疑心と安堵
なんか色々話かけてくるけど、目的がイマイチ見えてこない。
目的もなく私に話しかけてくるとは思わない。
相手が陰キャなら、同類だと思って話しかけてきたのかなとか推測できるけど、相手はイケメン陽キャの瀬田である。
小野川さんが告白していたあの瀬田さんだ。
私に絡む理由が良くわからない。
なにかあるんだろうけど、見当すらつかない。絡むことで得られるメリットが瀬田さん側にあるとは考えにくい。少なくともパッと浮かぶようなことはない。だからこそ謎は深まるばかりだ。
「で、なんなんですか」
からあげを奪われた恨みと警戒心。
その二つが混ざり、自分でも驚くほどに冷たい声が出る。
「平戸さん。キミはとても面白い人らしいね」
「は、はぁ……」
「いいや、違うね。面白い人だよね。キミは」
「つまりなにが言いたいんです」
「面白い人だね、と言いたかっただけさ」
前髪を上げるように触る。
そしてにこっと微笑む。こういう時は笑っておけば良いんだろ、という思考が見え隠れしたような笑顔で、見ててあまり気持ちの良い笑顔ではなかった。
私は眉間に皺を寄せる。
「私はそんな面白みのある人間ではないですよ」
突き放すようにそう答える。
実際に面白い人間である自覚は一切ない。
その辺に居るなんの変哲もないただの女子高生でしかないのだ。
「僕だけじゃなくて、僕の周りも平戸さんは面白いよね、って声がちょくちょく出ているんだよ」
「そうですか。そうなんですね」
「そうそう」
面倒臭い。だからなんなんだ、という感じだ。さっさと私の前から消えて欲しい。そういう気持ちを前面に押し出す対応をしているのに、この人は居なくなる気配すらない。
「そんな平戸さんと仲良くなりたいなと思ってるわけなんだよ」
「はぁ、なるほど」
話半分に聞く。半分も聞いてないかも。
お弁当に手を伸ばす。そっちに集中して、お前には一切興味ないし、仲良くなるつもりもないよという小さなアピールすらも無に帰す。
些細なことだとでも思っているのか。不要な鈍感力を見せつけられている。
それにしても本当にすごい。そんだけ鈍感だったら人生なにがあっても楽しいだろうな。不満も不安もなに一つないのだろう。人生常にバラ色だろうから少しだけ羨ましい。
残った唯一のからあげに箸が触れる。
そのタイミングで、私の手に瀬田さんの手が触れた。
小野川さんとは違い、冷たい手。ひんやりとした感覚で、私の手を簡単に包み込めそうなほどに大きい。
偶然ぶつかったのかなと、触れた手に目線を落とす。
掴むように触れてた。
意図的だというのが見てわかる。言われなくてもわかる。
またからあげを奪う気なのだろうか。
次からあげを奪ったら性犯罪者の免罪をかけてやろう。
私のじゃリアリティに欠けるから小野川さんの体育着を盗んだってことにしてやる。
「なんですか、突然」
嫌悪感を漂わせる。嫌ですという感情を表に出す。
小野川さんの席から冷たい視線が飛んでくる。
怖くてそちらに目を向けることすらできない。
私だって被害者なんだけど。
「ごめんね、手がぶつかってしまって」
あはははは、と爽やかな笑みを浮かべる。
嘘なのは見え透けてるんだけどね。だから私はその爽やかさにさえ気持ち悪さを覚えてしまう。
きっと単純でちょろい女の子ならころっと落ちてしまうんだろうけど、私は違うから。
舐めないでもらいたい。
「まぁ僕と仲良くしてくれると嬉しいな。ね?」
瀬田さんは私の反応に一切怯みを見せない。
手を触るなよ、気持ち悪いな……と思いながら睨んでも、手をどけるどころか、国家間の条約でも締結したみたいにガッチリと手を繋ぐ。周囲に見せつけるかのように握手をするのだ。
握手から逃げようとしても、男の人にガッチリと掴まれてしまえば、太刀打ちすることはできない。
瀬田さんはわざとだろうか、より一層強く握った。
嫌だという一言を口にすれば良い。考えるだけなら非常に簡単なのだが、実行に移すとなると途端に難しくなる。
「ね、仲良くして欲しいな」
ニヤッと私を見つめながら口角を上げる。
ぞわぞわと背筋の鳥肌が立つ。
「あ、あ、あ、は、はぁ……」
嫌なのに。嫌だとは言えない。
面倒な男とは関わりたくもないのに、そうとも言えない。
まぁそんなことをはっきりと口にできたら、陰キャもぼっちもしてない。
つまりこうなった時点で私の敗北なのだ。
「ほら」
瀬田さんはすらすらとスマホを触る。
そして画面を見せてくる。そこにはQRコードが映し出されてた。
「これ読みとって友達になって」
「あ、は、はい」
仕方なしに従う。
スマホを取り出し、コードを読み取って、申請をする。
サッカーコートで手を広げるトップ画像。なにげない写真なのに、瀬田さんが嫌い過ぎて、この構図の写真にすら嫌悪感を抱いてしまう。
ビックリしてしまうほど、私は瀬田さんが嫌いらしい。まぁ好きになる要素ゼロだし仕方ないね。からあげ奪っておいて友達になって欲しいとか私舐められてるのかな。舐められてるんだろうな。
「それじゃあ、仲良くしてね」
そう言いながら瀬田さんは私の前から立ち去る。
ホッと安心する。災難が去ったような気持ちだ。
ふと小野川さんの方に目線を向ける。
さっきは鋭い視線を感じたような気がして怖くて見れなかったけど、気のせいかもしれないし。
と、思って見てみるが、露骨に不機嫌になっていた。気のせいだって思い込むことすら憚られるほどに不機嫌である。
目を合わせると不満そうにむぅっと頬を膨らませて、ぷいっとそっぽを向いて目を逸らす。
可愛いなぁという気持ちと怒らせてしまったという罪悪感が綯い交じった。
向かいに座る鴨川さんは楽しそうに小野川さんの頬を指で突っつく。
反撃するようにパシンと額に指パッチンをお見舞いしてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます