第3話 黄色い風船
俺は、また、次の日も、ストリートで曲芸した。
子供は喜ぶし大人も喜ぶ。
笑ってくれる。
笑ってくれるけれど、俺は道化の顔の裏側で考えてしまう。
本当に欲しい物ってなんだろう。
答えはすでにあるけれど。
シロネコさん。
あなたの笑顔で空も飛べると思うんです。
近くの店で風船を配っているらしく、
今日は風船を持った子供が何人かいる。
いいなぁ。俺も風船で喜んだ時期があったな。
ふわふわしているから、ちゃんとつかまえていなくちゃいけない。
たった一本の糸の絆。
それが頼りなくもあり、頼もしくもあった。
今、つかまえたいものは、なんだろう。
俺は、曲芸をひとつ終えて、
お客からの拍手を受けてお辞儀。
子供が何か声を上げた。
「僕の風船が!」
悲鳴のような子どもの声、
黄色の風船が飛んでいく。
子供なんかじゃ届かない空へ。
俺は、気がついたら走り出していた。
風船を追って、走る。
身の軽さだけはそれなりにあるんだ。
風船は高度を上げていく。
俺は、跳躍じゃ届かないとは判断する。
それでも、あきらめたくないんだ。
つかまえたいのは風船か、つかまえたいのは誰なのか、
泣かせたくないのは子供か、泣かせたくないのは誰なのか、
俺は、道端に立てかけられた梯子を見つける。
「借りるよ!」
俺は、トップスピードのまま、
立てかけられた梯子を駆け上がる。
梯子の一番上から、風船に向かって、跳ぶ。
風船の頼りない絆の糸を捕まえ、
くるっとまわって、それなりに着地。
足がジーンとはしたけれど、大丈夫。
子供が駆けてくる。
俺は、黄色の風船を渡して、
「もう、離すんじゃないぞ」
と、子供の頭をぐしゃぐしゃとなでる。
子供は子供達の輪に戻っていく。
俺は、大きくため息をひとつ。
「トビウオ」
かけられた澄んだ声。
シロネコさんが、いた。
いつからいたんだろう、ずっとかな。
俺は、何か話さなくちゃと思う。
勇気を出して、何か言わなくちゃ。
「あの、シロネコさん、風船はお好きですか?」
俺は、みっともないことに、それしか話題が出てこなかった。
シロネコさんは、うなずく。
俺もうなずき返す。
糸のように頼りない縁だけど、
俺は、つかまえていなくちゃと、思った。
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