第17話 学校について

「もう戻っちゃうんだね。もう少しいたら?」


 村唯一の酒場兼食事処しょくじどころでミラがそう言った。

 テーブルにはミラの他、ジュードとアルカ、そしてバーグがついている。

 ささやかながら昨日と薬のお礼に、とバーグが今日の昼食をごちそうすると言ったからだ。

 ちなみに、バーグはこれを食べたらそのまま村を出る予定でいる。

 本来の予定なら今日の朝一番に出る予定だったが、今日の朝から先ほどまで、バーグが必要としている薬を薬屋の店主、エミナと共に全員で作っていたため、こんな時間になってしまったのだ。

 それからせっかくだから昼食を、ということで一緒にとっているというわけだ。


「私としてもそうしたいところなんだけど、薬は早く届けてあげた方がいいからね。君達の話を聞く限り、そんなにすぐに病状が悪化する状態ではなさそうだとは分かったんだが、それでも心配なんだ」


 バーグがそう言った。

 その話を聞いてジュードがしみじみ呟く。


「病気の時って本当、つらいもんなぁ……」


 続けてアルカが言う。


「でもジュード、最近全然病気になんかならないでしょ」


「それはアルカもだろ。ミラなんか一度もなってるの見たことないな……」


 このジュードの言葉に、ミラは微笑ほほえ


「二人とも、鍛えて強くなったからだよ。魔力で病気に対する抵抗力も自然と上がるからね」


「えっ、そういうことだったのか!?」


「知らなかった……」


 驚く二人に、ミラは続ける。


「誰でもってわけじゃないけどね。二人がちゃんと修行してきた結果だよ」


 これを横で聞いていたバーグが尋ねる。


「それは……本当かい?」


「まぁね」


「私もそんなことは聞いたことないんだが……ま、いいか。君達については何を聞いてももう驚くまい。ただ、そんな君達だからこそ、ちょっと尋ねたいことがあるんだけど」


 そう言ってミラ達三人を見つめるバーグ。


「何かしら?」


 首を傾げるミラ達に、バーグは言った。


「君達はこのまま、この村で一生過ごすつもりかい?」


 これにジュードが、


「俺はそのうち村を出るつもりだぜ。ただ、村を出て何をするかいまいち決まってないんだよな……」


 と答える。

 次にアルカが少し考えてから、


「私は村の外を旅したりしたいかなぁ。でもそんなお仕事はないよね……あっ、バーグさんみたいに行商人になるとかいいかも?」


 と答えた。

 最後にミラは、


「私は何でもいいんだけど、ずっとここにいるつもりはないかな。ただ来年で十四だし、そうなったら村を出るかも」


 そう言った。

 これを聞いたバーグは、


「そういうことならいいアイデアがあるんだが、聞く気はあるかい?」


 そう笑いかけた。

 首を傾げる三人にバーグは続ける。


「……うん。一応、話を聞く気があるとみなして続けるけど……三人とも、王都の兵学校に入る気はないかな?」


 それは意外な提案だった。


「兵学校って……あれか。国の兵士になる学校だよな」


 ジュードが尋ねるとバーグは頷いた。


「あぁ、その通りだ」


「でも俺、別に国の兵士になりたいって思いはないぞ? アルカもミラもそうだよな」


「私はそうだね……っていうか、考えたことがないだけだけど。ミラは?」


「兵士か……ふふっ」


 ミラは少し考えて、吹き出す。

 前世、暗殺者だった自分が、国の兵士に?

 まるで正反対な生き方で、なんだかそれは面白いかも、と一瞬思ったからだ。

 誰かの命令を聞くのは慣れているし、仕事として闘うことも得意である。

 それを考えてみると職業としては向いているような気もする。

 ただやることが、金で人を殺すことから、国を守ることに変わるわけで、大幅な変化ではある。

 どちらも殺人を伴う仕事ではあるが、目的が大違いだ。

 そんなことを考えているミラの表情を見て、バーグは何か察したらしい。


「どうも、ミラは興味がありそうだね?」


「……うん、そうだね。ないこともない、かな」


 この言葉に驚いたのは、ジュードとアルカだった。


「ミラが、兵士に!? 一番なりそうもないってのに……」


「意外だよ、ミラちゃん……ううん、強さからすれば向いているとは思うけど……そういう感じじゃないっていうか」


「なに、二人とも。失礼だよ、私に」


 ギロリとにらみつけるミラに、


「悪い悪い。なんだかイメージから外れてるからさ」


「ごめんね……でもミラちゃんがなりたいっていうなら、私も一緒になってみてもいいかも?」


 そんな風に話していると、バーグが深く頷いて言う。


「三人とも入ってくれるなら、これほどうれしいことはないな。どうかな、三人一緒に目指してみては?」


「別に構わないけど……どうしてそんなことを勧めるの? 兵学校なんて」


 ミラが不思議に思って尋ねる。

 バーグは商人だ。

 それなりの商会の経営者とはいえ、兵学校と深い関係があるとは思えない。

 だが、バーグは言う。


「森で三人の実力を目の当たりにして、思ったんだ。これほどの才能が、ほとんど世に知られずに終わってしまうのは少し勿体もったいないなって。その点、兵学校で学んで、卒業すれば、もし兵士にならなくても色々な道が開けるからね。君達の未来を見てみたいんだよ」


 これにアルカが尋ねる。


「兵学校を卒業しても兵士にならなくてもいいんですか?」


「あぁ、知らないか……まぁ王都に住んでいても、兵士を目指す人間じゃないと詳しくは知らないことだからね。どれ、大雑把に説明しようか」

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