前世でも転生先でもパッとしなかった俺氏。反乱軍にスカウトされ動乱の世で名を残そうと志すが、戦闘以外の仕事が多くて困惑する。

呉万層

第1話 注目されてしまった男

 俺の名はガーヤ・フォット、便利屋と公務員の中間とでもいうべき衛士団に属している。階級は、下から三番目の衛士組長で、普段は三十人の部下を率いて治安維持の任務に就いている。


 社会階層は平民であり注目される要素の少ない男だ。


 そんな俺に、大広場に集まった下層民と平民からなる数万の群衆と、壇上に立つ百の有力者たちの視線を一身に集めていた。


 場所は、自治領における最大の商業都市カンダガ、その大広場、時は正午のことだった。


 俺に向けられる視線の九十九パーセントは冷ややかであったが、残った一パーセントは、期待のこもった熱視線だった。


 熱い眼を向けるてくる者が、口を開く。


「先陣の勇者ガーヤ・フォット、おのれも余の元へ来い! 余の親衛隊で一手を率いる栄誉を与えよう。竜帝陛下をお助けしたあとには、より輝く栄光をくれてやろう!」

 

 大広場に設けられている壇上から、エルフ族の偉いさんが、俺に向けて手を突き出していた。


 どうやら勧誘されているらしい。俺が一手の将だって?


 一手といえば、最低でも千人前後、それも槍兵や療術兵など多種多様な戦闘部隊や支援部隊を含んだ諸兵科連合部隊だ。


 申し出を受ければ、 階級は千人長となる。衛士団なら衛士隊長クラスだ。

 大した出世となる。

 何より重要なのは、出世のスタートを切れるのだ。


 千人長は、中級の将校だ。


 兵卒からでは、多少の手柄を上げたところで、ボーナスを得るか良くて軍曹や伍長になるかだ。

 軍の幹部である将校の世界には入れず、出世につながる仕事自体をえられない。


 手柄を立てれば、軍団長やその軍団をまとめる軍司令官役の将軍になれるかもしれない。


 現世でも異世界でもうだつの上がらなかった俺が、あこがれた戦国武将のように、領主になれるかもしれない。しかし、懸念もある。

 一手の長は軍の中堅幹部だ。上手く立ち回らく手は、悲惨な運命が待っているかもしれない。


 究極の選択だ。


 なぜ俺は、選択というストレスにさらされているのだろうか?


 俺は、つい十数数分前の記憶を、思い返し始めた。

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