薔薇と灰色の海賊

春野田圃

プロローグ

 「あの島はなあ、お天道様に嫌われちまったんだよ。気味が悪い島だ。決して近づいちゃならねえぞ。」

ソルクダンカの港町、賑やかな酒場の裏路地でビール瓶片手に酔っ払いの男が猫に向かって説教している。痩せこけたその猫は男に向かって一声威嚇すると暗い路地裏の細い道へと消えていった。 

 オーブスト島といわれる小さなその島は、島全体を覆い尽くすように厚く、深い霧に包まれていた。島の人々は昔からその霧を守護のべールと呼んでおり、『この霧が裂ける時、この土地には災厄が降りかかるだろう』という古くからの伝えを信じていた。

 島の海岸から数十キロ離れた辺りにはいくつかの島が点在しているが、島間の半分あたりまで深く重い霧で覆われている。そのため、島に近寄る者はほとんど無く、島にたどり着くのは屍をのせて漂着したボートか、数年に一度やってくる物好きな商人だけであった。商人たちのお目当ては、オーブスト島の真ん中辺に聳え立つ高山で採れる珍しい鉱物などであった。しかし、病んでしまいそうなほど重苦しい霧であたりはどんよりと暗く、島民たちもよそ者を歓迎していなかったため、小さな港で商品と金銭の取引をちゃっちゃと済ませ足早に島を後にするのだった。そしてその島には同じ商人は二度と来なかった。

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