滅びたはずの吸血鬼、1000年ぶりに目覚める

@glitchman

目覚めた吸血鬼

''最凶''。このダンジョン、デザストロはそう呼ばれていた。

その理由は二つ、そこにいる魔物は強力で、様々な有名なパーティがそこに挑むも帰ってきたのは一握り。生き残って帰ってきたものは二度とそのダンジョンに挑もうとしなかった。

もう一つはデザストロには滅びたはずの''吸血鬼''が眠っていると言う逸話があった。

吸血鬼、それはかつて滅びたとされた最強の種族。魔王になったものも少なくないと言われ全種族の中で単純な戦闘力では文句なしのNo.1とされていた。しかしその吸血鬼は1000年前に滅びたとされ、ほとんど空想上のものとなっていた。

そのためデザストロに吸血鬼が眠っていると言うのは逸話とされてきた。が、

とあるパーティが奇跡的に最深部まで行ったらしく、そこには悍ましい魔力を纏い、堅く封印されていた棺があったと言う話が広まり、そこから本当に逸話なのかと議論を交わされていた。

そして、そんなダンジョンに挑むとあるパーティがいた。


「なんだよ!魔物の一匹もいねぇじゃねぇか!最凶なんて嘘っぱちか?」


金髪で赤い髪をしたこの柄の悪そうな男は勇者ギルガー。こんな身なりでも勇者なのである。その証拠に一級品の鎧と聖剣を持っている。だが見た目通り素行は悪い。が、勇者は選ばれしもの。そのため迂闊に罰も下せなかった。


「気味悪さだけは最凶ってわけ?あーやだやだ。さっさと終わらせて帰りましょう!」


青色のツインテールと目をした彼女は魔法使いのセシリー。魔法の技術自体はあるもののギルガーと同じく素行は最悪、見た目が大して良くない上に上から目線なことから「汚物女王」なんて呼ばれている(本人は知らない)


「セシリーの言う通りだ。こんなくだらんクエスト、時間をかけるだけ無駄。さっさと終わらせよう」


灰色の髪と目をしたこの男は戦士のシルド。ギルガー達ほどではないものの自分のパーティ以外のものを見下している。そのため他の勇者パーティと大して変わらないとも言われている。


そしてそんな中一人、大量の荷物を持たされている一人の少女がいた。


「......」


彼女は奴隷。....そう、名前すらないのである。主人であるギルガーからもつけられなかった。

汚れに汚れ切っており、髪色はもうわからず、目には光も灯っていない。体もほとんど食べれていないのか痩せ細っている。


「おい奴隷!お前ダラダラ歩いてんじゃねぇぞ!目障りだし、何より仕事くらい真っ当にやりやがれ!」


「っ....すいま、せん」


「聞こえねぇなぁ....もっとはっきり喋れ!!」


「きゃっ!」


ギルガーは聞こえていたのにも関わらず、イラついたからか嘘をつき奴隷を蹴り飛ばす。しかしそんな彼を止めるものは誰もいない。


「あんたダッサ!荷物持ちなんて簡単な仕事すらできない自分を恨みなさい!」


「それだから無能なんだぞお前は。いっそ囮にでも使ってみるのもありか?」


「お!それ天才!またやってみようぜ!」


言いたい放題する彼ら。しかし彼女は反論しない。いや、できない。

彼女の首輪には主人がいつでも行動不能にできる呪いが刻まれているからだ。今は魔物が出てないからと言っていつ出るかなんてわからない。ここで動けなくでもなったら死は確実と言っても過言ではなかった。だから何も言えなかった。


そしてかれこれ彼らはなんと最下層まで来てしまった。しかも魔物との接敵は0。あまりの異常事態だが勇者パーティは気にも止めていない。奴隷はその不自然さに疑問を抱いていたもののもちろん言ってしまえば呪いが発動しかねないためいえずじまいだった。

