天稟『本好き』の本屋さん

月夜アカツキ

第1話 なんなの⁉この天稟⁉

 天稟授与式。

 この国でその年に16歳になる者に行われる式典。

 この式を終えた者は一人前の大人としてみなされ、それぞれが仕事を見つけ働くことになる。

 天稟とは言ってしまえば世界がその人に与える才能のようなもの。

 もちろん一部を除いて天稟が職業などを左右することはない。

 だけど、例えば同じ魔法使いでも魔法に関する天稟があるのとないのとでは成長速度などに大きな違いが生まれる。

 だから、大体の人が自分の天稟にあった職業に就くんだよね。

 そして今日、わたし、カルミアは幼馴染のフリージアと一緒にその式に参加するために王宮に来ていた。

「つぎ!ベリル村出身、フリージア!前へ」

「はい!」

 国王に呼ばれたフリージアが立ち上がり、赤い絨毯を緊張の足取りで一歩一歩、その長い金色の髪の毛をなびかせながら前へ進む。

 その先には国王と大臣、それからその二人を警護するための魔法使いと騎士が数人控えている。

 天稟授与式と言ってもそんなに大袈裟な儀式があるわけではなく、前にある水晶に手をかざすだけの簡単なもの。

 しかしそれによって、人によっては今後の人生を左右するといってもいいほどの重大な結果につながる。

 フリージアが手をかざすと、水晶は淡い水色に輝き始めた。

 遠目からでも水晶に何かが浮かんでいるのが見える。

 そこに映し出された言葉を水晶の側に控えている大臣が読み上げる。

「フリージア、天稟『魔剣士』!」

 周りにおお!という歓声が周りに広がる。

 魔剣士って言ったらかなり珍しい天稟だ。

 期待と羨望のまなざしを受けながら、フリージアは戻ってくる。

「すごいね!フリージア!」

 あまり大きな声を出すと迷惑なので、なるべく小声で、それでもなるべく大きく声をかける。

 わたしにそう言われたフリージアは、一瞬目を丸くした後、恥ずかしそうに頬をわずかに赤く染めながらその白い歯をのぞかせて微笑んだ。

「ありがとう!次はカルミアの番だよね。がんばって!」

「つぎ!同じくベリル村出身、カルミア!前へ」

 わたしの名前が呼ばれる。

 フリージアに見送られながらわたしも前に進み出た。

 うー、さっきのフリージアのこともあってか周りの視線がすごいよ。

 めったに現れない『魔剣士』の天稟を授かった少女と同じ村の出身。それだけで周りがフリージアと同じようなすごい天稟を授かるのではないかと期待しているのがわかる。

 そんな視線を背中に受けながら、わたしは水晶の前に立った。

 近くで見ると、水晶はわたしの手のひらよりもわずかに大きく、ほのかな水色をしている。

「カルミア、ここに手を」

 大臣に言われるがままにわたしは水晶に手をかざした。

 フリージアの時と同じように水晶が輝き始め、水晶に文字が映し出された。

「こ、これは・・・」

 結果を見た大臣が驚いている。

 いったい何が浮かび上がったんだろう。『魔導士』とかかな?

 だけどよく見たら大臣の表情は驚きというよりもむしろ困惑に近い。

 気になってわたしも何が映し出されたのか見てみる。

 そこに浮かんでいたのは。

「『本好き』?え?なにこれ?」

 大臣や国王の前にもかかわらず、思わず声が漏れる。

 幸いそのことを気にする人はいないみたい。

 しばらくポカーンとしていた大臣が気持ちを切り替えるためなのかブンブンと首を振って再び真剣の面持ちで前を向く。

「え、え~~。ごほんっ!カルミア、天稟『本好き』!」

 周りに今度はフリージアの時とは一転、どよめきが広がる。

 王様も大臣も困惑しているけど、一番困惑しているのはわたしだよ!

 なに⁉『本好き』って⁉

 そんな天稟が存在するだなんて今までに聞いたことがない。

 それどころか、これまでにも天稟授与式を担当してきたであろう大臣や国王が全く知らないということは少なくともここ何年もの間、授かる人がいなかったってことだろう。

 いやたしかに本は好きだけどね。それを授かるだなんて。

 なんか釈然としないな。

 わたしは肩まで切りそろえた栗色の髪を垂れさせながらとぼとぼと元居た場所に戻る。

 ああ、周りの奇異の目線がいたい。

 そんなわたしを、フリージアは困惑の色こそ見える物の笑顔で迎えてくれた。

「おかえり、カルミア。その~だいぶ変わった天稟を授かったね」

「ほんとだよ~。わたしもフリージアみたいにすごいのが来たらよかったのにな~」

 そんなわたしの嘆きにフリージアは「でも」と楽しそうに笑いながらこたえる

「全然知られていないってことは、いろいろな可能性があるってことかもよ?」

 そう考えることができるフリージアはいつも前向きだな。

 でもそうだね!どんな才能も使い方次第だよね!

 そう思うと嘆き気持ちも少しは落ち着いてきた。

「ありがとう!ちょっとは元気になったよ!」

「そう?それならよかった」

 そこまで話して、フリージアはわずかに言いにくそうにしながら「ところでさ」と口を開いた

「カルミアは仕事どうするの?」

 仕事かー。そうだよね、この式が終わったら探さないとだよねー。

 人によっては式の前から働き先が決まっている人もいるみたいだけど、そういう人たちはどこかの商人の生まれか、誰かの弟子であることが多い。だけどわたしたちはそうではない。

 だから今から仕事探しをしなきゃいけない。

「もしよかったらなんだけどさ、私といっしょに冒険者にならない?」

 唐突なフリージアの提案に思わず驚く。

 冒険者?それって魔物と戦ったりするあの冒険者?

 うーん。

 少しの間考えたわたしは「ごめん」という。

「フリージアはもともと剣の練習とかしていたし、『魔剣士』の天稟を授かったからすごく強い冒険者になれると思う。でも、わたしは違うからさ。足手まといになるだけだよ。だから遠慮しておくね。わたしは〜、なにかお店でもやろうかな」

 それを聞いたフリージアは「そんなこと!」と急に真剣な表情で語気を強めていったが、すぐに縮こまった。

「・・・いや、なんでもない。そうだね無理いってごめん」

「ううん、気にしないで。フリージアこそ頑張ってね!」

「うん!ありがとう!」

 明るい声でそういってくれるけど、その顔がちょっと悲しそうなのは気のせいかな。

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