第3話 ソーセージエッグ定食サバイバル
ー出張前の午前7時
行きつけの牛丼屋「松屋」で店員に食券を渡し、いつもの席に座る。
お冷が出てきた。
あたたかいお茶からこの冷たいお水に変わると季節の変わり目を感じるのは牛丼屋ユーザーあるあるだと思う。
気持ちを新たに、無印良品で上質な文庫本風ノートを購入して日記をつけ始めたのだが…
気づいたことがある。
牛丼屋の話以外ぶっちゃけ書くことがない。
表紙に「サラリーマン日記」と謳って始めてみたが、正直「牛丼日記」に改名してもいいかもしれない。
そう考えると、私が今死んだらきっと走馬灯は…
食券機の前でおろし牛丼にするかチーズ牛丼にするのか悩み続けているところ
牛丼今日は並盛りにすべきだったなーと悔やんでいるところ
サラダのドレッシングをシーザーにするか、ごまドレにするかでカロリー計算をしているところ
牛丼屋ダイジェストかもしれない。
お、恐ろしい。
「お待たせいたしました。
ソーセージエッグ定食です。」
「ありがとうございます。」
あなたは頼んだことがあるだろうか
松屋の朝食、実はとてもコスパがいい。
朝5時から11時までの間に注文することができるモーニングメニューは複数あって、中でも1番人気はこの『ソーセージエッグ定食』だと思ってる。
ご飯とシンプルな具材で構成されたお味噌汁、サラダ、お新香、味付け海苔、目玉焼きとソーセージといった固定メンバーに加えて
小鉢は牛皿、ネギ納豆、とろろ、冷奴のいずれかを選択できる。
このラインナップ、ボリューム感で450円。
ワンコインかつお釣りが出てしまう値段なのだ。
「いただきまーす」
小さく手を合わせて私は早速牛皿を熱々のご飯の上に乗っけた。
はい、牛丼の完成だ。
そして、デカいプレートに盛り付けられた目玉焼きをそーっと牛丼の上に乗せる。
半熟でプルップルの目玉焼き。
以前プレート上で目玉焼きを食べた時、黄身が流れて出てもったいなく感じていたので、リベンジを果たしたかった。
満足したところで、早速サラダに手をつける。
肉を食べる前に野菜を摂取しておくことで血糖値の上昇を抑えて栄養バランスを整える事ができる…と、先日ラジオで聴いてから松屋では先にサラダを食べている。
私の場合は野菜をあまり買わないから食べる機会がほとんどない。
こうして定食で摂取できるのは本当にありがたいものだ。
そして、メインの目玉焼き牛丼をいただく。
朝だけどこのルックス、香りにはそそられる。
無限に食べれる…が、ここで調子に乗ってはいけない。
食べるご飯の配分をミスると、控え選手のソーセージと味付け海苔に辿り着けないのだ。
いい感じに計算しながら黄身を崩し、肉を絡めて食べる。
どんぶり越しにチラリと周りの戦士たちの様子を伺う。
U字型のカウンター、今日は私を含めた3人のおじさん戦士が牛丼と向き合っている……?
え、まって…。
全員ソーセージエッグ定食だ。
小鉢も牛皿…
私は確信した。
これは誰がこの定食のご飯を綺麗に食べ切る事ができるのか…
「ソーセージエッグ定食サバイバル…?」
私の右隣に座る30代のスーツサラリーマンは、おそらく初心者だ。
既に眉間に皺が寄っている。
頼んだのは『ソーセージエッグ定食小盛り』
牛皿によって見事にご飯だけ先になくなっている。
おかずのオンパレードに頭を抱えている。
おいおい、このメニューの名前はソーセージエッグ…だぞ?
ご飯の配分をしくじったに違いない。
気持ちはすごく分かるが…。
すまぬ、私は先に行くぞ。
箸を進めてソーセージにありつく。
パリパリでうまい…。
目玉焼き牛丼の味変として大活躍し、さらにご飯が進む。
目の前にいる戦士は、
60代の筋肉マッチョじいさんだ。
ナイキの黒いジャージ姿で首からメモ帳のようなものをぶら下げている。
「ソーセージエッグ定食並盛り」か…
さっきから私とほとんど同じ食べ方、
サラダを食べてからの目玉焼き牛丼からの味変ソーセージスタイル。
そうそう、これが正解だよね。
この戦いは終盤戦を迎えた。
お新香を食べて口の中をさっぱりさせる。
私の目玉焼き牛丼は現在、おかずを食べ切って、3分の1のご飯を残した状態。
プレート上には味付け海苔が息を潜めている。
この味付け海苔をご飯に巻きつけて〆るか。
あっ…
海苔の袋を開けて気づいた。
私は重大なミスを犯した。
「思い込みだった…?」
この店の海苔は、
味付け海苔ではなく、焼き海苔だった。
味のしない海苔をご飯に巻きつけて食べる。
あ、味しない。
香りは凄くいい…けど味がしない…。
てっきり子どもの頃大好きだった味付け海苔巻きご飯が食べれるものだと思っていたので、とてもテンションが下がった。
ちょっと待て、おじさん戦士は…?
海苔どうした??
急いで前を向く。
既に海苔の袋は開封されていた。
どういう…え。
おじ戦士は、目玉焼き牛丼に海苔をちぎって散らしていた。
海苔本来の香りを楽しみつつ、目玉焼き牛丼を楽しむ戦法だった。
ピタッと目があった。
惜しかったねと言っているかのように、おじ戦士は微笑んだ。
私は隣の小盛りサラリーマンと一緒に頭を抱えた。
完全敗北だ…。
味噌汁を飲み干して心を落ち着かせ、前を向く。
今日も仕事に行く。
4月26日ー
あぁ、また牛丼のこと書いちゃった…笑
サラリーマン日記 海音 @nukadukenokami
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