徳川千本桜 ~護るクイーン『罪』~
居石入魚
第1話 女の子と僕
「貴方が徳川康平ね!私と勝負しなさい!」
なんてセリフをツンデレな美少女から本当にリアルで聴いたら人間どうなるのか。
僕は今、それを思っている。
健全な男子ならばツンデレ女子に憧れた事が一度は在ると思うのだが、リアルでツンデレ女子と出くわした場合、感じるのは単に苛々だけではないのだろうか?
悪口を面と向かって言うし。
諭しても言うこと聞かないし。
何より、初対面だ。
嫌われる理由は沢山あるけど、係わりの無い人間から嫌われる謂れも無い。
僕は蕎麦を茹でようと思い、長ネギが無い事に気付いて八百屋さんに行って来たのだ。
八百屋さん帰りの男子高校生に勝負を挑む。
全く、この子の親の顔が見てみたいもんである。
「…あの。何処かで、お会いした事ありましたっけ?」
「いいえ。初対面よ!でも私は貴方の事を知っているわ!」
「…あの。長ネギ買ってるだけの男子高校生なんかを御存じなんですか?」
「私は英霊〈ジャンヌ・ダルク〉を宿したわ!貴方は〈巷で話題の紅い武者鎧の神人〉と世間に持て囃されるじゃない。だけどこうは考えられない?日本という小さな島国の英雄が貴方の器なのだと。私は宿すべくして聖女を宿したのだと。世界中の人間が知るメジャーな英霊と、この国でしか知られないマイナーな英霊。果たしてどちらが強いのかしらね?さっさと長ネギを置きなさい。勝負よ!〈巷で話題の紅い武者鎧の神人〉!」
面倒くせえな。
早々にご退場願おう。
「はい、どっこいしょー」
「グルペッコドッキョラエンオイアエーンム⁉」
村正・籠釣瓶で袈裟切り。
チーン、と。
何処からともなく聴こえた。
ジャンヌ・ダルクを宿すとかいうツンデレさんはジャンヌ・ダルクを宿すとは思えない面白断末魔を上げて神降ろしの耐久度がゼロになった。めでたくこうしてバチバチと火花を飛ばして短絡しているのだが、一体なんだったのだろうか?
僕はそんなに有名ではないし、有名だと人斬り稼業が出来なくなるので困るのだが_。
有名になんかならなくて良いし、なったら困る。
人気商売じゃないし、剣客商売だし。
取敢えず、倒れた女の子のツインテールを思いっきり引っ張って顔面をパッツンパッツンにしてその辺の街路樹に髪の毛を結んで縛っておいた。道行く人々は恐らく彼女を視て助けようとはしないだろう。
笑うか、引くか。
僕は大半の市民が前者だと踏んでいる。
さて、帰って長ネギを刻んだら大根おろしも作らにゃならん。
つゆは既に本返しを仕込んであるので、濃いめの本返しを大根おろしで割ればいい。
山形県にはそうやって食べる超人気店のお蕎麦屋さんがある。
自宅で作る場合は麺つゆにザラメと出汁の素を多めに入れて煮立てて冷ませば良いだけだ。
その濃いめの本返し風の麺つゆは煮物にも使えて便利だし。
氷水で割れば美味しい素麺になるし。
ウドン入れて鶏肉とゴボウと卵を加えて蓋をして煮込めば美味しい鍋焼きウドンだし。
けど、お昼は蕎麦なのだ。
誰が何と言おうとも。
お天道様が蕎麦食いてえって言ったから。
「其処の貴方?徳川康平よね?どうかしら?私と勝負しない?」
会話文に疑問符は原則一つにしろと。
説教したくなるようなツンデレ美少女がまたやって来た。
さっきの少女は髪をツインテールにしていたが、今度はポニーテールの女の子だった。
なんなんだろうか?
ツンデレとは、創作の中でしか存在してはならないのではないだろうか?
面と向かって悪口を言うし。
諭しても言うこと聞かないし。
何より、初対面だ。
嫌われる理由は沢山あるけど、係わりの無い人間から嫌われる謂れも無い。
僕は蕎麦を茹でようと思い、長ネギが無い事に気付いて八百屋さんに行って来たのだ。
八百屋さん帰りの男子高校生に勝負を挑む。
全く、この子の親の顔が見てみたいもんである。
「…あの。さっきも似たような事があったんですけど。あそこでパッツンパッツンになって気を失ってる御方、もしかしてご友人ですか?」
「あんなパッツンパッツン女なんか知らないわよ。私は貴方に用があるの」
「…僕は貴女に何の用も無いんですが…?」
「これから貴方から私に用があるようになるわよ?私の神降ろしは〈イシュタル〉。英霊でしかない九郎判官義経を宿して私に勝てると思ってるのかしら?だって女神を宿す人間は女神其の物だと思わない?ならこれから私は現人神として振舞って行かなくちゃならないわよね。ただの人間が祀られて信仰対象になったような存在とは違うの。神なのよ、私は。人間とは違う。人間でしかない〈巷で話題の紅い武者鎧の神人〉さん?女神である私の力、知りたくなくて?人間、私に通用するかしら?人間?」
ツンデレってか嫌味なお嬢様系女子だった。
しかし、そういうキャラクター枠は大奥の油壺先輩で埋まってる。
それにこの人より油壺先輩の方がずっと美人だしずっと巨乳だ。
早々にご退場願おう。
「はい、どっこいしょー」
「ンーゲンゲニンゲンニンゲンゲンゲーン⁉」
村正・籠釣瓶で唐竹割り。
チーン、と。
何処からともなく聴こえた。
イシュタルを宿すとかいうツンデレさんというか嫌味なお嬢様はイシュタルを宿すとは思えない面白断末魔を上げて神降ろしの耐久度がゼロになった。めでたくこうしてバチバチと火花を飛ばして短絡しているのだが、一体なんだったのだろうか?
