第二章「伴侶」 第12話
「意図、ですか。ここで授けられる魔法は《観察》です。もしかすると『ここで核となる部分を見抜けるようになれ』と、神々はお考えなのかもしれませんね」
「関連はありそうですね。魔力を見るとか、そんな感じでしょうか……? ラルフ、プロとしての意見を聞きたいのですが、《強化》の魔法は使うべきだと思いますか?」
私のその問いにラルフとアーシェが相談するように視線を交わし、困ったように笑う。
「新人傭兵相手なら、実戦で魔力がなくなったらどうするつもりだ、と言うところだが――」
「お嬢様が魔力がなくなるほど戦い続けている状況って、確実に護衛に失敗してますよね」
魔法を使用する場合、威力や回数に応じて使用者の魔力を消費する。
休めば自然と回復するものだけど、戦い続ければ足りなくなるのは当然であり、そんな状況を避けるためにいる二人としては、なんとも言いづらいということなのだろう。
「なるほどです。では、両方を試してみましょう。訓練ですからね」
まずは普通に戦ってみようと
それは一見すると黒い綿菓子。雲よりも実体感があるが、目や口などはない。
私はふわふわと近付いてくるそれを見据え、中心部分を狙って
「さすがに簡単にはいきませんか。――ふっ」
近付いてくる
それが核だったのだろう。次の瞬間、
「ふぅ。なんとかですか。――やはりここでも出るんですね」
「
「ですよね。ミカゲは何か知っていますか?」
「……それはお姉ちゃんが頑張った証。大切にするべき」
私の問いにミカゲが少し沈黙、口にしたのは歯切れの悪い答え。
――つまりはそういうこと……なのかな?
「そうですか。では、大事に取っておきましょう。いつか役に立つかもしれません」
私は頷き、
「一応斃せましたが……う~ん、ダメですよね、今の方法では」
「当然だな。
正論ではある。しかし、新人傭兵の引率と同じ感覚だったのか、言葉がやや強い。
それが癇に障ったのか、アーシェの顔が険しくなり――ラルフは慌てたように前に出た。
「ちょ、ちょっと見ていてくれ。ルミお嬢様」
ラルフは剣を水平に構えると、程なくして現れた
二撃目はなかった。
ただそれだけで
彼の安堵の理由がどちらにあるかは……言うまでもないか。
「核を上手く捉えればこうなる。力は必要ないから、頑張ってみてくれ」
「さすがですね。何かコツのようなものはあったりしますか?」
「先ほどのルミお嬢様の言葉が正解だ。魔力の動きを見れば良い。最も濃い場所を狙うだけだ」
「それが難しいんですけどね」
魔力を感じ取ることはできるし、
だからといって、魔力の塊のような
「ま、本祭壇までは八層もあるんだ。ゆっくり頑張ってみてくれ」
前回の《強化》の
それと同等なら、本祭壇までに遭遇する
それぐらい戦えばコツは掴めそうな気もする――いや、しないかも?
というか、改めて考えると凄い数だよね。この前は夢中だったから、意識しなかったけど。
「怪我をする心配がないのは、幸いでしょうか」
ここの
一人ならそれも十分な脅威だが、フォローしてくれる人がいる状況であれば危険性は低い。
こちらの攻撃が当たらないのは、やっぱり面倒だけど――あれ?
「ふと思ったのですが、こういう
「いるな。滅多に遭遇することはないが」
私の思い付きに頷いたのはラルフ。そして、首を振ったのはアーシェだった。
「心配せずとも、お嬢様が戦うことはありません。それが私の仕事ですから」
これでも私は伯爵家の令嬢。普通なら守られるような立場なんだよね。
地政学的なこともあって、お姉様は自ら戦うことを選んだけれど、本来ならやるとしても全体的な指揮や後方支援がせいぜいで、直接剣を振るうようなことにはならない。
だから戦闘技術を鍛えることに、どれほどの意味があるのかと言われると、反論は難しい。
「我は応援する。魔力を感じ取ることは魔法を使う上でも重要」
少し悩む私をミカゲが激励してくれるが、それを聞いたラルフは
「ん? 一度覚えてしまえば、魔法の発動は難しくないだろう?」
「それはあなたの
「あれ? そうなの? 普通に使えているけど?」
魔法を覚えた直後、私は当然のように何度も使ってみた。
最初こそ少し戸惑ったけれど、慣れたら発動に苦労するようなこともなかったし、魔法を授かったら普通に使えるというのは知っていたので、こういうものだと思っていたんだけど。
「実はそんなに簡単じゃない。お姉ちゃんは才能がある。さすが」
「つまり、才能がないと魔法を使うのは面倒臭いと。俺は子供用で良いな」
どこか満足そうに私を見ていたミカゲは、ラルフの言葉を聞いて呆れ気味にため息をついた。
「プライドがない人間は己を高めることも、人を導くこともできない。ラルフは落第」
「言われてますよ、兄さん」
アーシェが
「俺にとって主体は剣、魔法は補助だからな。何も考えずに発動できる現状が楽なんだよ」
「そう言われると、私は魔法が主体となりそうですね。――頑張ってみましょう」
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