~俺が作家で、真理《まり》の物語~しなやかなファンタジー風味
綾瀬摩耶
第1章 安定的な二重人格
第1話:プロローグ
《受賞のことば》
この度はこのような栄えある賞を頂き、身に余る光栄です。誠にありがとうございます。この作品を様々な観点からご評価して頂きました選考委員の皆様には、改めて御礼申し上げます。
また、このような文藝の賞を主催して頂きました関係者各位のみなさまには、重ねて厚く、御礼申し上げる次第です。
私は嬉しい。
ただただ嬉しい。
本当にありがとうございました。
そしてこの紙面をお借りして一言、どうしても書きたいことを誠に勝手ながら綴らせて頂きます。
この小説を
私は真理を愛しています。
真理のためなら何でも出来る気さえするのです。
真理が私のことを愛する量よりも、もっと多くの愛の量を持っています。それが真理の負担になって、気が重くなっているのでしたら、真理は、私が真理を愛している量よりも、もっと私を愛すればいいのです。
二人の愛の比率が、99.999……9対0.000……1になるまで大量の愛を
だけれども私も負けません。
お互いライバル同士ということなのかもしれません。
不幸にして、二人は互いの連絡先を知りません。私は携帯電話の番号は変えていませんが、以前住んでいた安アパートから引っ越しました。そのことを真理は知りません。
即ち、携帯電話に真理の方から連絡が来ない限り、再会は二度と出来ないのです、と、ある場所で逢える可能性を除いては……。ですので電話番号は絶対に変えないのです。
この作品はおおむね私小説でした。
書き上げたとき真理は、作中の真理と同じ結末を歩みました。おおむね私小説が、完全な私小説、いや、ノンフィクションになったのです。
呪いの小説なのかもしれません。
予言書なのかもしれません。
狼狽するばかりでした。
推敲の時に大いに悩みました。作中の真理をもし幸せに書いていれば、実在の真理も幸せになっていたのではないかと。
魔法使いが小説を書いた訳でもないのに、何を言っているのだ、頭がおかしくなったのか、と軽蔑されるのかもしれません。だけれど、本人とお付き合いをする過程において、何らかの悪い影響を与えてしまったのでないかと悩みました。
また、このような内容の小説は縁起も悪いのです。しかし、それは私の思い上がりに過ぎませんでした。他人様の人生を大きく左右できるほどの影響力など、私には持ち合わせてはいないのですから。
今の気持ちを正直に申し上げますと、一人前の作家として、早く認めてもらい、生活が出来るようになりたいということです。そして、真理を家庭に向かい入れたいのです。それが私の義務でもあり責任なのです。
私は現在無職です。
しかし、いやしさも、卑劣さも、みそぼらしさも、見苦しさも、惨めな気持ちもありません。真理といつ再会してもいいように、毎晩、お月様を観て、心の研鑽を積んでいます。
ひょんなことから真理のメッセージを受け取りました。早朝からトラクターのエンジン音が聴こえる、心が静かになる場所に住んでいるようです。
おそらく真理は、この文藝誌を購読していると思います。いや、書店で絶対に私の名前を見つけて、真っ先に読んでくれていることだと想像出来ます。
そんな願望もありましたので、この『受賞のことば』を長々と書きました。大賞受賞という目標が叶ったいま、心置きなく真理にお付き合いを申し込むことができます。
初めて本当の愛を語れます。
初めて本当の告白ができます。
そして、初めて、自分らしい人間になれる。
真理が生きている限り、別れは美しい。
それは、望みとなって、いまようやく二人は結ばれるのです。
2023年 4月 木戸 龍一
〈略歴〉
1987年、東京都在住。36歳。独身。私立大学卒業後、ハウスメーカーに勤務。近年退職した後、様々なアルバイトをこなし、多方面で活躍中。幼少の頃より近代文学を読み漁り、作家を志す。本作品がデビュー作となる。
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