この国は平和になったので、私は必要ないそうです
「お前を隣国にやることになった」
「急なお話ですね。それはいつですか」
「明日だ」
「明日!?」
さすがに急すぎる。
「さすがに時間がなさすぎます」
「向こうも早く聖女が欲しいようでな。早く早くとせかされているのだ。お前の準備を待つ時間はない」
「しかし、次の聖女候補がまだ……」
「それには心配及ばない。…マリィ」
「はい。殿下」
やってきたのは、元男爵令嬢、マリィ・ゴールド。今は教会に入って聖女候補として勉強に励んでいるようだが、まさか彼女を次の聖女候補にすると考えているのだろうか。
「マリィはまだ候補生ですよ。しかも成績がふるわない…」
「黙れ!いつからお前は王族に口出し出来る立場になった」
「聖女は、例外として王族と同等の権利を持っていますので」
「それが気に食わないのだ!なぜおまえのような一般人が俺たちと同じ立場になれるんだ!俺と同じようにお前の存在を不満に持つ人間は山のようにいるぞ!」
「はぁ…まぁそうですか」
「なんだ、その気の抜けた言葉は」
だって、そういうしかないじゃないですか。
私の存在が、元平民という肩書が気に食わない人間が少なくないのは知っていたが、一応、国の盾という立場にいるのだ。王族と肩を並べても不満に思わないでほしい。
国がなければ、王族もなにもないのだから。
「マリィも男爵令嬢ですのに、彼女が聖女になっても不満はでませんか」
「平民よりましだ」
「はぁ…」
「よって、お前を隣国にやることになった。向こうは聖女が急死してしまったそうでなぁ。お前をやると言ったら喜んでくれたよ」
「さぞかし謝礼をたくさんもらったんですねぇ」
王子はこれに答えない。
それか。強気の態度は。
これじゃあ王様のほうにも期待することはできなさそうだ。
「まぁ、聖女が必要だというのであれば、どこにでも行きますよ」
「話が早い。安心しろ。お前に必要なものは全部向こうが用意してくれるらしい。迎えの馬車も来ている。さっさと行け」
しっしと虫を払うようなしぐさに私は肩をすくめた。
「しかし、候補生で大丈夫ですか?向こうに行ったら私が手伝えることなんて何もないですよ」
「この国はずっと平和だった。それはこれからもだ」
「一応、私が維持してたんですけどね」
「まぁ、礼くらいは言うさ。感謝感謝」
「言葉が軽いですね…」
「お前の代わりなんていくらでもいるからな」
そういえば、引っ越しなんてしたことなかったなぁ。
隣の国にも行ったことがないし、どんなところなんだろうか。
この国よりも大きく、豊かと聞いている。
「こんな失礼な国、こちらから願い下げですよ」
「二度とこの国の敷居を跨がせないからな」
王子と話したのは、これが最後でした。
それから半年。
私は、隣国に喜んで迎えられました。
元住んでいた国に比べれば、破格の待遇です。これは私も調子に乗ってしまいます。
「あの国から救助依頼が来ている」
「半年もちませんでしたか」
「どうする?」
「でも、私向こうの国の敷居跨がせてもらえないんですよね」
「そうか。ならしかたないな」
「ええ。しかたないですよ」
あの国は、それから少しの時間も経たずに、瘴気の渦に飲まれた。
国民はほとんどがやられたそうだ。
私は少ししてから、あの国を訪れ瘴気を晴らし、魔物を倒し続けること数年。
ようやく人が住めるようになり、隣国の土地を広げることに成功した。
「これで、この国の敷居をまたぐことにはなりませんね」
私は、誰もいない玉座にそうつぶやいた。
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