女神の勘違いでTSされた男子高校生は男へ戻るため人気スクールアイドルを目指す。

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 女神


俺、佐藤さとう ひびきは、この17年余りの人生において、未だ嘗て経験したことの無い程の恐怖を感じていた......それは何故か?


「さあチートスキルを授けましょう!」


突如眼の前に現れた見知らぬ美人が、急にそんなわけのわからぬ事を言い放ったからだ。


「チ、チートスキル......?」


困惑しながらも俺は聞き返す。すると、見知らぬ美人は「はい!」と柔らかな笑みを浮かべた。何度も言うがこの女性は見知らぬ人である。これまで会話をしたこともなければ、遠目にも見かけたことすら無い。


なのに何故この人は親しげに話しかけてくるのか?答えは簡単だ。ちょっと考えれば誰にだってわかる。


これは、新手の宗教勧誘か詐欺。間違いない。俺は何かしらの方法で拉致られたと考えて良いだろう。


気がつけば居たこの部屋。周囲に扉一つない白い壁紙に四方を囲まれたこの空間からは、こそらく入信、もしくは契約を結ばなければ出られない。


多分、そんなところだろう......怖すぎる。


しかし、なんなんだこの手の込み様は。これはおそらくドライアイスだろうか、足元が見えない程の煙が溢れ部屋の白い壁と相まって神秘的な雰囲気が出ている。多分、俺の平常心を奪い冷静な判断をさせないための演出なのだろうか。


演出といえば、あの謎の美人。すげえ格好してるな......雪原のように白いドレス、童話やアニメに出てくる女神のような出で立ち。純白の長い髪、瞳の碧、グラビアモデルもビックリなスタイル。

あんなのが俺に近づいてくる理由なんて、勧誘か詐欺、もしくはドッキリ以外にないだろ。だがあいにく俺は駆け出しの芸人でもなければ、ドッキリを仕掛けてくる友達すらいない。よってこれは勧誘か詐欺だ。


いやもはやそんなのはどっちでも良い。とにかく、どうにかしてこの部屋から逃げ出さないと......どこに出口があるんだこの部屋?そんな事を考え、目だけを動かし周囲を確認していると彼女は小首をかしげた。


「チートスキル......って、あれ!?もしかしてわならないですか!?やだなぁ!異世界転生の鉄板じゃないですかぁ!あ、もしかして興奮して混乱しちゃってます!?」


ずいずいっと俺の間近まで寄ってきた美女。何故か鼻息が粗い。俺は一歩さがり、首を振った。


「いや、意味がわからん!つーか興奮してるのはお前だ!」


初対面だが、多少高圧的に切り返す。なんせ拉致をするような輩だ、強気な姿勢を見せたほうが良い。確固たる意志で、これからされるであろう要求を拒否をするために。


「お、お前ぇ!?私、かーみぃー!お前なんて呼ばないでよぉ」


「フン。......俺は神なんて信じない」


「そんなの別にいいけどさぁ、多様性の時代みたいだし?でも初対面の女の子をお前って呼ぶのはどうなの?」


むくれた表情を浮かべる自称女神。


「え、あ、ああ......それは、すまん」


「はわぁ!素直ー!その表情ちょー可愛い!!」


「はぁ?......ひょっとして、からかってるのか?」


「からかってないよ!ほら」


パチンと指を鳴らす自称女神。すると目の前に縦長の鏡があらわれた。いやどうなってんだよ。


てか、え?


「だれ、これ」


鏡に写っていたのは息を呑む程の可愛らしい美少女だった。透き通る月光の様に白い肌、深い夜のような黒髪は腰まで伸びていて、その上を光が流れるかのような滑らかな艷。

そして、目を引く特徴的な鋭い眼。目尻がつり上がり気が強そうな雰囲気のかる目だが、しかし、整った顔立ちがそれすらもチャームポイントとして愛らしいものへと昇華させている。俺もツリ目なのだが人によって受ける印象がこうも違うものなのか。


「......可愛い......」


思わずこぼれ落ちる言葉。この緊急事態をすべて忘れさせる程の美しさだった。思わず見惚れ、あまりの可愛さに俺は目が離せなくなる。すると女神は「でしょー!?だから可愛いっていってんじゃん!」と俺の肩を軽く小突いた。なんだろう、なんかイラッとするこの自称女神。


「はっ.....!って、いや待て待て!誰だこいつは!?」


「え、響くんだけど?」


あっけらかんと不思議そうにいう自称女神。いやその表情お前がしていいやつじゃねえから!


