第16話 正しいやり方

 一体どうしたら良いのか。

 せっかく見つけた解決法だったのに、それがむしろ悪化させるものでしかなかったと報告するしかないというのは問題だった。

 頭を抱えるバーグだったが、ふと、ミラの直前の言葉を思い出し、はっとする。


「いや、君は今、普通は薬が要る、と言ったね? つまり、治す薬を知っているか、作れるということか……?」


 そうとしか思えない言葉だった。

 おそるおそる、ミラの顔を見ると、彼女は頷いて言った。


「もちろん。私だけじゃなくて、ジュードもアルカも作れるよ。ただ、その材料は《風灯草》じゃないってだけ」


「それを作ってもらうことは……出来るかな?」


 おそるおそる尋ねるバーグに、ミラは意外なことを言った。


「いいよ。でもそれは、私達が作ったって言わないでくれるならだけど」


「え?」


 珍しい病気とはいえ、難病の特効薬だ。

 それを作れるとなれば、相当な名誉だし、収入も望める。

 それなのにそれを要らないというのだ。

 不思議に思って首を傾げるバーグに、ミラは言った。


「だって、その病気にかかってる人、かなり高貴な人なんでしょ? だったら、それを治したとなるとかなり目立つことになる。この村に人が来て、妙な騒ぎにもなったりしかねない。それは望まないから」


「だが……いや。確かにそれはそうか……」


 バーグもその点についての懸念は理解できた。

 バーグ自身も今程の規模の商会を持つまでに、貴族の横槍よこやりや妨害を何度受けたか分からない。

 それと同じような危難が、ミラ達や村に降りかからないとは言えない。

 ただ、ミラはそれに続けて驚くべきことを言った。


「それだけなら百歩譲っていいかなって思うけど……《風灯草》で治る、なんて伝える人がいたっていうのが、ちょっと怖いからね」


「ん? それはどういう……あぁ、そういうことか」


 言いながら、バーグは理解する。

 つまり、あえて治らない、むしろ悪化する薬を勧められていたんじゃないか、とミラは言っているのだ。

 そういう風に手を回されていたと。

 高貴な人間に対してそんなことをするような人物となると、相手は限られてくる。

 生きていては困るからと、殺したいと考えるようなやからが背後にいるということだ。

 そして、その心当たりも、バーグにはあった。

 だからミラに言う。


「分かったよ。それならば、何も言わない。この村で手に入れたことも隠そう」


「それがいいね。あ、でも《風灯草》はとりあえず持っていった方がいいかも」


「分かってる。勧めた人間を突き止めるために使えということだね?」


「私からは何も言えないけど、どう使うかは自由だね」


 にっこりと笑うミラに、バーグは久しぶりにその底が見抜けない人間に会ったな、と深く思ったのだった。

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