第2話
晨星はほろほろと落ち落ちて 序幕
「面白い見世物があるって聞いたけど……なるほど。確かにこれは面白いな」
「ちょっ!? ル、ルーザー君?!」
ニヤニヤしているルーザーに、そんな軽口に驚きを隠せないとエルがやってきたその場所は、アールスヴェルデ魔術学校の別館(と言える場所)。
学生たちが魔術を使った学びや戦いに日々を費やす本館とも言うべき巨大な建造物のすぐそばにある、本館に比べればやや小ぶりの主に魔術の研究をしている教師たちの研究室が置かれている建物――の地下にある謹慎室だ。
その名の通りそこは魔術学校でやらかした人間を閉じ込めておく
「……なにしに来たのよ」
誰が来たのか声で理解したのか、むすっとしながらも視線は向けずに来訪理由を尋ねるポムカ。
「いやなに、エルに珍しいものが見れるって聞いたんでな。ちょっと見物に来ただけだよ。おかげで極悪人の顔を拝めたってもんだ」
「だから、ルーザー君!」
そんなポムカに相も変わらず軽口をたたくルーザー。
「……そ。なら、見物料を置いてさっさと帰ってくれる? 次はどうやってエルを辱めてやろうか考えてるところなんだから」
「オラを辱めた罪で捕まっとったん!?」
しかし、それでいちいち目くじらは立てないと、ポムカもあえてその言葉に乗っている――おかげでエルは巻き添えを食らった訳だが。
「……ふっ、意外と平気そうなのな。お前」
「まぁね……それより、その……そっちは、どうなのよ……」
「あん? 俺?」
消え入りそうな声で問うポムカ。
顔は動かさず、視線だけをチラチラとルーザーに送る彼女の姿からは、どこか本気で心配している様が見て取れた。
「なんか……大怪我したらしいじゃない? まぁ、エルから聞いただけだけど……」
「ああ、らしいな」
「らしいなって……なんで他人事なのよ?」
「ずっと寝てたからわかんねぇんだよ。それにもう完全に治ったしな」
足をバンバンと踏み鳴らしてみせたルーザー。
その振る舞いに「そ」と軽く返してみせたポムカだが、わざわざそれを話題に持ってくる辺り、心根では本気で心配していたのだろう。
「……それより、そっちこそ何したんだ? 教師も森も燃やしたって聞いたけど……」
「だとしたら、それが全てよ。おかげでナーセルたちにも苦労をかけちゃったし」
「あいつらに?」
「それはオラが話すんよ」
どこか話が見えないとルーザーに、話を引き取ったエル。
そんな少女が語る顛末は、本当に唐突なことだったという。
あの事件の折、戦っていたクゴットとデクマの援護をしようと魔術を放ち猪の体を炎上させたポムカは、その後すぐに息が上がったように呼吸が乱れ、視線は定まらなくなり、挙句の果てには胸を押さえながら苦しそうに、その猪の姿を見つめ続けていたのだという。
そんな急な変化にどうしたのかと問おうとしたエルだったが、猪がポムカ目掛けて突進してきた時にそれは起こったのだそう。
「急にポムちゃん、魔術を猪さんだけやなく、辺りにバンバン放っとってな」
威力も範囲も何も考えてない無差別すぎる火の魔術。
それにエルやクゴットたちまで巻き込まれたことで、流石に様子がおかしいと止めに入ろうとした教師陣。
しかし、まるで止まる気配がないばかりか、「来ないで!」と悲鳴を上げるや否や彼女自身が使えるであろう最大の火の魔術を放ったことで、猪の討伐は出来たのだが、近づいていたクゴットとデクマ、更に目の前の森まで巻き込んでしまい……
「それで猪だけじゃなくて、教師の丸焼きができたと」
「丸々は焼いてない」
正確には顔や体に大きな火傷を負わせる程のダメージを与えてしまったんだとか。
本来であれば避けたり退避できたのだろうが、最初のアルクウからの不意打ち、その後の生徒たちを庇いながらの猪との戦闘による疲労、そして仲間だと思っていたポムカからの攻撃と、様々な不運が重なりそんな結果になったのだろうと、彼らの治療を受け持った医師が言ったそう。
「ま、確かに不運っちゃ不運か」
「それで誰もポムちゃんを止められんくて……もう一匹の猪を追いかけて森を燃やしていく中でな、ナーちゃんたちが慌てて戻ってきたんよ」
そもそもナーセルたちは、ルーザーによる魔獣狩りの特訓を受けていないとポムカから避難に徹して欲しいと言われ逃げていたのだが、異様な状態のポムカの様子を見て戻って来ると、ポムカを抱きしめながら自分たちが燃やされるのを覚悟で抑えてみせたのだいう。