そして勇者パーティはとある部屋にたどり着く。


「よし、ここだな?.....うげっ!きったねぇ!!」


「うっ....なんで私がこんなところに.....」


「.....おい、例の棺とはあれじゃないか?」


そしてシルドが指を指したのはこれでもかと錆びきった鎖に縛られた棺。そう、彼らが探していたのはこれである。「吸血鬼が眠ると言われる棺を探す」。これが依頼内容だった。

もちろんデザストロにいくなどただの自殺行為でしかないため誰も行こうとはしなかった。しかしデザストロを舐めきっている彼ら勇者パーティはその報酬に目が眩み、あっさり受け入れた。

彼らは警戒心も0で棺に近づく。しかし奴隷はその場から動けずにいた。


「あ?お前何してんの?」


「ぁっ.....ぁっ.....」


「なんなのあいつ?もう放っときましょう。いても鬱陶しいだけよ」


「あぁ、そうだな」


警戒心の勇者パーティは気づいていなかったが、その棺からは既に悍ましいほどの魔力が溢れていた。奴隷はその威圧感に動けなくなっていた。しかしそんなことお構いなしに勇者パーティは棺を調べ始める。


「これどうすんだ?持っていけばいいのか?」


「はぁ?!絶対重いに決まってるじゃない!」


「だが、そうでもしないと報酬がもらえないかもしれんぞ?」


「ってか、本当にこんな汚ねぇ棺の中に吸血鬼なんか入ってんのか?オラッ!!寝てんなら起きろよ!朝ですよ〜!」


「ちょっ!やめときなって〜!」


「まぁ確かに吸血鬼がいるのかは疑問だな、所詮は逸話だからな」


ギルガーは完全に調子に乗り、その棺を蹴り始める。すると錆びた鎖がバキバキッ!と切れてしまった。そしてその瞬間、先ほどとは比べ物にならないくらいのとんでもない魔力が溢れ出した。


「「「ひぃっ?!」」」


思わず腰が抜ける勇者パーティ。奴隷はその威圧感に心臓が止まりそうだった。

そして次の瞬間、棺の蓋を棺から出てきた拳が吹き飛ばした。


「ん、くぅぅぅぅぅ.....はぁ.....」


そうして呑気に背伸びをして出てきたのは一見10歳程度の少年。黒色と白色のツーサイドカラーをした髪に赤い目をした美少年。しかしその背中には蝙蝠のような翼が生えており、その可愛らしい眠そうな姿からは想像できないくらいの魔力が溢れ出ていた。

奴隷は彼を見て確信した。魔物は人間より圧倒的に魔力に敏感。魔物は出てこなかったんじゃない。彼の魔力に怯えて出てこれなかったのだ。


「き、吸血鬼だ....吸血鬼だぁぁぁぁぁ!!!!!」


「いやぁぁぁぁ!死にたくない!!死にたくないぃぃぃ!!」


「に、逃げろ!!殺されるぞ!!!」


その姿を見て一目散に逃げていく勇者パーティ。奴隷もすぐさま逃げようとするもギルガーに呪いを突如発動され、動けなくなってしまった。


「っ?!.....なん、で.....」


「よかったなぁ!!お前の最後の仕事だ!!囮になっとけ!!!」


「そん、な......」


そう、彼女をここで囮にしようという人の心がない作戦を実行するためだった。情けなく帰っていく勇者パーティ。そして一人取り残された奴隷は死を悟り、記憶を呼び覚ましている。

今思い返しても碌な思い出がなく、なんでつまらない人生だったんだろうと思いながら静かに死を待つ奴隷。吸血鬼が目の前まで歩いてくる。奴隷は目を瞑った。そして次の瞬間.....

首輪が外れ、呪いが解けた。


「っ......え?」


「なんだあいつら.....お前を置いていくなんざクソみたいな奴らだな」


奴隷は困惑した、吸血鬼に助けられたのだ。てっきりここが死に場所だと思っていたため今度は驚いて動けていない。そんな彼女を安心させるように笑顔で話しかける吸血鬼。


「っと、自己紹介が遅れたな。俺はダスト・ヴォロス。吸血鬼だ!!」

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