第4話 朝比奈
朝比奈三郎義秀の口上に、アルケーと天使達は堪らず耳を塞いだ。
まるで戦闘機のジェット音の様な腹に来るバカデカ声だ。
「うるっさーい! ってか何で名乗った!?」
「お前さんは俺をコケにした。ならもう戦だろう? 女とは言え神仏と戦えるたあ武士の誉れ! いざっ!!」
三郎は弓に矢を番えヒュッと射る。
危ないと思った天使達がアルケーを押し倒して、その矢を躱した。
「邪魔! 退きなさい!」
庇った天使を退かせ、アルケーはアーリーライフルの銃口を無礼な人間へと向ける。
「
詠唱名と共に淡水色の光弾が撃ち出される。
鎌倉時代の人間は知らない「銃」というタイプの武器。
だが三郎は銃口が向けられた瞬間、武士の直感とも言うべき能力で石柱の影に飛び込んだ。
「チッ! ちょこまかと!」
アルケーはゴリ押しとばかりに魔法弾を石柱に向けて撃ちまくる。
隠れようが無意味。あちらの武器は所詮弓矢だ。
矢を番え、狙いを澄まし、矢を放つまでにアルケーはは3、4発は魔法弾を撃ち込む事が出来る。更に女神である彼女なら魔力切れによる弾切れなんて事は無い。
(身の程知らずな人間。女神の力を思い知りなさい!)
自分の神域の物であろうとお構い無し。三郎の隠れた石柱に暴風雨の様な魔法弾を放ち続けた。
しかし三郎も黙ってはいない。
初めて見る銃に舌打ちこそしたものの、すぐに切り替えて石柱を力一杯に押した。するとたちまち石柱はひび割れて根本から砕けた。
「やっば撃ち過ぎた!?」
まさか人間の力で折れるなんて思っていないアルケーは、これが自分の乱射に因るものだと勘違いする。
そして逃げなければと横に飛び退いた時だった。倒れる石柱の上から人影が舞い踊った。
三郎だ。彼は倒れる石柱を鎧を着たまま駆け上がり、アルケーとの距離を詰めたのだ。
「バカね!」
勝ったとアルケーは思った。
空中ではこちらの攻撃を回避することは出来ない。アーリーライフルの銃口を三郎に向けた。がーー、
「キャッ!?」
咄嗟の動きで身体が追い付けず、脚がもつれて転倒する。
そこへ三郎が飛び掛かり取っ組み合いとなった。
「無礼者! 私に触れるな!」
「うっせぇ! どうせ冥土に行くならオメェの首を手土産にしてやらぁ!」
「頭イカれてんじゃないの!? 離せ……ひゃぁっ!?」
突如、アルケーの視界が一回転し身体に痛みが走る。
(え? 何? 投げられたの?)
それに気付いた時には、また視界がぐるんと回って全身に痛みと衝撃が走る。
三郎はアルケーの身体をまるでぬいぐるみを扱う様に、彼方へゴロン此方へゴロンと何度も何度も床に叩き付けた。
最初は何とか受け身を取ろうとしていた女神も、次第に抵抗する力が無くなり、とうとう手に持つアーリーライフルを手放してしまう。
それを見た三郎はトドメとばかりに彼女を石柱に投げつけた。
「うっ……。つぅ……」
痛い。
やっと解放されたが、もうアルケーに戦う気力は残ってなかった。
ぐらぐらする意識の中、彼女の目の前には太刀を抜く三郎の姿があった。
(ヒィ!? は、早く、回復しなきゃ)
回復魔法を発動しようとするも、いつもみたいに集中出来ない。
天界屈指の力を持っていた彼女にとって、ここまで自分を痛めつけた相手は初めてだった。もちろんこれ程の恐怖を味わった事もない。その恐怖が女神の魔法の発動を邪魔しているのだ。
(何で私が……。まだやらなきゃいけない事があるのに……。こんな事で死ぬの?)
近付いて来る鬼神の如き武者に恐怖しながら、アルケーの意識は闇に落ちて行った。
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