「いやいやいや!!なんで俺が女になってるんだよ!!?」


「え、そりゃ転生特典のTSプランに加入したから」


「勝手に加入すんな!」


「でもさっき端末のパネルの了承ボタンにタッチしたでしょ?」


「してねーよ!?」


その時、自称女神の笑顔に不穏な陰りが見えた。


「し、してたわよ、ほら思い出して?ここに来た時に『どうせやるならムサイ男より可愛い女の子だよな!』って言ってたでしょ」


「いや、なんだそのゲームで女キャラ作る奴みたいなセリフ!?言ってねーよ!記憶を捏造すんな!!」


これが漫画であれば彼女の背後に『ぎくぅ!』という擬音が間違いなく出ているだろう。女神なのに平然と嘘つきやがって......こいつ、間違いなく何か勝手に進めやがったな。少なくともTSプランとやらに加入させやがったのは間違いない。


「え、あーはは......えっと、あれ?ミスっちゃったかなぁ、これ。でもでも、あたしちゃんと調べたんだけどな。ほら、このカ◯ヨムってノベルサイトでもさぁTSが人気だって」


「なんでWEB小説基準なの!?」


「え、みんなラノベ好きでしょ?」


「みんなってどの範囲でのみんなだよ!?......こいつ、いかれてやがる」


「ま、まあ、もう仕方ないですし異世界へ案内しますね」


「仕方ねえってなんだ!って、は?異世界に......?」


その時、女神は表情が陰った。彼女の落ちた視線は、これから何か深刻な話を聞かされる事を俺に予感させた。


「記憶が混濁してるんですね。まあ無理もありません。あなたは現世で子供を助けようとし、トラックに轢かれたのです。肉体を失い魂の状態になってしまったあなたはもう異世界に転生し新たな体を手にするしかなく」


「ちょ、ちょっとまて」


「知らない異世界へ行くのが不安なのはわかります。でも大丈夫、記憶は失われません。記憶保持はプランのサービスに含まれ......いでっ!」


あまりにも人の話を聞かないので、つい女神の額に軽くチョップをしてしまった。彼女は額をさすりながら恨めしそうにこちらを睨む。


「なにするんですかぁ!ってーなぁ!」


「お前が人の話聞かねえからだろ」


「だから!お前って呼ぶのやめてってぇ!」


「あ、わりい......いや、それはそーと俺はトラックに轢かれた覚えなんてないぞ」


「え?ああ、ショックで記憶が飛んでいるのですね。では映像を確認していただきましょうか。このまま駄々こねられても困るし」


いちいち苛つくなこの女神!?


そう言うと彼女はまた指パッチンで大きなモニターを出した。これでゲームしたら迫力あるだろうなぁ。


そこに映し出されたのは確かにトラックから子供を助け轢かれている男だった。衝撃的な光景。


「嘘だろ」


「......これが真実です」


先程までのいかれたテンションが消失し、至って真面目な雰囲気の女神。彼女の表情が慈しみへと変わり、柔らかい口調でなだめるようにこう言った。


「あなたはご立派でしたよ。小さな命をすくったのですから。胸を張って異世界へ行きましょう。そこで大冒険を繰り広げるもよし、現世の知識で無双するもよし、あ、でも今ならあまり目立たずスローライフっていうのがオススメですかね」


「いや何いってんだお前、これ俺じゃねえだろ。轢かれてんの」


「いや、だからお前って呼ばないでって言ってるじゃないですか!って......え?」


顔を見合わせる俺と女神。映像を再度確認した彼女の笑顔は凍りついていた。


「......マジ?」




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