第11話 再び
ようやく見つけた。1頭で過ごしている牛もどきだ。もう1度こいつと戦う。前回の戦闘でこいつの動きはあらかた慣れた。懸念点は前回よりも命の光が強いことだが、攻撃方法は変わらないだろうし、あってもスピードが早い、生命力が強い程度だろう。もう負ける道理はない。
「テン。ここで待っていておくれ。前回のようなヘマは起こさないから。」
「キュウイ!」
まるで不服だとばかりに撫でる手をはねのけ頭突きしてきた。
「キュイ! キュイ!」
「…そうか。分かったよ。だけど攻撃は僕だけだ。無理だと思ったらすぐに逃げること。いいね?」
「キュー!」
はあ、どこまで伝わっているかはわからない。それでも前回テンの覚悟を受け取った。僕は一方的に『テンは弱い存在だから僕が守らなければいけない。』そう思っていたがテンは僕が思っているほど弱くない。少なくとも一方的に守られる存在ではないと証明した。そんなテンが『やる』と意思を示しているなら僕はそれをサポートするべきだろう。
まずは前回と同じように冷気で気づかれるまで冷やす。ただし今回は前脚だけに限定する。ある程度まで冷やしたらできる限り攻撃力が高まるよう魔力を固め氷の槍を前脚に放つ。
「ブモォォォ!!」
前回は逃げながら氷の槍を放っていたから1つ1つの攻撃はそこまで強いものではなかった。今回はもたされるだけの攻撃力をもたせたので傷がついているのが見える。
「キューー!」
テンが大きい声で鳴いて牛もどきの注意を引く。牛もどきはテン目掛けて突進するが余裕を持って躱している。前回は僕がやられて必死に助けようとしたからなのかあの時よりも明らかに素早い動きだ。
テンが全力で動いているのは何気に初めて見るが僕が足に身体強化をかけて全力で駆けた時の速さと同じくらいかもしれない。テンが頑張ってくれているのだからこの隙にもう1度出来るだけ攻撃力の高い氷の槍を作成する。
「テン!こっちに牛もどきの注意を引いてくれ!」
「キュ!? キュー!」
テンがこちらに向かってくるのに合わせ牛もどきもこちらに突進してくる。牛もどきが氷の槍に気づくが今更その突進を止められないだろう。1発当てた場所を狙い放つ。
「ブモ!」
そのままバランスを崩して顔から地面にぶつかって横たわる。なんとか起き上がろうとするが、その前に目をつぶし、前回と同じように心臓に電気魔法を放つ。
少しの間痙攣しやがて生き絶える。
「いい働きだったぞテン!テンのおかげでこんなにも簡単に倒せたぞ!」
「キュー! キュー! キュー!」
「テンこちらにおいで。」
最後にまだやることがある。牛もどきの命を魔力をを纏った手で包み、テンの側へと持っていく。
「何か嫌な気持ちや、不快なことを感じたら言ってくれ。」
前回を思い出しながら牛もどきの命の光をテンへと移植し合わせていく。前回は反発しあったようになかなか混ざらなかったが今回はすんなりと混ざる。
「テン、調子はどうだい?おかしなところはあるかい?」
「キュイキュイ!」
元気に跳ね回っているから大丈夫だろう。やはり命の光を結合するとテンの命の光が明らかに強くなっている。この命の光はおそらく生命力に比例しているだろうから強くなるなら強くなるほどいいだろう。
さて、今回こいつを狩った目的だがあの大蜘蛛に食べさせてやろう。あの大蜘蛛がこのままくたばるとは思わないがそれでもあのまま放置するのは胸が痛む。
昔の母との会話が思い出される。
「ウカノ。この国にはヒト族しかいませんが世界には獣人族やエルフ族など、いろんな種族がいるのですよ。」
「どうしてこの国にはヒト族しかいないのですか?」
「それは我々が弱いからです。」
「ヒト族は弱いのですか?」
「ええ弱いのです。弱いからこそ力を合わせて1つになるため他の種族を排斥してきたのです。」
「うーん…それは悪いことなのでしょうか?」
「決して悪いことではありません。その結果我々の国は続いてきたのですから。しかし母はウカノにヒト族じゃないからといって拒むことはしないで欲しいのです。もし周りに困っている者がいれば助け、相手を知らないのであれば知る努力をして欲しいのです。相手を知らずに拒絶することほど愚かなことはありません。」
「分かりました!どんな者ぎ相手でもまずは知ることからですね!」
魔物や動物は凶暴なものだと勉強した。しかしこの森に来てまだ日は浅いが、彼らにも理性はあるしむやみやたらに周りを襲う凶暴性は持っていないと分かった。もちろん中には、目に映ったもの全てを襲う生物もあるかもしれないが今の所そんなものはいない。
さてある程度解体出来たからあの大蜘蛛の元へと持っていくとするか。前回の反応からは襲われる事は無いと思うが、何が虎の尻尾を踏むか分からない。気をつけないとな。
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