わたしに恋してみませんか?そう彼女は笑った~アイドルとスタッフが恋愛とか普通に駄目だから!!~
龍威ユウ
第1話:1996年6月、人類はすでに絶滅していたんだよ――!
本日の天候は雲一つない快晴。
さんさんと輝く太陽はとても眩しくて、それでいて暖かい。
その下では、小鳥達が優雅にすいすいと泳いでいた。
時折、頬をそっと優しく撫でていく微風はほんのりと冷たい。
だが、それが逆に心地良くもあった。
今日のような日は、まさしく絶好のお出かけ日和だと言えよう。
そんなこと、偶然すれ違った親子連れがそう言った。
正しくそのとおりである、と彼――
「――――」
彼にとって目前にある街並みを目にするのは、実に3年ぶりのことだった。
ずっと山にこもっていただけに、周囲の景色と言えば緑と土のみ。
一見すると不便極まりないが、都会のような喧騒は一切ない。
しんとした静寂は大変心地良かったし、自然の中にいるだけで心も穏やかになった。
たった3年しか経過していない。
その短時間の間で、街並みが変わるはずもなし。
あの時となんら変わらない。
それが良いか、悪いのか。それについてはさして議論するつもりは毛頭ない。
とにもかくにも、ようやく帰ってきた街並みは相変わらずであるらしい。
「――、ねぇねぇ。そこのお兄さん」
「お兄さん見かけない顔だね。もしかして、旅行しに来た人?」
彼が帰路に着こうとした時、二人の少女に声をかけられた。
見るからにまだ幼い。服装から察するに十代後半……高校生ぐらいだろう。
そして今日は平日であるので、当然彼女らには学業がある。
サボりか、と楓はそう思う傍らで同時に疑問も抱く。
何故、見知らぬ、それも女子高生から声をわざわざかけられたのだろうか?
当然ながら楓に、二人との面識は一切ない。
お互いが初対面であるのにも関わらず、彼女らの言動は実に気さくなものだった。
それこそ、まるで久しくあった友人に声を掛けるかのように。
なんだが、とてつもなく嫌な予感がする。楓はそう思った。
「ねぇねぇ、実はさぁ私達すっごく暇してて~」
「お兄さんかっこいいし、よかったらいっしょにウチらと遊ばない?」
「ね? いいでしょ?」
「……悪いが、俺はこれから大事な用があるんだ。遊び相手がほしいなら、他の奴らにしてくれ」
関わらない方がいい。
そう判断した己は、決して間違ってはいない。
心の奥底からそう断言して、楓は足早にその場から立ち去る。
傍から見やれば、未成年者に手を出すロクでもない大人にしか見えない。
現代においては、そう思う輩も極めて少なくはなっているだろう。
とは言え、体裁的にはやはりよろしくないことにはなんら変わらない。
援助交際が目的ならば、もっと金を持っていそうな相手を狙うべきだ。
そう思って、自らが貧乏であると自覚したのも同じことにはたと気付いた楓は、軽い自己嫌悪に陥った。
それはさておき。
「え~いいじゃんお兄さんだって暇そうな顔してるし」
「そうそう、お兄さんウチらが子供だと思って軽くあしらおうとしてるでしょ? 駄目だよぉ見た目だけで判断したら。その子供だって最近はすんごいんだから、ね?」
「…………」
彼女らの言い分は、確かに一理ある。
発育については、大人顔負けであるいは、それを超えていると言っても過言ではない。
あどけなささえ除けば、誰しもがホイホイと彼女らの誘いを受けるやもしれぬ。
だが、未成年者という事実は不動のままだ。
ここで欲に負けて手を出そうものならば、その対価はあまりにも大きすぎる。
付け加えて、もう一つだけ――楓が絶対に手を出さない理由が、二人にはあった。
どちらかといえば、こちらが主体とってもいい。
「もしかしてお兄さん……ED?」
「え? めっちゃかっこよくて若いのに、もう枯れてるの?」
「お前達、そろそろいい加減にしないと俺も本気で怒るぞ?」
「だってそうじゃん! ウチら見て、何も思わないとかもう終わってんだけど」
「黙れ。生憎、俺は
