第6話 和美のヌード
4回目のデートで互いに触れるのは、これが初めてである。
車では、シフトレバーが彼女との隔たりだった。
ドライブインや浜で、イチャイチャするほど無神経になれない。
若い男女にとってひとつの部屋にいると言うことは、その壁を取り除く。
下ネタの話題に深入りするように、俺はたたみかけるように答える。
「それで、そのジャージで誰もいない家に俺を入れて、俺がそのジャージ脱がすのか?」
彼女は少し静かになり、語るように答える。
「別にいいじやん、人が何着ようが。脱がせたかったら脱がせ!スケベヒロシ!」
これを言い、平静を戻すかのようにまた、彼女が答える。
「あのね、わたしバイク乗るでしょ。ジーンズ
この答えでスカートのことが気になったので、聞いてみた。
「そう言えば、和美のスカート姿見てないけど、スカート着ない派なの?」
和美は少しあきれ気味に答える。
「着るよー。職場でまでジーンズで行けるか!でも、普段はジーンズだね。言われてみれば、私服のスカート買った覚え無い。学生服と職場だけだね」
この話題を彼女に聞いたのは、俺の学生時代に女子生徒の制服がスカートなのか、ほぼ全員スカートだったが、かたくなにズボンを穿いた人がいたからだ。その彼女は制服の下はいつもズボンだった。私服も当然ズボンだった。
そんな疑問を和美にぶつけてみたのだ。
話が下品になったが、彼女に対し押さえがたい欲望があったわけでない。
まだキスもしていないので、ジャージを脱がすことは無いだろう。
それなりに気を使っていたし、少し緊張もしていた。
そのスカートの話が、彼女も気になるようだった。そして言う。
「お前、わたしのスカート姿見たいのか?」
俺はちょっと、はっとした思いになった。和美が他の服装をしたとすると、と言う考えはしたことがなかったからだ。
「あ~あ。バイクに
和美は照れながら、ムッとする。そして答える。
「なんだ、お前、考えて無いのか。で、見たいのか、見たくないのか?」
この答えに少々戸惑い、答えた。
「見た…い。けど、スカートの着替えるのか。ここで…」
話しながら和美のパンティー姿を想像してしまった。脳裏にそれがあるのを、見透かしたように和美は答える。
「お前はスカートよりジャージ脱いだところを見たいんだろ?」
冗談めいてすぐ答える。
「そうだよ!」
そして声を上げて笑った。
実際のところ、男の子にとってそれは本心だった。好きな女の子の、はだける姿を見たくないなんて嘘だろう。
しかし、まだ緊張の解けていない俺は、そうさせようとしなかった。
そこでまた、冗談で言った。
「できればミニスカートが良い。できるだけ短いの」
和美は答える。
「ちっ。男はみんなそんなんだね。ミニも何も制服しかないもん。高校の制服で良ければ着替えるよ」
俺は、夜も更けたので、帰ることを頭に置きながら答えた。
「うん、まあ着替えは良いよ。スカート買ってない人が、ミニなんてあるわけないのはわかってるよ」
そう言う俺の言葉をさえぎるように、和美は答える。
「ちょっと待ってて、高校時代の制服出してくるから」
夜は9時近くになった。もう彼女の家族も帰って来るだろう。
そろそろイチャイチャとしていられない。断ろうと口に出す。
「いいよ、もう」
彼女はこの言葉を無視して部屋を出、一階へ降りて行った。
しばらくして戻って来ると制服を手にしていた。
セーラー服の制服の学校もあったが、和美のはブレザー服だ。
俺の目の前で着替えるつもりだ。
和美は言う。
「着替えるから、後ろ向いて、目つぶってよ」
俺は答える。
「マジかよ、まったく」
和美の部屋は広くない。ベッドを置いて、デスクにオーディオも本棚があるので、ベッドの右側にいる和美に背を向けると、本棚の直前に立つことになる。
彼女に背を向けようとすると、躊躇いもせず目の前でジャージを脱ぎ、ベッドに放り出した。
俺はその姿に見とれていて呆然と立ちつくした。
彼女は俺の目線を当然の事のようにとらえて、話す。
「わたしでも裸良いかな?エヘッ」
白のランジェリーの上下姿と、思ってるより白い肌が印象的に目を奪う。
少々青みがかっているが、全体的に彼女の自信無さげな態度と対象的だ。
体格については普段と同じイメージだ。
控えめの胸と、ちゃんとしたくびれから、なだらかに腰が大きくなる流線型、太ももは太いが足は、下に向かって細くなる。
「こらっ!何じろじろ見てる、制服着ない方が良いか?」
心の底から弱々しく答えた。
「綺麗だよ。本心に」
和美は茶目っ気まじりに言う。
「じゃあ、どうすんだよ。ブラもパンティーも取るか?」
さすがに帰宅の事を考えるとそうもいかない。全裸ヌードになるのに、彼女はさほど自信がなさそうな気がする。
彼女のうっすらと身体を覆うかすかな脂肪が、時々揺れるような気がする。
これが、人に見られる事によって、何となく震えて見える。
和美はランジェリーのビキニ姿のまま、ジャージも制服も着ようとしないで言う。
「どうなのよ、お前の好きなエロ本の女と比べて?」
図星だった。しかし、その神秘的な輝きを放つ彼女の素肌にすっかりと魅了されて、力も抜けていた。
ぼーっと立ち尽くす俺を見て、また挑発的なことをしようとする目をしはじめる。彼女の目がギラギラ輝いている。
エロ本と言ってもグラビアの女性に入れ込んだことはない。グラビアの雑誌は当時印刷が悪く、それほど印象に残っていない。テレビの方は白黒だ。目前に立つ実物の女性は現実では、こんなだと思い知らされた。
