第16話 想いはやがて奇跡となる

 いつもと違う、と違和感を感じながら目を覚ます。そして自分のお腹の上にほのかな重みを感じて違和感の原因に気づく。


 「今日はお寝坊さんか?」


 いつも僕より先に起きて、洞窟内を走り回っていたり僕の顔を舐め回していたりしていた。今日みたいに僕より後に目覚めたのはこの森に来て2日目、牛もどきにやられかけた時以来だ。


 あの時は肉を焼いていたらその匂いで起きたっけな。今回も肉の匂いで起きるだろう。そう思っていたが肉を焼き終わってもまだ起きる様子はない。


 さすがに心配になってテンの様子を見るが、体に傷を負った様子は無い。呼吸も安定しているし僕の心配しすぎだったのだろうか。


 テンが起きないため1人でご飯を済ませた。テンのために焼いた肉が余ってしまったが大蜘蛛にお裾分けしようか。それと果物の採集や探索なども行かなければな。


 


 「おーい、起きてるかー?」


 「シャ?」


 「焼いた肉が余ってしまったんだがいるかい?」


 「シャ!」


 「それとテンがまだ起きないんだが、僕が探索に行っている間テンのことを見ていてくれないか?」


 「シャア? シャシャ!」


 テンの見守りを大蜘蛛にまかせ探索へと出発する。いつも通り慎重に順調に、されどどこか調子が上がらない。結局午前中で探索を切り上げ、午後はずっとテンの側に居ることにした。


 テンを生み出してから何をするにもずっと側にテンが居た。母様を失ってこの森にきて、もし1人ならこんなに毎日を楽しく賑やかに過ごすことなど出来なかった。なんだかセンチメンタルになってしまったな。今日は少し早いが寝てしまおう。


 


 「キュー キュー キュー」


 今日はいつも通りだなという安心感と何だか新しい違和感を感じつつ目を覚ますと。


 「テン!目を覚ましたか!…なっ!?」


 目を覚ました僕の目に映ったのは洞窟の奥で踏ん張っているような声を出すテン…と宙に浮かぶ火の玉。


 「キュ!? キュキュー!」


 いつもなら僕が目を覚ました雰囲気を感じ取ってすぐに僕の元へと駆け寄ってくるが今日は集中していたのか僕が声をかけてようやく気付いたようだ。


 駆け寄ってきて僕に体を擦り付けてくるテンをじっくり観察する事でテンの変化に気づく。


 まずテンを見てすぐ気付いたが命の光が今までにないほど弱くなっている。昨夜寝る前にには今にも溢れんばかりの光の強さだったのにどういう事だろうか。テン自体が弱っている様子ではないのが救いではあるか。


 そしてテンから魔力を感じる。


 「テン、もしかして魔法を使えるようになったのかい?」


 「キュキュイ!」


 目を覚ました時にまた火の玉がテンの周りに生成される。やはり火の玉はテンの魔法だったか。それにしてもなんで急に魔力を扱えるようになったのか…。間違いなくテンを生み出したときは魔力を纏っておらず動物だった。魔物はもしかして動物の変異体なのか?


 もしくは魔物の命をテンに結合したのが原因か?それ位しか思い当たることがないが…だめだな、今考えて分かるものでもない。テンが魔法を扱えて困ることはないのだし。


 そして最後にテンの尻尾が更にモフモフに!…と思ったら尻尾が2つに分かれていた。更に尻尾はほとんどが白色で根元は黄色だったが、根元まで白色に染まっている。


 「テンその尻尾は大丈夫なのかい?」


 「キュ? キューキュキュー」


 「ははっくすぐったいよテン」


 まるで自慢してくるかのように僕の顔に尻尾を押し付けてきた。この様子だと大丈夫だろう。


 「なんだか起きていきなり驚いたけどテンが大丈夫そうで良かったよ。お腹空いてるだろうし早速ご飯にしようか。」


 「キュ!」


 起きてからびっくりしすぎてまだ混乱しているがテンが元気ならそれで良いだろう。


 「ま、まだ食べるのかい?」


 いつも以上に食い意地がはって困ってしまうくらいだ。それに多少変わってもテンはテンだ。そう思うと何も問題はなかったな。

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