自分から着せ替え人形になったりする
「それで具体的にどんなデートをするのかしら。この辺だとお買い物デートかお散歩デートになるのかなぁとは思うけれど。カフェとかも多そうだからカフェでゆっくりお話しというのも案外悪くないのかもしれないわね」
「そ、そうですね」
あまりのリサーチ力に私は若干引いてしまう。
これ、私がデートプランを考える必要あったのかなと不安にもなる。絶対に小野川さんが考えた方が良い一日を過ごせるよね。
でも任せろと言ってしまった以上引き返すわけにはいかない。私にだってそれなりに矜持がある。
「で、デートに制服しか着てこれないほどに私服が枯渇しているわけで、さ、さ、最近は私服が欲しいなぁと思うわけですよ。それなら、せっかくですし、小野川さんに選んでもらえば良いんじゃないかと思いまして」
我ながら天才だと思う。
私はおしゃれな人に洋服を選んでもらえるし、私服が増えるし、小野川さんは私を着せ替え人形として遊ぶことができる。
ウィンウィンではないだろうか。
果たして、私を着せ替え人形みたいにして楽しいのかというのは一考の余地があるのかもしれないけど。
洋服を買うだけなら私一人で買いに行ったって良い。
というか普通は一人で買いに行くものなのだろうと思う。
けど私にはできない。
理由は何個かある。
まず一つ目は私のファッションセンスは壊滅的であるということ。中学、高校と制服という規定された服を身に纏っていた。休日は外出しない。そうなると私服を着る機会というのはぐんと減少する。ファッションを勉強する機会をことごとく逃した結果、センスというものを習得できなかったのだ。スキルポイント不足である。
二つ目は店員さんに話しかけられるのが怖いということ。ぼっちで陰キャな私には単純にハードルが高い。「そちらのスカートでしたらこちらのトップスと合わせることで春っぽさを醸し出すことができますよ~」とか話しかけられた暁には大逃亡を決めてしまう自信しかない。
小野川さんが服を選んでくれれば、私のセンスは関係なくなるし、店員さんが話しかけてくる確率もぐんと減る。話しかけてきても小野川さんが対応してくれるだろうし。あ、この期に及んで人任せかよとか言わないで欲しい。
打算的なところも多い。もちろん純粋に楽しむという目的もあるんだけどね。
「私が選んで良いのね?」
小野川さんは瞳をキラキラさせる。女の子ってそういうの好きだよね~。私も女の子なんだけど。
ネットに入り浸り過ぎて、感覚そのものはその辺の男よりも男っぽい。
「選んでください」
「私の趣味に偏っちゃうかもしれないけれど」
不安そうに尋ねてくる。
「構いませんよ」
特に迷うことなくそう受け答える。小野川さんは驚いたように目を丸くして、本当に? と呟く。
私はこくこくと頷く。
「私、絶望的にファッションに興味がなくてですね、極論を言ってしまえば、そ、その、裸じゃなきゃそれで良いと思ってるんですよ」
「すごい思い切りの良さね」
「思い切りというか、興味関心が薄いだけですけどね。興味があったら制服でデートになんか来ませんよ」
「でも小学校の時に使っていた私服では来ないのね」
「あれはほとんど裸なので」
あははと笑う。
「そういうわけなので、小野川さんの好みに私のことを変えて欲しいんですよ」
「私好みに……」
「はい」
ちょっとだけリボンを緩める。
「私のことを着せ替え人形だと思って好き勝手しちゃってください」
私は手を差し出す。
小野川さんは私の手を掴む。
「お願いできますか」
私は問う。小野川さんはにこりと微笑む。
「うん、任せてちょうだい。私好みに仕上げてあげるわ」
小野川さんに手を引かれた。
軽く手を繋ぐ。小野川さんからしたらなんてことなに行動なのかもしれないけど、私にとっては温かくて、包まれるような気持ちになった。
小野川さんとの微かな繋がりだから。
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