「あっ、いーけないんだ差別的発言。そんなこと言って、後でやっぱりって言っても遊んであげないんだからね」
「あぁ、是非そうしてくれ。というかマジで学校に行け、サボらずに授業受けてこい」
「もう行こ!」
「あーあ、お兄さんすっごくかっこよかったのになぁ……もったいない」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら遠ざかっていく背中を見送って、楓は小さく溜息を吐いた。
「……この世界はもう、モンスターによって支配されてしまったな」
そんなことを、すこぶる本気で口にした。
1996年6月某日――。
世界は恐怖の大王によって終焉が訪れる。
偉大なる予言者ノストラダムスの大予言は世界を震撼させた。
結論からいえば、世界は未だしぶとく残っている。
むしろ以前よりも更に生き生きと、たくましくなった。
異世界との融合――それまでファンタジーだったものが、突如として現実と化した。
異世界の文明や住人の介入は地球に多大な影響を及ぼした。
獣人や亜人……これらの種族も、今となってはもう珍しくもなんともない。
とは言え、良いことばかりが起きたわけではなかった。
人間の……それも、女性の出生率が著しく低下しつつある。
何故このようなことがおきたか。原因については、もはや詳しく調査するまでもない。
モンスター娘……言葉が示すとおり、女性のモンスターを総称する言葉だ。
モンスターとは一言にいっても、おどろおどろしい姿をしている者は一人もいない。
付け加えて、彼女らは一途な性格である者が多く特に番となった相手への愛情表現は深く、そして重い。
以上の理由により、確かに年々減少傾向にあった出生率はぐんと跳ね上がった。
ここだけを聞けば、誰しもがさぞ喜ばしいと思うだろう。
現実は、純粋な女性の出生率が低下するという新たな問題を抱えることとなってしまった。
それから200年以上の月日が経過するものの、未だ改善の目途は立っていない。
このままではいずれ、世界の女性はモンスター娘しか存在しなくなるだろう。
「――、まったく……本当に嘆かわしいことだ」
モンスター娘の存在について別段、楓も否定するつもりは毛頭ない。
事実、これまでに地球が数多く抱えていた問題は軒並み解決されていった。
何も悪いことはない、むしろいいことだらけしかない。
だが、裏では蔑ろにされた者達も少なからずいる。
その内の一人こそ、彼――
「……とりあえず、一度実家の様子だけでも見にいっておくか」
通い慣れた帰路を歩く。
3年という月日が流れようとも、ここは相変わらず当時のままだ。
そうして何事もなく、家に着くはずの予定が突然のアクシデントによって乱れることとなる。
「や、やめてください……!」
「ん?」
うっそうとした路地裏に、その少女はいた。
燃え盛る銀色のロングストレートと緋色の瞳がとても印象的な娘だった。
同様に銀の体毛に包まれた獣耳と尻尾が、彼女がモンスター娘であるというなによりの証拠である。
大方、あれはウェアウルフ族だろう。狼のような獣耳と尻尾がそう物語っていた。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。暇そうにしてたんだし、俺達といっしょに遊ぼうぜ?」
「そうそう――っていうか、あれ? こいつ、もしかして……」
「わ、私は別に暇じゃないですしもう放っておいてください……」
そんな銀狼の少女を囲うのは、複数人の男達だった。
見た目からにして、普段の素行はよろしくない。俗に言うチンピラの類である。
それが寄ってたかって、一人の少女に言い寄っているのだから絵面的にどちらが悪かは確認するまでもなかろう。
「……世界がどうなろうと、あぁいった輩はいつでもどこでもいるもんなんだな」
楓は、小さく溜息をもらすと共に路地裏へと歩を進めた。
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