【ネタ投稿】昭和の悪の組織vsダークファンタジー。昭和の悪の組織だからって舐めんじゃねえ!色々ガバガバってことはスペックもガバガバなんだぞ!
福朗
老化した組織
ネタ投稿なのでふわっとした感じでお願いします。
◆
「これより我が新生暗黒深淵団の定例会議を始める!」
闇のようなマントを羽織った俺が、暗黒深淵団を率いる二代目として高らかに定例会議の開催を宣言する。
会議室の巨大な円卓には数名の大幹部と通常の幹部が着席しており、俺と俺の背後にある巨大な黒渦に忠誠を誓っていることだろう。
「まずは最重要の議題、世界征服についてだ!」
秘密組織、暗黒深淵団はかつて地球世界を支配しようとした恐るべき存在である。それ故にこそ定例会議では世界征服について話し合う必要がある。
「実動部隊の人員は不足していないが協力者などが全く足りていない!」
しかし、今現在の我が組織はその地球支配を実行した最盛期に比べ、哀れな程に縮小しているらしい。
直接見て訳じゃないから詳しくは分からんけど、かつては財界や政界のいたる所にいる協力者がいただけではない。
強化処置を受けて実働部隊を担当した戦闘員達。
結集した科学者に生み出された怪人。淀んだ自然から現れた自然怪人。人々の怨念から誕生した思念怪人などの恐るべき怪人達。
怪人達を指揮して戦いながら、自らも通常の怪人達を歯牙にもかけない戦闘力を誇る幹部。
そして闇の化身であり頂点。大悪王。
彼らは科学と魔術を融合させた世界最先端の更に先を行く技術と、途轍もない戦闘力を背景に世界支配を企んだ。これも伝聞である。
「そして再び敗れないためにも、更なる組織の強化が必要である!」
だが敗れた。
世界のほぼ全てを手中に収めながら、ちっぽけな極東で蹴躓いたどころではない。ヒーローと名乗り、そう呼ばれた連中に、戦闘員も、怪人も、幹部も、その上にいた大幹部も、果ては大悪王すら敗れた。
しかしヒーローは対処を誤った。大悪王を倒せば解決すると思っていたヒーロー達は、闇の化身が必殺技の嵐を受け消え去ったことで安堵した。するべきではなかった。大悪王は人々の負の感情を糧に何度でも甦ることが可能で、しかも暗黒深淵団の人員を復活させることができたのだ。
だから暗黒深淵団は完全に復活した。復活したが、大悪王は別次元にぶっ飛ばされて死んだ後に復活したため、近場にあった世界へ密かに侵入してそこで根を張った。
それが大悪王の子である俺、シエンが生まれる前の話である。今に見ていろ地球め。一度も行ったことがない世界だが、必ず征服してやるからな!
まあそれは一旦置いておこう……つまりである……。
「シエン坊ちゃん。そんな台を重ねて乗ったら危ないぞい。背が低いのはどうしようもないから将来に期待するんじゃ」
「シエン坊ちゃんは今日も元気じゃのう。おねしょしていた頃から変わらんわい」
「ほっほっほっほっ」
「うっせえよジジババ共! その孫かひ孫がやんちゃしてるのを見るみたいな目をやめろ!」
俺がマントの下に隠した台に乗ってることを指摘してくれる爺に、昔の黒歴史を掘り返す婆。それをにこやかに笑うジジババ共。
そう! 昭和とかいう時代で現役バリバリ、脂が乗っていた頃の連中は今やすっかりジジババと化してしまい、我が暗黒深淵団は高齢化してしまっているのだ! そんでもって組織の構成員で若いのは俺だけ! これが少子高齢化社会!
「偉大なる大悪王よ! 若き戦士が必要となっております!」
俺の後ろで渦巻いている巨大な黒い渦、偉大なる初代暗黒深淵団のトップである大悪王に現状のヤバさを伝える。
しーん。
クソが。歳くって寝ぼけてる訳じゃねえ。
「父ちゃん。若いのがいないんだけど」
『うむ。かつて地球にいた時、団塊の世代がごっぽり抜けた時のことを心配していたがまさにこの状況。いや、なんか違うか?』
俺が父ちゃんと呼ぶと、黒い渦から重々しくアホみたいな答えが返ってきた。この闇の化身、俺が他人行儀に大悪王って呼ぶのをすげえ嫌がるから、クッソ気が抜けたやり取りにしかならねえ。俺にも立場ってのがあるの分かってる?
