第44話 武闘会終幕、そして次は──。

 ぽちょん、ぴちゃん、ぬちゃり。


 気味の悪い音がして倒れたハザードの足元に手が現れる。それはまるで死霊の手のようにすら見えた。


「──おじいちゃんから、離れてっ!」


 いつの間にか少女がいた。見た目は黒髪のロングヘアに赤色の瞳を携えた少女。

 服装は黒のドレスで、齢はおそらく7歳程。


 少女が叫んだ途端、地面から次々と死霊が現れる。


「へぇ?……死霊魔法……しかしすごいなこの量……」


 辺り一面を埋め尽くす死臭は、前世において死にかけの叔母を尋ねた時をふと思い出させてくる。


 普通、死霊魔法はでないと使えない魔法のはずだ。しかしこの少女はおそらくだが……により無理やりこの場を墓場に置き換えているようであった。


「──はっ、すごいな……その年でこれだけの魔法をやってのけるとは……何者だ?」


 言いながらもカルロンは即座に刀を抜こうとする。しかし──。


「(……不味いな、『無月』の再使用時間リキャストクールタイムがまだ溜まっていない……やはり使いこなせるのはまだ先のようだな)」


 ちらりと見た刀身からは光が失われていた。再使用にはしばらくはかかる──判断した瞬間にカルロンは武器を抜き攻撃に移行する。


「させない!──【死霊魔法ネクロマンス悪夢の大行進ナイトメアパレード】!!」


 一斉にカルロン目掛けて死霊達が襲いかかる。しかしカルロンはそれらを次々と刀でねじ伏せる。


「──一撃で?!な、何怖いこの人怖いっ!」


 カルロンは次々と死霊を斬り倒す。まあ斬り倒すと言うよりかは、なのが正解かもしれない。

 刀身が触れる度、ゾンビやら骸骨騎士やらが次々と砕け散ってその存在を無へと帰されて行く。


 カルロンが使う刀『無月』、それはある意味強化された状態なのだ。

 元々の名を『無銘むめい』。──世界に名前をつけれるやつは居ないのだ、故にこれは名前が無い刀である。


 この『無銘』には特殊能力などは全く存在していないのだが、唯一つ────。


 ゾンビ達は本来叛逆律レベル4〜6。普通に敵としてはかなり高水準なはずのそれらを一撃一撃で破壊していけているのには一つ、訳があった。


 そうこれは──……ただひたすらに……


 確かに死霊少女、『ネフス』の呼び出すゾンビは普通のものより軽い。それは中身が無いからにほかならないのだがしかし。

 だとしても魔力による補強、そしてネフスの想いが入った死霊を軽々と──簡単に消し飛ばしていくその光景は、もはや理解不可能な分類であろう、


「──ひ、ひっ!」


 淡々と、次々と、斬り伏せるカルロンに少女『ネフス』は怯えていることしか出来なかった。


「────さて、これで終わりかな?」


 鞘に刀をしまい、少女を見据えるカルロン。しかしその瞬間後ろからハザードが襲いかかる。


「──させぬわ!……貴様我が孫から離れろ!」


「驚いた、まさかあの止まった時の中で殺したはずなのにな」


「笑止!!我は死なぬ、少なくとも……我が孫が生きている限りはな!」


「成程、その少女が貴様に不死性のようなものを与えているのか……?」


 カルロンは軽くハザードの足をいなし、吹き飛ばす。しかしそれでもなおハザードの目には闘志が滲んでいた。

 ───全く、どうしてこうも守るべき物がある奴は強いのだ?


 カルロン?その言葉ブーメランだよ?とはさすがに誰も言わなかったが。


「──キエス=カルロン、貴様のこと覚えたぞ?……次あった時は貴様に本当の暗殺技をお見舞いしてやろう……覚悟しておけ」


「……じゃあね」


 そう言い残し、彼らは消えた。


「──やはり俺は甘いな、まあ……良いか取り敢えず何とかなったしな」


 その言葉が消えきらないうちに衛兵たちが現れて事実説明が始まったのであった。


 ◇◇◇



 暗がりでハザードは孫であるネフスに怒られていた。


「──おじいちゃん!無理しないでって何度も言ったよね!!」


「面目ない、つい本気になりすぎてしまったのだ……そんなに怒らなくてもよかろうに……」


「めっ!……本当にぎりぎりだったんだよ……?あの人、本当に最初は殺す気だった……だけど私を見てから明らかに手を抜いていたもの……」


「──全く奴の詰めの甘さに助けられたな?……だが次は確実に殺す。……ワシも久しぶりに鍛錬をする気分になった……全く感謝せねばな……まさか死んだ後にさらに戦いを楽しむ時間を貰えるとはな」


 二人の……いや片方には影がない存在は……ゆっくりと夜の闇に消えていった。



 ◇◇◇



「───君がこの惨状を……?いやしかし感謝する、名前を聞いてもよろしいか?」


 とりあえず現れた騎士に尋ねられたのだが、少なくとも先に俺に質問させて欲しい。


「その前に良いですか?……なぜ頭から血を流しているのですか?──多分ワルツさんのお姉さんだと思う人……?」


「あーこの血?まあ気にしないでくれ、ちょっと殿だから気にしないでくれ……まあこの程度の怪我など日常茶飯事だからね!」


 サラリと言うな。いやどうなっているんだ?貴族……シンプルに頭がおかしいだろうが。

 酒瓶で殴るなどどう考えても理不尽、それをこの騎士はたいしたことじゃないように誤魔化しているのだから……はぁ。


「……傷を見せてください……ちょっと治療致しますから」


 俺は大丈夫だと言って笑う騎士の頭に触れ、『帰還』による回復を利用して治療を施す。


「ありがとう、……改めてお礼を言わせてくれ……私はゼディウス騎士団騎士団長『ロンド』……ワルツから聞いていた通り本当に優しい方なのだな……君は」


 俺はたいしたことは無いと言いながら、壊してしまった建物を『帰還』の魔法で直していく。

 まあ飛ぶ鳥は跡を濁さずとも言いますのでね?


「──すごいな、本当に……」


 騎士たちが呆れるほどに高速で建物は再構成されていくのであった。

 ◇◇◇



 こうして舞踏会は無事に幕を下ろした。


 結局のところあの襲撃者たちがどこのものなのかは分からない。

 だがおそらくだが魔族なのではないか?と俺は考察している。


 そして俺は14歳までの1年を平穏にすご……すご……すご……。


 ────過ごすことは叶わなかったのである。


 カルロンは舞踏会の後、すぐにとある世界へと旅出す羽目になってしまった。


 それは─────と呼ばれる場所…。


 竜の国での1年の特訓。それはカルロンの全ての技術をありえないほどに引き上げることになる。


 何が起きたのか?──それは単純にの師匠に修行をつけてもらったからに他ならないのだ。



 ともかくカルロンは遂に14……つまりスカーナリアへの試験の時期が……幕を開けることとなるのであった。






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