きっと泡沫。

えんがわなすび

五ヶ月

 窓から差し込む朝日に、私は目を細める。

 カーテンをひょいと持ち上げ覗き込むと、ちょうどすぐそばを小鳥が飛んでいくところで、その向こうに真っ白な雲が青空とコントラストを生んでいる。

 咄嗟に目で追うが、四角く切り取られた視界では、それはすぐに見えなくなった。

 目線を下に向けると、いくつかの頭がどこかに向かって歩き去っていく。

 通勤か、通学かだろう。

「あずさぁ~」

 そうやって窓越しに外を眺めていると、下から声が響いてきた。寝ぼけたように聞こえたそれに私は持ち上げたカーテンを抜け出し、とんとんと階段を降りていく。


 リビングに到着した途端また、「あずさぁ」と聞こえた声に内心溜息が出た。

 寝室を覗き込む。

 まだ少し暗い部屋の隅に置かれたベッドの上がもぞもぞと動き、掛け布団からはみ出た手が何かを探すようにシーツの上を彷徨っていた。

「なあに」

 こちらが声を出すとベッドの主は毛布にくるまりながら「ここ、ここ」と自分の隣をぽんぽんと叩く。

 隣に寝ろと言いたいのだろう。ベッドの主――彼はまだ寝るつもりらしい。

 仕方なく言われた通りに隣に潜り込むと、待ってましたと言わんばかりに掛け布団をばさりと被せられ、一気に彼の匂いに包まれる。ついでに体もぎゅうぎゅうと包まれる。

「ねぇ、もう朝だけど」

 一応抗議のつもりで言ってみたが、彼は素知らぬ顔で目を瞑っている。

 私はさっき見た窓越しの青空を思い出してまた内心溜息を吐く。

 どうせ私が何を言っても伝わらないし、結局後になって遅刻だ! って慌てるのは彼の自業自得だ。いつものことだなと、私は上げかけた顎を諦め、シーツにぽふんと寝そべった。


 数分後、頭上から聞きなれた電子音が鳴り響き、彼が慌てて起き上がる。

 毛布と仲良くしていた私はその動きで目が覚めた。

「やべっ、遅刻する!」

 何度も聞いたその言葉にあくびが出た。だから言ったんじゃないか。

 バタバタと室内を行ったり来たりする彼を横目に、私も水を飲みに立ち上がる。リビングへと足を向けた私に、慌てた彼が思い出したようにこちらに目を向けた。

「あっ、あずさ! おはよう。行ってくるよ」

 にっこり。

 どんなに急いでいても、出ていくときは目を合わせてそう笑う彼が、好きだったりする。

 とは言えないから、私はあくびでごまかした。

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