女神のさぶらい 〜逃げた勇者共に代わり武士を召喚してやった〜
サムハラ
武士召喚編
第1話 もういい!! 女神が行く!!
女神アルケーに仕える天使達は頭を抱えていた。
その昔、天界を追放した神が、魔王となって主人が司る下界で暴れ回っているのだ。
元は神の一柱だった魔王にとって、下界に生きる者達など物の数ではない。その強大な力を以て下界を荒らしている。
下界は神々にとって自らの力となるマナを生み出す場所だ。世界を育て生物を繁栄させれば、神に捧げられるマナは増える。
だが魔王の侵攻によってマナは横取りされ、彼女に捧げられる量は減少の一途を辿っていた。
これは女神にとっても、彼女に仕える天使達にとっても死活問題なのだ。マナを供給出来ず、力を失った神とその眷属はいずれ消滅してしまう。
「アルケー様。今期のマナ収穫報告です」
側近の天使2人は緊張した面持ちで、お昼寝中の女神の元にやって来た。
すすき色の佐天の様な髪を束ね、特徴的な大袖をした薄黄色の神衣を羽織った見目麗しい女神が、のそりと身体を起こす。
まだ寝たりないのか、瞼を細く開き天使達を見る。その表情は、寝惚けているなんて表現が罰当たりと思えるくらい美しい。
彼女こそが天界にその名を轟かす女神アルケーである。
「マナの報告? フフッ」
女神アルケーは微笑んだ。
魔王の出現以降、マナの収穫量は減少し続けている。
だが彼女は秘策を打っていたのだ。
「どう? 送り込んだ勇者達によって魔王は倒され、マナの量も元通りでしょ?」
下界で暴れる魔王に対し、女神アルケーは別世界から召喚した人間に力を与えて勇者として送り込んだ。
きっと今頃は魔王を討ち倒し、マナの収穫量も回復しているだろうと思っている顔だ。
そんな主人にこの報告をしなければならないと思うと、天使達は気の毒と言うよりない。
「アルケー様……それが……」
「勇者達は魔王との戦いに嫌気が差し逃亡。魔王軍の侵攻は止まらず、マナ収穫量は前期の20%減です」
大失敗ーー。
報告を聞いたアルケーは震える手を眉間にやった。
「今からちょっと大声を出すわ。耳を塞ぎなさい」
これはいつもの癇癪だと諦め、天使達は言われるがまま耳を塞ぐ。
「何やってんのよ! バカ勇者共ぉー!!」
怒りのままにアルケーは机を叩き付けた。
「ありえない! 私の、女神の力を分けて上げたのに、魔王との戦いに嫌気が差して逃げた!? 私の力を持ち逃げしたって事!? ねえこれどういう事なのこれ!? 耳塞いでんじゃないわよバカ!」
耳を塞げと言ったのはアルケーなのだがまあ、こんな理不尽は日常茶飯事。
「やはり異世界から連れて来た人間を勇者にして送るというのは、無理があったのではないでしょうか?」
「だって向こうの世界、特に日本人って質が良いって評判じゃない!」
実は彼女のように混迷した下界を何とかしようと、異世界の人間を転移させる神々は多い。
特に文明の発達した地球人は人気で、その中でも日本人は、礼儀正しく、やる気に満ち溢れ、まるで教育されていたかの様に異世界転移を理解し、ちょっと人ならざる力を与えれば喜んで了承してくれる事で有名だった。
そんな感じでアルケーも幾人かを異世界に送ったのだが、結果は大失敗である。
「もういい!!
やけくそ気味にアルケーは声を上げた。
「アルケー様自らですか!?」
「もう勇者なんて当てにならないわ! 魔王は、カラミティは私が倒す! あと逃げた勇者共もとっちめて来る! 女神舐めんな人間!」
せっかく召喚して力まで与えてやったのに、使命を果たさず逃げた勇者達に怒り心頭だ。
今すぐにでも下界に降りてしまいそうな主人を天使達は慌てて止めた。
「お待ち下さい! 今のアルケー様は勇者達に力を与えた影響でその……力が弱まっております」
「関係ないわ! 一度は力尽くでこの天界から追い出してやったザコカラミティですもの。この状態でも余裕よ!」
アルケーは天界にいる神々の中でも指折りの力を持つ女神だ。
下界で暴れている魔王カラミティも、元は彼女が天界から追い出した神である。
しかし力の源でもあるマナも減り、勇者達に力を授けた今のアルケーにかつての力はない。
主人はああ言っているが天使達としては、そんな彼女を1人で行かせる訳にはいかないのだ。
とは言え無理に押し留めようして聞いてくれる御方でもない。
だから天使はある提案をした。
「分かりました。ですがせめて従者を連れて行って下さい」
「ダメよ。天界の住人が大勢下界に行けば、悪影響が出てしまうもの。私1人で行くわ」
そういう事情を知っているアルケーは当然拒否する。
だが天使の考えは少し違った。
「いいえ天界の住人ではありません。もう一度、異世界から勇者を召喚して従者とするのです」
「また? でも言っとくけど、もう人間に分け与える力の余裕は無いわよ?」
「ええ、ですから元より十二分に強い者を呼んでくるのです。そう例えば、武士とか」
「武士ぃ?」
あまりに突拍子もない提案に変な発音になった。
「はい。これまで召喚した者達よりずっと過去の人間です。常日頃から武を磨いている彼等ならば、きっと女神の力を与えずとも戦力になってくれるでしょう」
何だか胡散臭い話だ。同じ種族なのに時代が違うだけで、そこまで性能が違うものだろうかとアルケーは訝しむ。
「まあ、身の回りの世話をしてくれる人間が居れば色々楽か。良いわ。武士を召喚しましょう」
元から人間の力なんてアテにしていない彼女は、そんな軽い気持ちで了承した。
「ですがお気を付け下さい。武士は現代人と違って気性が荒く暴れん坊です」
「ただの人間でしょう? 私の敵じゃないわ」
「は、失礼しました。ではアルケー様、召喚の儀式を行いましょう」
アルケーは澄ました顔をして勇者達を召喚した時空の間へと向かった。
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