砂色デュオ/終末世界行記

@Ichizaki

男と少女

第1話 白金の悪魔

 無機質なコンクリートの柱が立ち並ぶ廃墟の薄明かりにマズルフラッシュが閃いて破砕音を立てた。続いて、二、三回。金色の薬莢が澄んだ音を立ててひび割れた床に転がる。


 薄汚れた装甲服の男が、その黒いバイザーから見開いた目を覗かせている。震える膝を抑え込み、肩で息をする男の目には黒い巨体の影が映っていた。

 「ふ、ふざけやがって……!」

 銃の側面のスイッチを切り替え、再度構える。

 「…クソ野郎ォ!!」

 仲間の死体を目の端にとらえながら、男は引き金を躊躇なく引いた。


 ズダダダダダダン!

 煙を撒き散らし、銃口が何十発もの鉛玉を吐き出す。男は引き金を緩めなかった。1秒、2秒、そして3秒が経ち……弾の尽きた銃は乾いた音を繰り返し、そして止まった。

 重なった反響音と煙が消え――…


 巨体は依然、何もなかったかのようにそこに立っていた。じり、と足を引き、構える。


 「……悪魔……!」


 装甲服の男は、そう言い終わらぬうちにその頭を巨体の拳とすげかえられ、鮮血をその首から吹き出して崩れ落ちた。土が飛び散ったような音と共に赤黒い液体が散乱し、やがてコンクリートの隙間を埋めるようにゆっくりと広がり始める。


 大男は首なし死体を眺めるようにしゃがみ込む。横から差す日光の柱に照らされ、その奇妙な頭部が影から現れた。頭蓋骨を横に広げ、雄羊の角をその顎に沿わせるように生やしたような異形頭。その眼窩は漆黒である。不気味だがどこか可愛げもあるようなその男は、首元をその外套の羽毛で埋めた厚着であった。


 血をその首の断面から吐き続ける死体のそばに転がった機関銃を手に取って立ち上がる。


 「頑丈で悪かったな」


 マガジンが空なのを確認してから、男は一様な死体の山を後にした。

 空はすこし桃色がかり、ビルが挟む亀裂だらけのアスファルトには空より先に夜が来ている。いよいよ強さを増してきた冬の寒さを纏い、一陣の風が誰もいない道路を駆け抜けた。



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