ランク・ダブル〜日本中のダンジョンを渡り歩く仮面集団

らっか

プロローグ

 ダンジョン一階層。

 建物に換算するとすれば三階分に相当する吹き抜けの岩場。入り組んだ通路が何本にも分岐し、その先は薄暗く、奥行きは目視で測れない。

 地上からたった三段しかない石段を下った先にある講堂程度の広さのひんやりとした空間は、日曜の早朝、定員三十人の新規講習会場となる。


「はーい、皆様ー。ではまず武器をお選びくださーい」


 ベストにタイトスカート姿の職員は受講者達に、自らの左横に即席で設置された折り畳み机を指し示す。


「見慣れない物でも、スタッフが指導しますから遠慮なくどうぞー。何度も言いますが、絶対に素手ではモンスターに殴りかからないでくださいねー」


 机の後ろではそれまで、腕章を付けた数名の男女が直立不動で受講者を見つめていたが、その言葉を受けて小さく頷く。

 制服のベストを着用していないことで、参加者達は彼等の正体が初心者の為のボランティアにやって来た探索者だと察する。


「この空間に入ったことで、皆さんの前に半透明のボードが浮かび上がったと思います。これがステータスボードでーす。自分のボードは自分にしか見えませーん。名前と『Lv0』の表示がありますねー」


 受講者達がゆっくりと前に進み、恐る恐る武器を手に取り始めるのを確認し、タイトスカートの職員は話を続ける。


「ダンジョン内でモンスターを一体倒すと、レベルが1になり、ランダムでスキルを一つ獲得しまーす」


 武器の前に立つスタッフのアドバイスを聞きつつ武器を吟味する受講者達に構わず、タイトスカートの職員は説明を続行する。


「今日は皆さんのレベルが10になるまでモンスターを倒して貰いまーす。武器は途中で何度でも変えられるので、最初はどれでも良いですよー」


 その言葉に受講者達の手が一瞬だけ止まったが、逡巡した後、またすぐにいくつかの武器と、武器にすら見えない何かの道具を代わる代わる握り、感触を確かめる。


「ランクGの間は武器は協会でレンタルできますから、どの武器をメインで使うか、資格取得後しばらくは考える期間もありますよー」


 その言葉に、受講者達の顔に僅かながら安堵の色が浮かぶ。


「但し、ランクFになるとそのサービスは受けられなくなりまーす。支部の二階の売店で買ってくださいねー。外での武器の携帯が許されるのはランクDからですから、それまでは必ず窓口に預けて帰ってくださいよー? ランクE以下が持ち帰ったら銃刀法違反で、即資格剥奪ですからねー」


 ランクGでいられる期間がどの程度なのか、各々予備知識を仕入れてから講習会に参加している受講者達はやや焦りの色を浮かべ、もう一度並べられた武器を眺める。


「ご存知のように世界にダンジョンが出現してから三年です。世界から遅れること一年、日本にも探索者協会が発足。協会ができてからもう二年近く経ちますが、職員はまだまだ不足しておりまーす。ランクD以上になると職員になる資格も与えられますから、皆さんもいつか私達の仲間になってもらえるととても嬉しいですー」


 数分後、全員が何かしらの武器を選び終えたところで、職員は手を二度叩き、受講者達の視線を自分に集める。


「はーい、では班ごとにスタッフの後ろについてそれぞれ奥の通路にお進みくださーい。この一階層にはスライムと命名された謎のプニプニモンスターしかいませーん。自分ではまったく動きませんから、触らなければ危険はありませんよー。絶対に素手で触らないでください。絶っ対に、触らないでくださいねー」


 歩き出したスタッフ達の後に続き、受講者も動き出す。


「スライム一匹倒すごとに、スキルポイントが一ポイント付与されまーす。まずは一匹倒して、『SP』という項目が出るのを確認してみてくださいねー。百ポイント集めると好きなスキルをどれでも一つ選ぶことができるので、頑張って百匹倒しましょうねー」


 去りつつある受講者の背中に向け、職員は最後の声を掛ける。


「ダンジョンにはモンスター毎にスキルキャップがありまーす。スライムはいくら倒してもレベル10以上にはなりませんし、ポイントも100以上増えませーん。レベル10になったら百匹倒したってことですからねー。いちいち何匹倒したか数えなくても大丈夫ですよー。では行ってらっしゃーい」


 数分後。

 一匹目のスライムを叩き潰した一人の受講者の眼前に、更新されたステータスが表示された。


 Lv.1

 SP:100

 スキル:【獲得SP100倍】


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