タレントのように堂々と人前で平然としていられる、それでない。
もうすっかり、その人の人格に捕らわれての実物の女性が、自分の手に入る位身近な存在になったのだ。
何か感動的な気分にもなり、胸に熱いものを感じはじめた。
エロ本の事を女性に言われて、まだ恥ずかしい思いもあるが、彼女が実物のエロ本になれてくれたわけではないが、答えた。
「エロ本か、ただの紙切れだしな…」
彼女が言う。
「それに、ムラムラ~っとしてか?」
俺が答える。
「そうだよ、妹さんの事知ってるなら、わかってるだろ」
気まずいと思ったが、ここでこの話題を突き付けた。
「ところで、和美はどうなの。サイモンみたいな彼氏いたのか?」
和美の目がギラつく。そしてこの話題に怒ることも無しに答えた。
「彼氏か、いたらどうする。今も。フフフ…」
俺は言い返すように答える。
「彼氏いて、俺の前で裸になるのか?」
彼女は当然の事のように答える。
「いるわけねえだろ、恵子じゃねんだ。いてお前を家に入れるわけねえだろ」
言葉は乱暴だが、口調は穏やかに少し低い声でいつも話す。これが、はだけながら話すのだから、妙な感覚になる。
そしてまた俺は問い詰めた。
「今はだろ?」
冷やかすと彼女は怒る。
「うるせーよ。この
と挑発的に彼女が言った。
映画でもそうだが、年若いものが付き合う異性に嫉妬を抱くというのは、よくある事だが、この時は和美の過去はどうあれ、彼女を本気で受け入れるという気でいた。
もともと俺が嫉妬を抱かない質なのか、和美が一歳年上だからなのか、不思議なほどそれが障害にならないようだった。
これが愛と言うもののなせるものなのか、何なのかわからなかった。
だから、彼女がこんなランジェリー姿になると言うことに躊躇せずになるというだけ、過去にもそういう行動をとって来たのだ、としても構わなかった。
妹の恵子が遊び人なら、なおさらその血を引いているだけに。
和美は俺にとってそれだけ、美貌と魅力と趣味の合うという存在だ。
俺は、和美の存在そのものが尊いことを知ったのだ。それについて答えた。
「まあ、和美ちゃんが彼氏いたとしても、いなかったとしても別にいいんだよ。ずっと付き合おうよ」
少しきょとんとして和美は答える。
「何よ、急に、悟りを開いたじいちゃんみたいに。和美ちゃんって、ちゃんだって…
たから、男の人の前でブラだけになるの初めてなんだよ」
俺もこれを聞いてきょとんとなった。しかし納得のいくことだった。
それは肌を晒した時の青ざめた感じのと、少し震えて見える肌の感覚で伝わって来たのだ。
驚いたことは、なぜこんなに魅力的な女性が俺の目の前にいると言うことだ。俺はいわゆる今の言葉で言うと、イケメンでもなく、カースト上位の者でもない。
地味でどうでも良いクラスの存在で終始していたからだ。
母が驚いてしまう程可愛いというのも本当だ。親切にされたらと舞い上がったかも知れないが、彼女が自分の通っている高校のクラスにいれば、カースト上位のクラスの女子になっていたかも知れない。
俺は続ける。
「和美が俺のクラスにいたら、モテて大変だと思うよ。その位の女子は何人かいたけど、俺は相手にされなかった」
彼女が答える。
「わかるー、ヒロシの地味な顔見てたら女子も
俺はムッとして答えた。
「うるせーよ。存在感無いって、何度言われたかわからん…でももういい時間だよ、誰か帰って来るだろ。もう服着たら」
裸の女性と雑談している様は奇妙なものだが、それだけに互いの壁もなくなって来た。
存在感が無いと言われたこの俺を救ったのは、趣味の話題だった。
人はこんなつまらないことで何らかの利を得ることもあるものだと、そして言った。
「じゃあ、学生服姿になって見てよ。裸も可愛いけど、高校生姿はどうなんだろ?」
「わかった、着る?制服カビ臭くないし、大丈夫みたい」
ブレザー姿の和美に、また少し驚いた。21歳という年齢もあるだろうが、自分の見てきた女子高生に、これだけの姿の人はあまり覚えがなかったからだ。
どちらかと背の高い女性に惹かれ気味だったが、背の低い和美の姿は、あの田舎女子高生の洗練されていない感じはなかった。
「どうよ、わたしのスカート姿は?ヒロシのクラスにいたらモテた?」
「モテた、モテた。保証する。」
その後学校の話題になったので、卒業アルバムなんかを見せてもらって夜が更けていった。
彼女の個人のアルバムも見せてもらったが、男性の存在を匂わせるものがなかった。
彼女の10代の頃の姿は、今のそれとずいぶん印象が違う。地味で田舎臭く、いわゆるイモな感覚に満ちた、ごく普通の女の子のものだ。
さすがに、写真を見て推測しても、彼氏のいない事に納得させるものがあった。
短期大学の時代となると、さすがにこのイモ感覚から今の甘い外見になりつつある。
バイク乗りはこの頃、4輪自動車だと金がかかるので、中型免許(今で言う普通自動二輪車免許)を取ったとのこと。
社会人になるのに人生設計や、会社での職務に奔走して大人の女性になっていったのだろうか。
後に、これは大きな誤解だとわかるのだが。
こんな兄弟のような会話のやり取りをしながら、夜も更けたので、この日はお開きにした。
夜はもう11時をまわっていた。
和美は食事の心配は無いと言っていたが、そのまま帰宅した。でも、一体夜の11時にも帰宅しない親族とは何なのだろう。
この、あっけない帰宅に、和美の不満は溜まっていくのだった。
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