第一章 根源との対話編〜そして舞踏会編(12歳〜13歳)
第32話 精神世界【帰還】の主
目を覚ました俺は、目の前に広がるブラックホールに唖然とした。
ここはおそらく精神世界、だがコレは……?
「君にひとつ尋ねてもいいかな?……君はあれを怖いと思うか?」
ふと後ろから話しかけられた。振り向くとそこにはボロボロ……本当にボロボロな見た目の女性が座っていた。
玉座は砕かれ……砕けた欠片がそこら辺に浮遊している。
「……アレ……?あのブラックホールの事か……?いや?別に怖くは無い……むしろ」
「むしろ懐かしい……だろう?」
俺が紡ぐはずだった言葉は女性に取られてしまった。
だが事実だ。あれを見ても別に俺は恐怖など無く……優しい……懐かしい記憶の味がしたのだ。
「────そっかぁ……君は私たちとは違うんだね……うん、悲しいけど……」
「??」
話の全容が見えず混乱する俺をほっておいてそいつは玉座を降りる。
すると何と……辺りに無数の亡骸……なぜ亡骸とわかったのかは分からないが……それが浮かび上がったのだ。
そしてそれらはどんどん一塊になって……やがて一欠片の立方体に変化する。
「────君はさ、知っているかい?……『帰還』の真の意味を……」
唐突に話しかけられた。それにしても不思議な質問だ……『帰還』?
それは勿論元の場所に戻ってくる……ああ今は無に帰す力もあったな……それがなにかしたのだろうか。
するとにっこりと微笑む目の前の女性。そして語り始める。
「帰還……この言葉は実は正しくないんだよ。実はさ……『帰還』と『帰環』があるんだ」
???……?
「発音は同じだな?……何が違うんだ?……というかそもそもここはどこだ?……君は誰だ?」
俺は放置されていた質問を一斉に投げかける。それは少なくとも放置されていた俺の特権のようなものだろう?
「んーそうだね、君はまず……ここについて知る必要があるね……ここは……ね帰還原点とも言うべき場所だよ?」
◇◇
説明によるとここは『帰還』の力による『帰還地点』というか『帰還終点』なのだとか。
彼女の説明はにわかに信じれなかったのだけれど……彼女は全く異なる次元の存在なのだとか。
「ここは全ての『帰還』者が回帰する場所なんだ……あれは『帰還』そのもの……わかるでしょ?アレが……あのブラックホールが全てを無に帰していることぐらい─────!」
それは分かる。だからこそ……彼女の説明がなおのことわけが分からないのだ。
あのブラックホールは彼女の説明によると、『帰還』という力の根源そのものなのだとか。
「世界は最終的に無に帰すのよ?……最初は『砂塵に帰す』……次に『灰燼に帰す』……そして最終的に『無に帰す』の……どんな素晴らしい力も、権威も、名誉も……全てが全て。あのブラックホールに帰る。あれは全ての終わり……『
俺たちは気がつくと歩いていた。無の空間だと思っていたが……案外足場があるようで……ゆっくりと進む。
段々とブラックホールが近づいて来た気がする。
「───そう、全てはアレに帰るの。……あれは始まりであり……終わり……。全てを超えた先にある『無』あるいは『空』とも言えるかもね」
「それで俺たちはなぜそんな危ないものに向けて歩いてる?」
無視したのか分からないが、返事は帰ってこない。
「私は最初に君に質問しただろう?アレが怖いかとね…………普通は怖いんだよ、あんなもの……星……人類では何も起こせない動かせない星ですら……ただ食べられることしか出来ないほどの無限の無。……星海の穴」
ふと足が止まる。何故か分からないが─────誰かが泣いている?
俺は耳を澄ます。すると……誰かの、なく声が聞こえてくるのだ、目の前の女性かと思ったが……まだ話をしている。
彼女が腹話術でもマスターしていない限り不可能なはず。
『/あ/あ/あ/あ/あ/あ/あ/あ/…………』
「君は何故泣いている?答えてくれ」
「?君は何と会話を……して?」
『ど/う/し/て/ぜ/ん/ぶ/な/く/な/っ/て/し/ま/う/の/?/お/し/え/て/?』
俺は立ち止まって耳ではなく、心で…………無意識に必死に手を伸ばす。
何でこんなに胸が痛むのだろうか。
何でこの泣き声が心に刺さるのだろうか?
何でこれは俺を呼んでいるのだろうか?
ゆっくりと、俺は歩みを変える。そして俺は─────。
あの真っ暗な穴に身を投げ捨てていた。
その声に導かれるように、俺は穴の中に落ちていく。落ちていく。
体がどんどんと分解される。それは昔図鑑で見たブラックホールが持つ特性……それと何ら変わりない。
所詮自分はただの人間。だが何故か……今の俺は無敵な気分だったのだ。
崩れた体を何かで埋め直し、ブラックホールの中に吸い込まれていく。
崩壊、破壊、再生、消滅、転生、構築、分解、収斂。
幾度の破壊の余波、それを食らう度体が消し去られ……だけど何かで埋め直す。
何十、何百、何千何万……もはや数えることすら不可能なほど……俺は繰り返した。
そして何かに辿り着いた。
◇◇◇◇
「君が呼んだのか?俺を」
白髪と黒髪、まるで触れたら簡単に崩れそうなほどの脆弱な砂の城のような女の子が一人椅子に座っていた。
輪郭は次々と失われて……目を離せば見えなくなってしまいそうなそんな女の子に……俺は触れる。
触れなければならない、何故かそう思ったのだ。
『────わたしのこえがきこえるの?』
触れる直前、そう話しかけられた。
『ふしぎなひと、こわれることをおそれないあなた…ばかしょうじきで…ううん、やさしいひと』
まるでディスられている気がするが……気のせいだろうか。
すると女性は優しく微笑む。そして俺の体にそっと触れる。
途端──────────アレ?
体が解けていく。分解されているのでは無い、文字通り……ほどけていくだけなのだ。
ひびが身体に入る。そして体内からはどんどんと『無』が溢れ出す。
体から溢れ出る『無』はいつしか『虚無』へと変化し……やがて俺自身が【ブラックホール】のようなものに変化していく。
『んふふふ……ごめんなさいね?わたしわるぎはなかったのよ?』
俺は反射的にその言葉を投げつける。
「気にするな、俺は問題ない」
『……やっぱりすごいわ、あなた……うん……いいわ……あなたにちからを──かえしてあげる!でも……ちょっとまってね……せっかくだから、もっともっとすごいものにしてかえしてあげるわ!うん、うん!─────とくべつなのよ?』
星いや銀河が現れる、そしてそれは俺の中にどんどんと吸い込まれていく。
どんどん、どんどんと増えていく星、銀河。やがて……全てが体内に回帰したその瞬間────────。
俺は弾け飛んだ。
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