普通になりたい

すなさと

小話:普通になりたい

episode1

 私は、周囲と何かズレている。いわゆる「普通」「常識」と言われる不文律的なルールが分からない。

 具体的に「これはだめだ」と言われたら、「だめなのか」とやめる。でも、どうして駄目なのか分からない時もある。


 どうしてみんなと同じことをしないといけないの?

 他にやりたいことがあるのに。

 どうして家の壁に落書きをしたら叱られるの?

 とっても上手に描けたのに。

 どうして「今はそんな話をしてないでしょ」って嫌な顔をするの?

 面白い話を思いついたから話しただけなのに。

 どうして私はズレてるの?


 ある時、どこかの女の人が言った。

 

「あなたは純粋なのね。はっとさせられたわ」


 またある時、どこかの男の人が言った。


「君の感性はとても個性的で独特だよ。自信を持ちなさい」


 そんな言葉はいらない。周囲とズレていることを褒めてほしいわけじゃない。

 だって、褒められることなら、どうしてみんな怒りだすの。

 純粋だ、個性的な感性だ、と言ったそのズレを、自分も手に入れたいスキルだと思ってはいないでしょう?


 自分がズレていることを分かっていないわけじゃない。

 でも、何がズレているのか、どうしてズレるのか、それが分からない。

 だから、周囲とズレていると分かっていても修正できない。


 そこにあるのは、「純粋さ」でも「個性的な感性」でもなく、ただただ「生きづらさ」だけだ。

 簡単に「あなたの良さ」なんて言わないで。

 世間がそんなに甘くないことぐらい、さすがの私も分かっている。


 私に、「普通」をください。

 特別になりたいわけじゃない。誰かより秀でたいわけでもない。

 どこにでもいる普通の人になりたい。


 ただそれだけのことが、こんなにも難しい。

 今日もズレないよう、私は必死に生きている。

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