『そうだ。怪人レンタルサービスを利用する手もあるな』
「なにそれ?」
『別次元で活躍している怪人を派遣してもらえる、悪の組織間のサービスだ。試しに伝手のあるところから一人送って貰おう。ふむ。世界征服まであと一歩だった怪人が丁度空いているらしい。その者でいいか?』
「おお! 流石だ父ちゃん!」
『はっはっはっ! そうだろうそうだろう! ではくるのだ! えーっと、電気怪人パソコーン! うん?』
「うん?」
素晴らしいサービスが存在するとのことでそれを頼んだが、今なんて言った?
「パーソパソパソ! 偉大なる大悪王様にお呼びいただけるとは光栄の極み!」
全身に……なんだっけ。モニター? テレビ? だったか? そんなのをくっつけた怪人が、親父の黒い渦の前に現れて奇声を発する。
『パソコーンだと? ひょっとして……マニアが使ってたパーソナルコンピューターのことか?』
「え?」
親父のなにかを思い出すような言葉に、パソコーンとやらが端的に困惑を表した。
「パーソナルコンピューターの怪人じゃと?」
「儂はメカのことについて詳しくない」
「なにができるんじゃ?」
それと同時にジジババ達も超困惑している。パーソナルコンピューターって何?
『……世界征服があと一歩だったと聞いているが、どういう方法でだ?』
「そ、その、ヒーロー側の助手に阻まれましたが、世界中のパソコンにハッキングを仕掛けて、インターネットをほぼ掌握寸前でした」
『インターネット……だと?』
「あのぅ……この世界の文明レベルって……」
『剣と魔法の中世ファンタジーだ』
「あ……」
親父とパソコーンの話が見えた。悪いな現代怪人よ。この世界リーリスは、君が活躍できる文明水準ではないらしい。
なぜなら親父達が引っ越してきた次元であるリーリスは、剣と魔法、ドラゴンやゴブリン、貴族や平民の世界であるファンタジー文明なのだから!
『いや、基礎スペックがあるなら問題ないだろう。かつての暗黒深淵団だって肉弾戦の武闘派が活躍していた。キック力とパンチ力は?』
「え、その。2030年は特殊能力が流行していまして……パンチもキックも数トンレベルで……昭和スペックの皆様と比べられると……」
『これが世代による意識の差……!』
親父がフォローを入れようとしたが失敗したし、ジジババ連中も、え? 数トン? それで戦えるのって顔を見合わせている。昭和スペックのヒーローを上回るならパンチもキックも最低百トンレベルは必要だから、2030年とは随分意識の差があるらしい。
『すまん。きちんと職場環境を伝えていなかったこちらの落ち度だ。そちらの首領にも詫びを入れておく』
「いえ、お役に立てず申し訳ありません……」
闇のドンのくせに謝る親父に平謝りするパソコーンが送還された。
「……自分で人材見つけて何とかするわ」
『……うむ。頑張るのだ息子よ』
どうも2030年怪人がこちらの文明とあっていないようだから、昭和の遺物である俺は昭和らしく頑張ることにする。
ってな訳で。
「採石場占領計画を始動する! 暇してる戦闘員達! 行くぞー!」
基地内放送のマイクを取って、暇をしてるであろう戦闘員に呼びかけた。
『夕食までには帰ってくるのだぞ』
「坊ちゃんの初陣とは、涙が出そうじゃ」
「それでこそ悪の首領というもの」
「そうじゃそうじゃ」
好き勝手言ってる親父とジジババ共を放っておいて会議室を抜け出す。
目指すはどっか適当な採石場。なにせ採石場を占拠して初めて悪の組織を名乗れるのだから仕方ない。悪の教本にもそう書かれてある。
戦闘員達は歓喜に包まれていた。
地球を支配するというこれ以上ない悪をなすため生まれた彼らだが、正義のヒーローに蹴散らされてしまった。しかし大悪王の力によって再び復活したものの、この世界ではひっそりと隠れていた。
それが最近、そろそろファンタジー世界の支配やっちゃう? やっちゃうか? という命令を受け、悪の後継者であるシエンがその指揮官に任命されたのだ。
そのシエンの号令を受けた戦闘員達は……しわくちゃの青と黒が渦巻く戦闘服とマスクを被った。
しわくちゃの皮膚を上に。
という感じだ。大丈夫だけど大丈夫じゃないな。
「採石場を占拠したいかー!」
「オー!」
「世界征服したいかー!」
「オー!」
俺の声に応える戦闘員十名も全員がジジババである。これヒーロー出てきたら一巻の終わりどころか一話の終わりだろ。
ま、まあいい。ここリーリス世界はヒーローなんていない。ちょっと魔法が使える冒険者共がいるだけだ。十分ヤバくね?
