第25話 強そうな村長さん

 部屋の中は松明などで明るくされてはいるものの、それでもまだ薄暗い空間だ。

 でもこの広さにお酒を隠していたのかって思うくらいに広々としている。

 この広さでなおかつ地下にあるっていうなら避難場所として使われるのも納得だな。

 その時、「もしかして」といいながら中にいた何人かの人が近づいてきた。

「アジェガ?アジェガじゃないか!」

「おお!無事だったのか!」

 みんなアジェガさんの無事を喜んでいるみたい。

 アジェガさんもみんなとの再会をよろっこんでいる。

 そんな村人たちの後ろから、一人の女の人が近づいてきた。

 その目には涙が浮かんでいる。

 それを見たアジェガさんも一瞬驚いた後泣きながらその女の人に近づいた。

「カリン!」

 アジェガさんはそういいながらカリンと呼ばれた女の人に抱き着いた。

「よかった・・・よかった」

 そういいながら泣き続けるアジェガさんをカリンさんも泣きながらそっと抱きしめた。

「カリンはアジェガの妻なんだよ」

 案内してくれたあの村人がそう教えてくれた。

「カリンはアジェガがいない間ずっとあいつのことを心配していたんだ」

「そうなんですね。アジェガさんもここに来るまでの間ずっとみなさんのことを心配していましたよ」

 それを聞いた彼はふっと微笑んだ。

「あいつらしいな」

 そこにやけに貫禄のあるおばさんが近づいていた。

「おや?知らない顔だね?」

「そ、村長⁉」

 え⁉この人がこのおおきなお酒の隠し場所を持ってた村長⁉

「この子はわたしたちの村を救ってくれるために町から来てくれた子です!」

 いつの間にか戻ってきたアジェガさんがそう言った。

 村長さんは「ほう?」といいながらわたしのことをじっと見つめてきた。

「あんた、名前は?」

「は、初めまして。わたしはカルミアと言います!ベリル村で本屋を営んでいるものです!」

「あたしはパキラだよ!この村で村長をしている。よろしくな!」

「よ、よろしくお願いします」

 パキラさんは「ところで」と口を開いた。

「あんた、いま本屋をやってるって言ったけど、本当に魔物に勝てるのかい?」

「冒険者の人に何度か修行をつけてもらったことがあります!それに魔物とも何度か戦ってきました」

 しかしパキラさんは鼻で笑った。

「いうだけならどうとでもなるさ。そうだね・・・よし!あたしとかるく戦おう!」

 え?ええええええええええ!!!???

「そ、村長、本気ですか?」

「何だい?これでもあたしは村長だよ!少しは戦えるさ!それに、あたしに勝てないような子があれに勝てるわけがないだろう?」

 ベリル村の村長は小太りのおじいさんであんまり強そうには見えないけどな。

 でもたしかにこの人は油断ならない気配がする。

「もちろん辞退したっていい。ただ、その場合は魔物と戦うのはやめておくんだね。若い子が死ぬのは看過できん」

「やります」

 ここまで来て引くなんてできないよ。

 それに、あの壊された村をみて何もしないなんてできない。

「そうかい。それの心意気が蛮勇かどうか。あたしが見てあげようじゃないか!」

 パキラさんはわたしを部屋の真ん中に連れてきた後、まわりに誰も近づかないように言い渡した。

 そこは部屋の中でも結構なスペースがあるところで、床には正方形の線が引いてある。

「ルールは簡単。どっちかが降参、または戦えなくなったら終了。それから、この線から出たら失格。これでどう?」

「わかりました」

「よし。みんなはちょっと隠れてろ!アジェガは合図を頼む!」

 村人たちが離れたのを確認したわたしたちは互いに向き合った。

「それでは、よーい・・・スタート!」

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