バニーガールナイン〜岩手県立巌鷲高校硬式野球部〜

京城香龍

導入〜女子野球部の夜明け〜

2023年3月のWBC2023によって日本の野球のクオリティは極熟の域に達した。

しかしそれは日本の野球が栄枯盛衰の赤信号でもあった。

密かに危機感を抱いた高野連は、NPBの仲介で女野連との共催で、「全国高校生男子女子野球選手権」通称「高校野球男女交流戦」若しくは「男女戦」を発足させる事となった。大会は12月に甲子園球場にて2週間に渡ってトーナメント方式で行われる。

それは男子は夏の甲子園ベスト16校から、女子は全国高校生女子硬式野球選手権大会のベスト16校が、当時の選手陣つまり3年生も加わってのオールスター校同士による勝ち抜きトーナメント形式の野球選手権大会が、男女の全国高校野球選手による交流試合だ。

この男女交流戦は高野連と高女連とNPBが共同して主催している。

故に球場やグラウンドの枠だけでなく、ベンチ入りできる選手の人数も、男女の生物学的な性差と競技人数の差を埋めるために、男子チームは20人、女子チームは25名までとした。

ルールは通常の全国高校生野球選手権をベースに、女子側にハンデが付くような内容にまとめられた。

特に女子チームへ「大谷ルール」の全面適用は、「投手兼指名打者」の採用と、球数制限以外は従来通りで変更はない。

打撃部門においては「強打賞」が新設されており選手に打撃で評価の高い6人を選び出している。これは男女共通制度だ。

ピッチャーも打席に立たなければならない男子と、元々から指名打者制度が定着している女子との練習量の差を埋めるためにも導入された。

ピッチャーは打席に立って投球する投手の他に、野手として出場する選手も存在する、所謂「二刀流」が女子チームの強みである。

野球界の次なる課題である「男女混合」に向けて、肉体&精神&倫理の擦り合わせを模索していくための選手権でもあるのだ。

しかし出場権のある男子代表校は二刀流投手が名門校クラスであってもおらず、打撃面で才能のある選手はまだ少なく、中学女子レベルであればいけるかもしれないくらいの見極め段階であり、大抵は回避される。

決勝進出どころかシード権を得ることすらできない中で男女代表校の対戦が生まれており、真の強者同士の激突が繰り広げられる新たな高校野球のドラマを生み出し始め、世間にも次第に認知されていくようになった。

特にNPBのプロ野球スカウトが男性選手を見にきたのに、女子チームの活躍を見て上層部がNPBに所属していない女子野球クラブチームへ女野連を通じて紹介するなど新たな変化をもたらした。女子野球は、男子野球部が出場しない大会において、男女の身体的性差を克服し、フィジカルコンタクトやメンタル面での強さを武器に勝ち進む。

そして新たな「男女混合」の高校野球は徐々に認知されていく。「男子も女子も関係なく、競技に性別が関係ない」ことが男女混合の理想形であると、高校野球ファンは考えるようになる。

だが、当初は性差を克服する期待感から注目を集めたが、次第にそれは「男女混成」としての魅力として変わっていった。――戦後から現代まで続く男女混成野球は、いつから始まったのだろうか?

戦前の旧制中学校で「女子」と「野球」の掛け合わせが試された、女子野球部が誕生。そして平成の世では男女野球で「男女混成」の掛け合わせが生まれた。この新たな「男女混成」という掛け合わせが、高校野球界に大きな波を起こす可能性が示唆されたのだ。

しかし、一方で思春期の男女だからこそ起こりうる肉体的、精神的、倫理的なハンデは若気の至りでは片付けられぬトラブルを生み続け、男女は競技の面で分断と対立を強いられることとなっていった。また、野球を男女が平等に楽しむためには「肉体的」にも男女の差異が激しすぎ、「競技面」においても男性と女性では身体的な性能の差があるため、男性にハンデを付ける必要が出てきた。しかし男女共通の野球での男性用のルールとなるとさらに複雑化し、保護者やファンからは「ナンセンスである」として批判の声が相次いだ。

こうした流れから新たな高校野球のあり方を見出すためにも、高野連のルールと女野連のルールを擦り合わせた「男女折衷案ルール」を新たに設け、そこから現行の「男女別野球」を「男女混成」へと昇華していくのに必要な課題を炙り出して解決していくために、男子野球の頂点と女子野球の頂点を、日本人の聖地「甲子園球場」で戦わせる「全国高校生男子女子野球選手権」の開催が決定したのである。

高野連と高女連は、全国高校野球選手権の主催団体として「男女代表チーム」の代表決定戦となる、男子と女子の代表校による戦いだ。

スポーツ誌やゴシップ誌は「男と女のガチ野球」等と煽ってはいるものの、目的は「性差による課題の克服」であり、将来的に野球と言う競技が「男女混合化」が最大の目標だ。

甲子園球場で行われる女子と男子のトーナメント戦の決勝で両チームが対戦し、勝者同士で優勝決定戦で雌雄を決する。

一方で男子チームと女子チーム毎に出場校や出場選手の人気投票が行われ、決勝戦が行われた後には、人気投票によって選手された「男子オールスターチーム」と「女子オールスターチーム」が編成され、「高校生男女オールスター戦」が行われる。全国大会自体は元々から行われてきたものだが、2010年以降に「野球離れ」による危機感から、甲子園大会と共に、新たな競技人口の開拓として、新たな学校&野球部チームが見つかりやすいようにという大会側・出場チーム側の思惑もあって、全国高校生男子女子野球選手権が発足されている。

この大会には全国の野球強豪校が集っており、大会はトーナメント戦であるために、勝ち残った学校同士が雌雄を決するという方式は男女別野球と変わらないが、女子野球も甲子園のグラウンドで競技できるため、男子の高校野球同様、女子も甲子園のグラウンドで競技できる。

そして、男女別チームの代表校は、全国高校男子女子野球選手権の男女別優勝チームと同じく男女準優勝チームで行われる決勝戦へと進むことになる。

この男子チームと女子チームによる決勝戦の後は、観戦者のファン投票によって、「男子オールスターチーム」と「女子オールスターチーム」が編成され、「高校生男女オールスター戦」が行われる。この大会は全国の野球強豪校が集っており、大会はトーナメント戦であるために、勝ち残った学校同士が雌雄を決するという方式は男女別野球と変わらないが、女子も甲子園のグラウンドで競技できるため、男子の高校野球同様、女子も甲子園のグラウンドで競技できる。

これによって男子・女子双方が課題となる「体格」や「フィジカル的な違い」「技術・力」に対しての疑問点が払拭されることになるのだ。

その払拭を証明するために「高校生男女交流戦」と「高校生男女オールスター戦」が男女混合で開催されることになった。

そして、全国高校男子女子野球選手権は「男女混成」の掛け合わせを試す場として、また新たな高校野球の在り方を模索する場として、今後も続いていくことになっていく。

「高校生男女交流戦」と「高校生男女オールスター戦」は共に、「男女混成」という掛け合わせを試す場であり、新たな競技人口の拡大に繋げるための重要なイベントだ。


その市場を拡大し始めた女子野球界に、奇しくも大谷翔平を輩出した土地、岩手県に設立された公立校が参入した。

岩手県立巌鷲高等学校硬式野球部、人呼んで「バニーガールナイン」が参戦した。

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