第5話 動転 1
診療所で信じられないほどの激痛が伴った治療により俺は、あまりの痛みに耐えかねて気絶してしまい、もうすっかり日は落ちており街灯の光以外はよく見えなかった。イザベラさんは「もう暗いから泊っていくといい」と言っていたが、流石にこれ以上迷惑かけることは申し訳なかったので「家族が心配してるかもしれないので……」と言い残し俺は帰路に就いた。魔力によって光らされた街灯がぽつぽつと俺の帰り道を照らしており、少し不気味な雰囲気を醸し出している。
「まさかこんなに暗くなっているとは……やっぱ泊って行ったほうがよかったか?」
そうひとりごとをこぼしながら歩みを進めていく。少し時間がたち遠目にアリスとよく行くパン屋のガラスが見えたところで俺は違和感に気づいた。
「なんで見えてんだ?」
パン屋の周りには街灯もなく、本来だったら見えないはずだった。
「ていうか、他のところも見えるようになってんな……急になんでだ?」
少し考えて俺は思い至った。
「月か!」
そう、今日は満月の日。月の光が最も強くなる日。だから周りが見えるようになっていたのだ。
「まさかこんなことにもすぐに気づけないとは、アリスに電撃を食らいすぎて頭が壊れたのか?」
そんな自虐を混ぜながら、俺は嫌な予感がしていた。何故診療所から出たときはあんなに暗かったのに急に明るくなったんだ?何故こんなに明るくなったのにすぐに気づけなかった?何故こんなにも悪寒がするんだ?俺は魔力で目を強化し、空を見上げることであることに気が付き、呟く。
「雲が一つもない」
魔力で目を強化したことによってよく見えるようになった月の周りには雲一つなく、それどころか空一面見渡しても雲なんぞない。悪寒が強まる。眼だけではなく魔力で五感を強化し、ようやく気付く。何かがいr「気づいちまったのか、お前」
「!!」
俺はすぐさまその場から飛びのき、緊急脱出を図る。視界に捉えようと思い、俺のいた場所に目を向けたが、すでに聞こえた声の主はその場から消えており、その場に残っていたのは白銀の毛がいくつか。そして考え、要素を足し合わせ正体を予測する。
満月、光、白銀の毛、残像すら残さぬ俊敏性、そして五感を強化したことで気づいた、この場から漂う圧倒的な獣臭さ。これらのことから分かる敵の正体は――――
「お前、なかなか感がいいな」
その声が聞こえたと同時に俺はすでに発動の準備をしていた魔術を発動する。
「ライトニング!!」
俺の雷は敵へと向かっていき、到達する寸前で人狼が放った咆哮によってかき消された。
「ぐぅ!!」
人狼の方向の余波によって俺は吹き飛ばされ、そして気づいた時にはもう俺の全身は切り刻まれ、血まみれになっていた。
「ちょっとは骨がありそうだったが、まぁこんなもんか」
そんな声が聞こえ、俺は激痛に耐えながらこの人狼の正体へと思い至る。その人狼は人を喰らい、
「それにしてもまだバラバラになってねぇとは、てめぇにかけてあった超強力な魔術防御が役に立ったみてぇだな」
その名は――――――――――――――――――――――――――――――――
「まぁいいか、もう一度同じことするだけだしな」
フェンリル。フェンリル・ガルム。大陸全土に轟く
なんでこんな化け物がこんなところにいるんだ
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