いや、大丈夫だ。なにせここにいる戦闘員達は昭和を潜り抜けてきた猛者なのだ。ってなわけで行くぞー! えいえいおー!
◆
ある奴隷鉱夫
アルノーの鉱山は地獄だ。
ある犯罪結社が古代に放棄されたこの鉱山を発見して、まだ貴金属が眠っていたことに気が付いた。そこで彼らは、私を含めあちこちから人間を連れ去ってきては鉱夫として働かせたが、最低限度の食事と寝るところも殆どない過酷な労働環境せいで、今を生きるだけでも精一杯だった。
「さあ働け!」
今日もまた犯罪結社の男達が鞭と剣を振り回して、我々を薄暗い坑道へ追いやる。落石と落盤は日常茶飯事であり、死神が手招きしている穴へ……。
「わーっはっはっはっ!」
なんだ? 幼い少年の高笑いが聞こえる。いや、気のせいに決まってるな。こんな場所に高笑いする子供がいる筈がない。
「責任者出てこーい! この採石場は我が暗黒深淵団が占拠した! 大人しく権利書を差し出せばよし! そうでなければ実力行使で奪い取るぞー!」
き、気のせいじゃなかった。鉱山の山肌に子供と……あれはなんだ? 黒と青が渦巻いている服を頭からすっぽりかぶっている十人の人間?
「てめえクソガキてめえ! どこのどいつだてめえ!」
「語彙が貧弱すぎるだろうコラ! 暗黒深淵団だって名乗っただろコラてめえ! 責任者出せっつってんだろゴラァ!」
「ぶっ殺すぞてめえ!」
「やってみろやゴラァ! できるもんならなぁ!」
不審な一団に向かって、大勢の武器を持った二十人ほどのごろつき共が駆け出していく。
「戦闘員! やっちまえ!」
「オー!」
それと同時に子供がごろつきを指さし、妙な服を着ていた者達も駆け出した。しかし、単純に倍もの人数差だし、ごろつきは剣や槍を持っているのに向こうは素手だ。
それなのに。
「ぎゃ!?」
「ぐげっ!?」
ごろつき共だけが悲鳴を上げて吹き飛ばされていく。
「ぎゃあああああああ!?」
妙な存在は魔法で強化されているのか、常人を遥かに超える速度でごろつき達との距離を詰めると、剣を振り下ろされる前に殴る。槍が突きだされる前に殴る。それだけでごろつき共は倒れてしまい、耐えがたい苦痛を我慢するかのようにゴロゴロと地面で暴れだした。
あまりにも一方的だ。
妙な存在に剣や槍は全く当たらず、殴られたごろつき共が冗談のように吹き飛んで苦しむことが繰り返される。それを見た鉱山中のごろつき共も加勢するが、結局なんの意味もない。
「わーっはっはっはっはっ! 戦闘員だからって舐めんじゃねえぞ! 常人の力の数倍から二十倍だなんて幅のありすぎるガバガバが昭和基準の戦闘員だからよお! 普通に考えてヒーロー以外は手に負えねえぞ!」
少年の言葉の内容は殆ど分からないが、常人の数倍から二十倍の力!? 通常の強化魔法では倍がせいぜいというのに、それだけの力を持っているのか!?
そんな存在にごろつき共が敵うはずがない。逃げようとした者達もいたがあっという間に追いつかれ、地面に倒れ伏してしまった。
「完勝! よくやった戦闘員諸君!」
子供が腕を組んで笑う。常人の二十倍の力を持つ者達を従えるあの子はいったい何者なんだ……そして我々はこれからどうなってしまうんだ……。
「今からこの採石場は暗黒深淵団のものとする! 従業員諸君! 君達がどれだけ特殊技能持ちで危険手当マシマシの高級取りだろうが、これからは暗黒深淵団の規定に準拠した給料と休日だ! 安心するがいい! 終身雇用こそが昭和を象徴すると言うなら、怪我しようが病気になろうが歳で衰えようが無理矢理治療して、定年までずっと酷使してやる!」
給料? 休暇? 治療に定年?
いったいなんのことを言っているんだ?
「ここより新生暗黒深淵団の世界征服が始まるのだ! わーっはっはっはっはっはっはっはっ!」
ただひとつ分かることは……なにかとんでもないことが起こっているということだ。
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