有名になんかならなくて良いし、なったら困るのだ。
人気商売じゃないし、剣客商売だし。
それ以上に、こういう変なのが寄って来るから。
取敢えず、倒れた女の子のポニーテールを思いっきり引っ張って顔面をパッツンパッツンにしてさっきの女の子の隣、つまり同じ街路樹に髪の毛を結んで縛っておいた。道行く人々は恐らく彼女達を視て助けようとはしないだろう。
笑うか、引くか。
僕は大半の市民が前者だと踏んでいる。
本当に今日は如何したんだろうか?
女難の相が出ているのはいつもの事だが。
幕府娘がいるし。
しかし、他校の女子から喧嘩を売られるというのは流石の僕でも未体験ゾーンだ。
いや、違うな。
学連の会議に出れば喧嘩を売られるわけだから、必ずしも未体験ゾーンではないわけか。
この前の事件。
事件というか、なんというか。
上杉さんが大奥の生徒になってくれた、あの騒ぎ。
あれからずっと、僕は女子に喧嘩を売られ続けてるわけか。
徳川千本桜は物語が終わった後の後日談から始まる方式だけど。
今回に限っては、まだ終わってねえモンな。
早く蕎麦茹でてお天道様に食わせないと。
へそを曲げたら僕の家が破壊される。
「見つけた!徳川くん!私と勝負しなさい!」
これは聴き慣れた、澄んだ声だった。
耳にするとシャキッと背筋が伸びるような。
お姉さんって感じの、折り目正しい声というか。
そりゃ毎日聞いてりゃ、覚えるってもんだ。
「もう上杉さんさあ、僕の事は放っておこうよ…?こうして大奥の生徒になったんだしさ……?」
「生徒会長の貴方がノンベンダラリとしてるから信条館の空気が弛緩してるの!構えなさい!」
「あ、これから平坂と一緒に蕎麦食べるんだけどさ。上杉さんも一緒に如何?」
「うっ……。プロ級の徳川くんの料理は食べたいけど…。食べたいけど。そういうところだよ!」
「だって武田ちゃんは倒したし、祟りも出てない。もう上杉さんと戦う理由もない。ほら、それに上杉さんって山形県出身じゃん。今から作るの、山形で人気の蕎麦になるからさ?」
「兵糧攻めとは卑怯也!じゃあ食べる!食べてから私と勝負しなさい!あ、ゲソ天も付けて衣バッキバキのやつ!」
「確か、その超人気店って漬物が食べ放題なんでしょ?」
「山菜のお漬物も美味しいけど、私はニシンの煮付けこそを食べて欲しいかな」
「ワラビのビール漬けぐらいしかねえなあ…」
「ワラビのビール漬け作れる男子高校生って、絶対、徳川くんぐらいだよね…」
「上杉さん、なんかリクエストあれば何でも作るけど?ウチの学校、僕はそういう生徒会長で通ってるから。もし竜心館コースの皆も暇だったらウチに来て貰って良いよ?人数が居ても作る手間は一緒だし」
「殿方の家に竜心館の皆を?皆、私と違ってお嬢様なんだよ?」
「いや、上杉さんも充分にお嬢様だけどさ。僕はあの大きな日本家屋に独り暮らしだから来て貰う分には助かるばかりなんだ。それに平坂も居るからゲームで対戦出来るし」
「ヒメちゃんと対戦出来るなら呼ぶ!そんで、ブッ飛ばすの!」
「アイツ、ゲーム上手いよ?」
「百も承知!」
シャギーの入ったショートに銀縁眼鏡だけど、太ももが矢鱈とエロい。
その彼女と並んで自宅に歩く。
この度、大奥に編入し、そして風紀委員長になってくれた。
同い年のお姉さんと、同級生の皆から慕われる優等生美人。
上杉心さん。
キクラゲは酢醤油でとか、ワラビは鰹節を振れとか、天ぷらは衣をバキバキにしろとか。
優等生のわりに、ワガママさんである。
けれどワガママを適度に言われるという事は信頼の証だから、僕は普通に嬉しかった。
この優等生。毎日毎日、飽きもせずに木刀を構えて、通せんぼして来るのだけれど。
だから物語は終わってないのだ。
そして上杉さんを助ける物語は。
これからも、終らせちゃいけない。
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