その人の話
実和
エピローグ
「遅れてすみません‼」
僕は開口一番その人に謝った。
「全然良いよ。来てくれないのかと思っていたからむしろ来てくれてありがとう。」とその人の微笑を含んだ声が上から降って来た。その声に安心して顔を上げ僕は初めてその人を正面から見た。
僕は今日その人の話を聞きにこの古びた喫茶店にやって来た。店内はジャズが流れてコーヒーの良い香りだ。本当は僕の方が先に着く予定だったんだけど雨でバスが遅れ、そのせいで遅れてしまった。窓をうつ雨がもともと薄暗いであろう店内をより一層暗くしていた。
「私は先にコーヒーを注文してしまったけど、君は何を飲む?」
「あ、僕はカフェオレを」
「マスター、この子にカフェオレを一つお願い」
「あいあい、分かったよ、君はいつも「します」の一言くらい付けたらどうだね?」
その人とマスターが慣れた雰囲気で笑っている。その感じから察するにその人とマスターは長い付き合いのようだ。
「君は今日私の話を聞いてくれるんだね?」
「はい。そのために来てますから。」
「ありがとう。なんの取り留めもない話なんだけど誰かに聞いてほしくて」
その人は物憂げな顔でコーヒーのスプーンを回した。不思議な人だ。顔は若いのに疲れた雰囲気からか歳をとっているようにも見える。ダルっとした少しよれたトレーナーにジーンズを合わせている。服装はカジュアルなのに横の椅子に掛けたコートはおそらく毛で作られており上等そうだ。髪はボサボサで化粧もよく見ないとしていないように見える。しかし所作はきれいである。第一印象としてアンバランスだと感じた。
マスターが僕のカフェオレを持ってきてくれた。
「今日こいつの話を聞いてくれるんだってな。こいつの話は長いぞ。」とマスターが冗談めかして言った。
「覚悟はできてます。」と僕も少し笑って返した。
その人は失礼なとボソッと呟いたあと
「ならば都合がいい。たっぷりと話せる」と少し笑って言った。
さて何から話そうかな
その人の話 実和 @nezameyuzame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。その人の話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます