第50話

僕の『自分に本当に大切なもの』って、明るい性格とかだったりして。


「本当はもっとたくさん種類あるんだけどね~。結構売れちゃって、もうこれだけ」


 店員とみられるハコフグ顔のお兄さんが言った。


 ペールレモンに墨色の水玉模様の顔で、蝶ネクタイなんぞもつけてある意味おしゃれである。


 魚のお面もあるのね……。


 別に水なくても大丈夫なのね……。


「あっ‼ ビート‼」


 ビートが緑色の水飴でコーティングされたみかんに飛びついた。


 そしてあっという間に食べてしまった。


 食べ終わると同時に、航志の頭の上に高くジャンプした。


「わっ! ナニナニ?」


 航志が頭を抱える。

 ビートは航志の頭の上で、ゴリラのごとく胸を張ってドドドドと胸を叩いた。


 そして小さな小さな歯をむき出し、威勢よく吠えた。


「超ワイルドって書いてある……」


 僕はビートが食べた、みかんの棒を見ながら言った。


「こんなワイルドなビート、見たことない……」


 葵鈴があっけにとられた様子で言った。


「あっ! ダメ‼」


 葵鈴が叫んだときは遅かった。ビートは今度は透明な水飴にコーティングされたあんずに飛びついた。


 これもあっという間に食べてしまった。


 今度はビーチに降り、踊りはじめる。


 音が切れたところで、一回転し、大胆なポーズを決めた。


「今度はナルシスト食べちゃった‼」


 葵鈴があんずの棒を見て言った。

「でもいつもとあんまり変わらないね……」


と僕。


「ビートのやつ、ナルシストだったのか……」


 葵鈴、驚きながらも納得の表情。


「とにかくオレたちが食べるのはやめておこう……」


 航志もチョコレートをあきらめたように言った。


「水飴二本でコイン一枚ね! まいどありい」


 ハコフグ顔のお兄さんが、おちょぼ口を嬉しそうに広げ、僕たちに威勢よく声をかけた。

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