鎮魂 (セブンデイズチャレンジ企画2)

帆尊歩

第1話 地図に描かれた絵

あの子を看取ったのは、国境の町だった。

まだ三歳だったのに、どうすることも出来なかった。


国同士が行っていた戦争なのに、戦況が一変した途端、私達は憎悪の対象となる。

私が何かをしたわけでもないのに、占領軍の兵士達が好き放題をした。

略奪、レイプ、面白半分の殺人。

それらの憎悪の対象は、そのまま私達民間人に降りかかる。

現地の人達を、かくまったりした事もあるのに。

敵軍が反転攻勢を仕掛けるという事で、私達民間人は、住んでいた街から、街単位で国へ戻る旅に出た。

その旅は過酷で、命の危険と隣り合わせの旅だった。

グループには、子供から老人までがいたけれど、そういう人達を助けて上げられる余裕は、元気であるはずの私達にもなかった。

一人また一人、力尽きて死んでいった。

でも何も出来ない。

その場に埋葬する程度のことしか出来なかった。

私の目の前で、息を引き取ったあの子も同じだった。

泣く余裕すらなかった。

死んだあの子を連れて帰る事は出来なかった。

だから、道ばたの少し高くなった丘にあの子を埋葬した。

無事に国に帰れたのは、ごくわずかな人達。子供と高齢者は誰もいなかった。

仲の良かったお隣さんも、世話好きのおじいさんもいなかった。

私の家族では、私だけ。

国に戻って、お墓は作ったけれど、あの子はここにはいない。

私の手に残ったのは、お絵描きがしたいと駄々をこねるあの子に渡した唯一の紙。

この地図だった。

あの子が地図に描いた熊さんの絵が、あの子の唯一の痕跡となった。

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