第13話 案内
ラムド大森林の鬱蒼とした木々に囲まれた中で、バーグは目を見開いていた。
なぜといって、今見ている光景が中々に信じがたいものだからだ。
「……オークは珍しいな。この辺はゴブリンが縄張りにしてるからあんまり来ないだろ」
オークの死体を前にしながら、ジュードがそう呟いた。
彼はその手に剣を持っているが、
それを軽く振って払う姿は、いつもやっていることかのように慣れていた。
「はぐれ個体じゃないかな? こないだもいたし……こういうときって、奥地の方で何かあったかもしれないんだよね?」
アルカも剣を抜いた状態でそう言う。
彼女もまた、ジュードと一緒にオークと危なげない様子で闘ったのを、バーグは見た。
王都でもこのレベルの腕前の剣士はそうは見ない。
しかもまだ十三歳に過ぎないという。
それなのに……。
流石はラムド大森林を三人でなら案内できる、と豪語するだけはあったと今やっと、実感が湧いてきたバーグだった。
「オークは群れを作るから、そういう群れの中の力関係が変化した場合にははぐれが発生しやすいんだよね。多分、ボスが替わったとかそういうことだろうね。このオークも、こないだの奴も、闘う前から結構傷だらけだったでしょ。群れの中での争いで敗れたんだと思うよ」
ミラが冷静にそう語る。
三人の中でも、特に彼女については腕前がどうとか、バーグには既に評価が下せなかった。
先ほどのオークとの戦いで、ミラは特に手を出していない。
だから戦闘を見れてはいないのだが、それでも分かるものもある。
彼女こそがこの中で一番強いのだろう、ということだ。
ジュードもアルカも、基本的に彼女に指示を仰いでいるし、彼女が進路や周囲の警戒などでリーダーシップをとっているからだ。
これは、護衛依頼をこなす冒険者の動きで、指示役を担うのは当然最も力ある者になる。
十三歳にしてオークを軽く
全く理解できないが、しかし自分の運がいいことだけは自覚した。
本当なら、ラムド大森林に入ることすら出来ないか、入ってもそれこそ命がけになると思っていたからだ。
だがこれならば……。
「三人とも、ありがとう。まさかこんな浅いところでオークに出くわしてしまうとは。私一人だったら見事に餌にされているところだったよ」
バーグが言うと、ミラが言う。
「バーグさんにこの森の中を案内するのが私達の仕事だからね。でも、あんなに沢山前金くれてよかったの? ただの子供に」
実はバーグは三人に、一人銀貨五枚ずつを渡している。
成功すればさらに五枚渡す予定だ。
元々これは村の自警団の誰かに頼んだときの報酬として用意してきたものだ。
だから予定通りと言える。
ただ、高すぎると言われればそれは間違っていないかもしれない額でもある。
何せ、銀貨十枚もあれば、村で四人家族が一カ月以上は生活できるくらいなのだから。
もちろん、王都だと半月程度が限界だろうが、それだって相当な額だろう。
それを子供に渡すなど、とそういう話になる。
けれど、ミラ達が今こなしている仕事の難易度を考えれば、むしろ安すぎるくらいであった。
この国のどこを探しても、浅い部分とはいえ、魔境の案内をまるで庭を歩くような足取りで出来る
いくら頻繁に入っている現地民だとしてもだ。
だから、何も問題なかった。
「君達の仕事はそれだけのものだからね。それに、貴重な素材の説明などもしてくれているし……採取できたものを王都で
バーグがそう言うと、三人はそうなのかと頷く。
それからミラがふと、呟く。
「それならそれでもいいんだけど……あ、探してるの《
「え? ええ」
「そこにあるよ」
「え……ほ、本当だ! こんなに簡単に……!? まさか……」
バーグがミラの指し示すところに近づくと、そこには確かに《風灯草》が生えていた。
小ぶりの花をつけ、その中に魔力によって淡い光が
また手を近づけてみると、
バーグは服が汚れるのも気にせずに
デリケートな植物なのだ。
「三人とも、本当にありがとう……! これで目的達成だ。あとは王都に帰るだけだよ」
少しだけ涙を流してそう言ったバーグに、三人は頷く。
そしてまずジュードが、
「気にするなよ、バーグさん。それよりそれが必要な人がいるんだろ? 早く持ってってやれよ」
そう言った。
続けてアルカも、
「運が良かったね。全然見つからない日もあるから、それ」
そう言った。
最後にミラが、
「それにしてもどうしてそれが必要なの? あぁ、言いたくないならいいんだけど」
そう言ったので、バーグは具体的な名前は伏せて、理由を教えることにした。
「いや、実はね……」
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