第6話 看病に来て大掃除をしてくれて見つけたDVDを全部持ち帰った!
朝、目が覚めたら6時だった。今日は土曜日だから目覚ましをかけないで寝たが、習慣からか6時には目が覚めた。解熱鎮痛剤が効いているのか、頭痛は治まっている。熱を測ると36.5℃の平熱に戻っていた。
お腹が空いているので、トーストとホットミルクの朝食をとる。本調子でないのでまた眠ることにした。
ドアチャイムの音で目が覚めた。11時だった。沙知が11時にまた来ると言っていたのを思い出した。玄関へ行ってドアを開けると土曜日の可愛いスタイルの沙知がいた。
マスクをしているが、メガネはかけていない。白いブラウスに薄茶色のベスト、同じ薄茶色のスラックスを履いているが、僕の好みだ。目のやり場がないくらい可愛い。やっぱりリクルートスーツよりはずっと良い。手にはレジ袋をぶら下げている。昨日と同じですぐに靴を脱いで上がってくる。
「おはようございます。調子どうですか?」
「頭痛はなくなった。朝、体温を測ったら平熱だった」
「油断しないで寝ていて下さい。父も油断していました。簡単なお昼ごはんを作ります。ごはんを炊きますので時間がかかります。できたら声をかけます」
そういうと、沙知はキッチンへ行った。僕は寝室に戻って横になった。キッチンから調理の音が聞こえてくる。結婚したらこんな感じかな? ふと思った。
「お昼ご飯ができました。胃に負担のかからないように親子丼とおみそ汁です。私も食べます」
その声で目が覚めた。やはり眠っていた。12時30分だった。座卓の上のどんぶりとご飯茶碗にそれぞれ親子丼、おわんとカップにそれぞれみそ汁が入っている。
「食器が一組しかないのですね。なんとか二人分を盛り付けましたが」
「仕方ないだろう。独り身だから、一組で十分だ」
「女っけがないのは良いとしても、男性って夢がないのですね」
「夢って、女子は二組持っているのか?」
「私は二組もっています。友人を招いたときに必要ですから。それに」
「それに」
「彼氏ができたら必要になると思いますので、まあ、夢ですが」
「夢ね、現実になるといいね」
「あまり期待していません。冷めないうちに食べましょう」
沙知は照れたように黙ってご飯茶碗に盛り付けた小盛りの親子丼とカップに入れたみそ汁の味を確かめながら食べている。
親子丼は鶏肉と卵がほどよい柔らかさで味付けも出汁が効いていておいしい。お味噌汁も具がたくさん入っていておいしい。店で食べているのと同じくらい、いやそれ以上かもしれない。
「すごくおいしい」
「よかった。近くに親子丼のおいしい食堂があるので、それをまねて作りました」
「料理が上手だね」
「まねをしているだけです。それから、夕食に焼き鳥丼のたねを鍋に作っておきましたので、どんぶりにご飯を入れてそれを載せてチンしてください。お味噌汁もあります」
「焼き鳥丼定食だね、楽しみだな、ありがとう」
食べ終わったら、沙知が後片づけをしてくれる。僕はソファーに座ってそれを見ている。片付けが終わるとこっちへ来た。
「着替えをしてください。汚れた下着は健康によくありません。洗濯と掃除をします。空気を入れ替えますので、窓を開けます」
そういえば、昨日は着替えをしていなかった。寝室へいって着替えをした。上下のジャージも別のものに取り換えた。沙知はたまっていた汚れものと一緒に洗濯をしてくれた。全自動だから乾燥までしてくれる。
「掃除機はありますか?」
「クローゼットにハンディ掃除器があるし、クイックルもあるけど」
「拝借します。ベッドで横になっていてください。すぐに終わります」
そういって、バスルームへ入っていった。僕はベッドでその様子を見ていた。しばらくするとバスルームの掃除が終わったようで、今度はベランダのガラス戸を開けると掃除機を使い始めた。
床や敷物の掃除が終わると今度は座卓やパソコン机、本棚の上を拭いてくれている。本格的な掃除で、僕から見たら大掃除だ。
テレビの台も拭いてくれている。中にほこりがたまっていると思ったのか、開いて中味を取り出した。そこはだめだ! 遅かった。
「キャーいやだ」
迂闊だった。テレビ台の下にはDVDプレーヤ―がセットしてあり、AVのDVDケースを20枚ほど入れていた。AVはかなり前に通販で買ったものだった。近頃はパソコンでHDにダウンロードしているので忘れていた。
「見られてしまったか。しょうがないだろう。これでも健康なおじさんだから、見たい時もあるさ」
開き直るしかない。それでも沙知は中をゆっくり拭いて、また元のところへしまってくれている。
「カバーを見ただけですが、内容がすごそうですね」
「見たことあるの?」
「学生の時に女子の同級生の下宿へ行ったときに、見せてもらったことがあります」
「どうだった」
「恥ずかしくてよく見ていませんでした。それに肝心なところがぼやけていたし」
「よく見ていたんじゃないか。それなら貸してあげようか?」
一瞬、驚いたように僕を見た。余計なまずいことを言ってしまった。これは完全な『セクハラ』だ。困ったな。しばらく間があった。
「貸して下さい。勉強のために」
「ええっ」
「恋愛の勉強のために見ておきたいと思いますので、貸してください」
「いいけど、どれがいい」
「お勧めはありますか?」
「お勧めといっても好みというか、趣味があるからなあ、選ぶのは難しい」
「それなら、全部貸して下さい」
「ええっ全部?」
全部みたら僕の趣味が分かってしまうからまずい。
「全部貸して下さい。お願いします」
「そうまでいうなら全部貸そう。いろいろなタイプがあるから参考になると思う」
まあ、成り行きでこうなった。沙知のためになるならばしかたがない。「セクハラ」だと言われて嫌われなくて良かった。
「ありがとうございます。勉強します」
「それじゃあ、10枚ずつ束にして紙で包んで紙の手提げバッグに入れて帰ったら良いと思う。人に見られるとまずいから」
「そうします」
沙知は包装紙で丁寧に包んで紙の手提げバッグに入れていた。それからはにかんだ様子もなく帰り支度を始めた。
「DVDプレーヤーはあるの?」
「映画のDVDを借りて見ているのであります」
「これで帰ります。明日の朝、10時ごろに電話します。まだ、熱があるようだと、またお昼ご飯を作りにきます。良くなっていれば遠慮します」
「ありがとう。気を付けて帰って、インフルエンザがうっていなければいいのだけど」
「大丈夫です」
そういって、沙知は帰っていった。良い娘だ。
その晩、夕食に準備してくれた焼き鳥丼を食べた。これもとてもおいしかった。そのあと熱を測ったら、37℃あった。お風呂に入りたかったが、やめてすぐに眠った。
翌朝、体温を測ったら平熱だった。10時に沙知から電話が入ったので、体温が下がったから大丈夫だと伝えた。それで今日は来ないことになった。まあ、ゆっくりDVDでも楽しんでくれ!
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