「ず~っと声かけとったんよ。大丈夫、とか。ここにはもう怖い物はないんよ、とか」
「……」
エルの解説に口を
その様子から察するに、エルの言葉は間違っていないのだと理解したルーザー。
「それで何とか正気を戻して……今があるって訳か」
「正確には自分から入る
「当然じゃない。教師の方たちは勿論、友達まで攻撃しちゃって傷つけてるんだから……そんな私が、外に居たらきっと……」
そう語るポムカの顔は酷くやつれた、心底堪えたといった様相で、本気で反省しているものであったのだが……。
「……別に、そう落ち込む必要なんてないのにさ」
そんな彼女たちのもとに、ヘラヘラと笑顔を見せながらナーセルとフニン、そしてルーレが現れたことで、ポムカの顔は驚きのものへと変化する。
「ナーセル! フニン! ルーレ! 皆、大丈夫だったの?! 怪我は!?」
謹慎室に取り付けられた鉄格子付きの窓から顔を乗り出さんばかりに3人を心配してみせたポムカ。
そんなポムカに「無事。ポムの、炎、慣れてる」とルーレの言葉を合図に、ルーザーがエルにしてみせたように、か細い上腕二頭筋を見せつけたナーセルたち。
勿論、ルーザーのように力こぶを見せるための行為ではなく、どこにも絆創膏を付けていないという意味合いのものではあるが。
「……そう。それならよかったけど……でも、本当に私……」
3人の姿に安堵の表情を見せるポムカ。
しかし、それでも自分が3人にしてしまったことを鑑みたことで、その表情は晴れやかではいられないようだ。
「だから良いってば!」
「そうですよ~。そもそも私たちの方が~」
「助けられて、きた」
反省しきりのポムカに、笑顔で応えてみせるナーセルたち。
そんな中、「助けられてきた……ねぇ?」とルーザーが口にする。
「そういや、そもそもお前らっていつ仲良くなってたんだ?」
「せやね? 急に3人のこと紹介されたんやけど……」
聞いていいものかどうか迷っていたとエル。
正直、どうでも良かったがこの際、興味が出てきたとルーザー。
それぞれ理由は違えども、魔術学校に通っている時に突然紹介されたというこの3人との馴れ初めに興味を抱くと、これがいい機会だと理由を尋ねる。
それがポムカを身を挺して助けた理由に繋がるとなればなおのこと、と。
そんな2人の問いにポムカが3人の顔を見合わせているが、3人自身はポムカに委ねるといったよう。
「……そうね。あなたたちには話しておかないと」
どこか遠慮がちではあったが、ポムカ自身の言うように、信頼している2人にならと何かを決意したようだ。
「いや、別に話しづらいんなら構わねぇけど……」
「そ、そうなんよ!?」
「……いいえ、ここまでずっと一緒にやってきたんだもの。せっかくなら聞いて欲しいわ」
ポムカの真剣な眼差しを受け、まぁそういうことならと顔を見合わせた2人は口を噤む。
その姿を話していいという肯定の意味で捉えたポムカは、満を持してといった形で自分の過去について話し始めた。
「私たちが出会ったのはね……貴族の奴隷だった頃なのよ」
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このような形の挨拶があると知った私、蛙です。お久しぶりです。いつもお世話になっておりますm(__)m
2話目の配信遅れて申し訳ありませんでした。気合を入れて作ったらとんでもなく長くなっちゃったので、今まで頑張って製作しておりました。
ということで、本日から2話目を配信いたしますが、1話目のように一気にではなく分割で、それも2日に1度(4月は奇数日)の配信とさせていただきます。それぐらい長いので……。
だいたい21時頃か21時過ぎには配信致しますので、よろしければお付き合いお願いいたします。
合わせて1話目の手直しもする予定ですが、知っておいて欲しい部分は『近況ノート』に記載させていただきますので、改めてお読みいただく必要はないようにしておきます。
お知らせが長くなってしまいましたが、これからも皆様に楽しいと思っていただける作品になるよう努めて参りますので、応援よろしくお願いしますm(__)m
P.S タイトルの読み方は『
P.S タイトルは『
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