!」
即座に百足ハンマーを睨みつける雨姉ちゃん
「アンタ!アタシたちが二手に分かれた時
さっきの毒牙のギックリ腰とかって技を
使って大河にもその技をカケたんでしょ!サイテー!」
罵声を浴びせられるが
百足ハンマーはゆっくりと地面に手をついて体を起こす
「んな弱そうなチビ相手に
そんなことするわけねえだろ・・・!
オレだって・・・
元レスラーだ・・・ぁ!」
「でももう犯罪者ですよ・・・」
「ああ、そうだな・・結局は
一般人にも被害を与えたんだよなオレは
仕事で培ってきたはずの技を使って
集団犯に見せかけたりなんかして・・・
ったくどうして・・・
ここまで落ちぶれなきゃイケなかったんだよぉオオオ!」
こうして架空の集団犯は
元レスラーの百足ハンマーとわかり
連続放火事件も幕を引いた
日曜日
僕へのお見舞いに雨姉ちゃんが
家にやってきた
「うう・・・痛てて」
「ほーらっジッとしてて
はいっ!貼り終わったわよ」
僕が貼られた湿布をパジャマで隠すと
雨姉ちゃんに
その上から腰をさすった
「ごめんね・・・アタシの独りよがりの行動のせいで
巻き込まれたりして」
「良いよ別に・・・」
「だから、もう決めたわ!
デスマスクレスラーさんの正体ももう問い詰めない!」
「えっホント?」
「ええっw本人はちゃんと
レスラーとして活躍してて見れるわけだし
アタシはその姿だけ見れれば良いと思うよ!」
「そっか・・!」
「だからね!正体は追いかけない代わりに
いつの日か対面して
お友達になれるように
アタシ頑張るわ!」
「エッ・・・」
デスマスクレスラーへの
雨姉ちゃんの興味は薄れはしなかった。
完
デスマスクレスラー カリナ〈仮名〉 @inaniwaudon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。