第1話 緊急事態!
私は耳が聞こえません。
でも、楽しく普通の高校に通っています。これは優しい母と高校での友人たちのおかげです。
高校では耳の聞こえない私を漫画やドラマのようにいじめる人はいません。ただ、めんどくさそうだから関わらないでおこうと思っている人は結構いるような気がします。でも友達は私のために口の動きをわかるように話してくれたり、スマホでメッセージを送ってくれたり、最近は手話も覚えようとしてくれたりとすごく優しくしてくれます。
お母さんは幼いころにお父さんが亡くなってしまって大変なはずなのに、一つも不満を言わずに私を育ててくれました。
みんな、本当にありがとう。
*
緊急事態発生中
美海の視界には知らない天井が映っている。
どうやら床に横になっていたらしい。
慌てて起き上がると目の前に広がるのは西洋的でアンティークな家具に、多くの実験器具のようなもの、壁の棚一面置かれている何かが入っている瓶、用途が全くわからないものと今まで見たことのないようなものばかりある薄暗い部屋だった。
まるで昔のヨーロッパの実験室のように見える。
ここ……、どこだろう……。
美海は冷静に辺りを見回して現状確認をする。
とても広い部屋だ。
この広い部屋にあるさまざまな器具たちに触れたら危険な気がしたためできるだけ避けて、部屋の中を歩き回る。
そもそも私はなんでこんなところにいるんだろう。
美海には学校から家に下校している途中だったと言うことしか記憶がなかった。
服装も学校の制服のセーラー服のままである。
誘拐されたのだろうか。
しかし、いつ、誰が、どうやって、なんのために自分をここに連れてきたのかがわからない。それとも小説や漫画のように異世界転生というものだったりしてと一瞬期待してしまったが、現実的にそんなことはあるまいとすぐさま冷静になる。
部屋の角まで歩いていくと壁の色と同化していてわかりづらいが大きな扉がある。
ここから出られるんじゃないかと期待する。
ドアに向かい1歩踏み出すとカシャッと音がした。
足元を見るがなにもない。
何か嫌な予感がする。
美海はその場から少し離れる。
コツコツコツッコツコツコツッ
扉の外からこちらに向かってくる足音が聞こえる。
そしてガチャガチャッと音と共に扉が揺れる。おさまったかと思ったら今度はキィィィと音を立てて扉が開かれる。
開かれた扉の先には1人の人がいた。
身長はおそらく美海よりも10cm以上高く、スラっとしている。スタイルの良さが際立つ真っ黒な服の上に外側が黒色で内側が淡い緑がかった水色のローブを羽織っている。所々に宝石らしきものも着けている。肩下まで伸びているサラサラストレートの黒髪がとても魅力的だ。しかし、顔全てを隠すようなベールをつけていて顔が全く見えない。
おそらく男だろう。
この人が私をここに連れてきたの?
男は美海にどんどん近づいていく。美海はどうすればいいかわからず近づいてくる男とは反対に後退りする。しかし男の方が1歩が大きく歩くのが速いためすぐに美海に追いつく。
美海は目の前に立つ男を見る。
全てが謎に包まれているこの場所に、この男に美海は恐怖を覚えた。
1歩下がると男も1歩前へ出る。
それを見て美海はもうだめだと思い、後ろへ下がるのをやめて、ベールで見えない男の顔を睨みつける。
美海なりの威嚇だ。
しかし、男はなにもしないでそのままそこに立っている。
もう、目の前に男がきてからどのくらいかはわからないがおそらく2、3分は経っている。
どうすればいいのだろうと思い美海は1歩下がる。
その瞬間、男はどこからか小型のナイフを出してきて一瞬にしてミウナの首元にナイフを向ける。
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