第55話:気分を変えるお買い物

 木戸龍一は安アパートの窓を全開に開けて、入ってくる秋風に風情を感じながら、『オレが作家で、真理の物語』の推敲作業に明け暮れていた。

 辻褄の合わない箇所が意外に多く、手を焼いていた。1か所直すと、別の箇所の辻褄が合わなくなる。別の箇所も直すと、大筋が可笑しくなった。一旦頭をクールダウンさせようと、万年布団に寝転がり、煙草に火を点けた。


 清川真理とは週1回の頻度でメールのやり取りが続いている。


 清川不動産は、苦しいながらも、何とか、辛うじて、持ち堪えているから心配ない、と聞かされている。その間、まったく時間が合わずに、一度も逢うことが出来なかった。最後に逢ったのが6月だから、もう3カ月も逢っていないんだなと、煙草の煙を大きく吹かした。

 逢わなければ逢わないほど、相手のいい部分だけが掛け替えのない思い出として、妄想が膨らみ、心と心の結び付きが太くなった気がしていた。


 コンビニに向かった。

 カップラーメンばかり食べているので、脳に栄養がいかず、簡単と思われる辻褄合わせが出来ないのだと考えた。

 

 外を歩くのもいい運動であり、気分転換にもなる。何より正直にいうと、カップラーメンは飽きていた。特売品のインスタント麺も、高価なノンフライ麵も、日持ちがしない生麵も、同じだった。

 今日は、今日食べる弁当の他に、レトルトご飯と缶詰を買い置きすことに決めていた。でも、米を買って自炊をした方がいいのかな、との迷いもあった。

 自炊にはロスが多い。お米を買っても酔っぱらって米袋を蹴って、辺りにまき散らしてしまったことがあった。

 お米を炊いても気づいたら、電子炊飯器の中でご飯が黄色く変色するまで保温状態にしている。

 野菜はチルド室で液化する。冷凍肉も何れ色がどす黒くなる。生卵は悪くなる前にひとパック10個は食べきれない。

 毎日、その日か、次の日に食べる分しか買ってはいけないこと知っていた。

 野菜の販売ロットは量が多い。キャベツやレタスは8分の1カットで売られていても、単価は箆棒べらぼうに高い。

 そう、毎日スーパーに行くことも面倒だが、1人前分の食品購入単価は意外に高く、弁当とそう変わりはないので、保存の効くカップラーメンは全ての条件をクリアしている優良商品なのだった。


 コンビニでカゴを使い買物をしていると、ゴシップ週刊誌でもたまには読もうと考えた。小説の辻褄合わせの為には、新しいエピソードを入れ、大幅にストーリーの脈略を変えるべきではないかと思ったのだ。

 新ネタ探しの為に、ゴシップ週刊誌と女性週刊誌をカゴに入れた。時事ネタも必要ではないかと、スポーツ新聞と地元の民報新聞もカゴに入れる。

 

 ここまできたら今日はこれから情報収集の日にしようと決めた。

 ワンコインで買える謙価版の『芸能人の裏事情』もカゴに入れた。


 安アパートに帰り、雑誌を広げた。

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