埼玉県 吉見百穴での怪異

七倉イルカ

第1話 プロローグ


 プロローグ


 夏休み。

 埼玉県のおばあちゃんの家へ泊りに来ているぼくのところへ、叔父さんが現れた。

 お父さんの弟である。

 叔父さんは、まだ結婚していない。

 ぼくが埼玉に来たときには、ふらりと現れて、遊びに連れて行ってくれるのだ。


 「今日は、ちょっと珍しいところに行こうか」

 「どこに連れて行ってくれるの?」

 「着いてからのお楽しみ。

 もしかしたら、本で見たことがあるかも知れない場所だよ」

 叔父さんは、いたずらっぽい笑顔で言う。


 ぼくは誘われるままに、叔父さんの車に乗った。

 40分ほども走っただろうか、叔父さんは車を脇道に入れ、速度を落とした。

 脇道は、緩やかな下りとなっている。


 「ほら、見えてきたぞ」

 叔父さんがそう言った時、斜め前方に、奇妙なものが見えた。

 木々が茂る低い山。その山は、こちらに向いた斜面だけが剥き出しの岩になっている。

 そして、その岩肌には、無数の穴が開いていた。

 「あの山、見たことないかい?」

 叔父さんが言う。

 ……あるような気がする。

 ……何かの雑誌、それともテレビ番組か何かで見たのかも知れない。

 「あれは、『吉見百穴(よしみひゃくあな)』って言うんだよ」

 叔父さんは、そう教えてくれた。


 広い駐車場に車を停め、ぼくと叔父さんは、吉見百穴へと向かった。


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