第15話

大切な人。

シュルツ様の言った言葉の前に、私は頭がフリーズしてしまう。

けれどそんな私には構わず、彼はそのまま言葉をつづけた。


「ずっとずっと、僕は彼女に気持ちを伝えることができず…。しかも彼女は言われのない罪を着せられて、周囲の人々からひどい扱いを受けていて…。そんな彼女の力になることも、彼女を助け出すこともできず…」

「……」

「あ、こ、これはここだけの話でお願いします…!ミレーナ様はジーク伯爵様とすでに婚約されていて、無関係な人間がこんなことを言うのは不適切でしょうから…。でも、それでも僕にとっては、忘れられない大切な女性なのです…」


かつての私の姿を愛おしそうに見つめる彼の姿が、私の目の前にある。

私の力になれなかった??私を助けられなかった??

そんなことは絶対にない。

私があなたにどれほど心を救われていたか、このまま言ってしまいたい。

あなたに会えない日々が続いたことが、寂しくて仕方がなかったと言ってしまいたい。


「…侯爵様にそこまで思われるなんて、その方はなんて幸せな方なのでしょう。うらやましいですわ」


でも、それはできない。

彼が愛しているのはミレーナであって、クレアではないのだから。


「…ちなみにその方は、どうして失踪されてしまったのですか?」

「…それに関してはジーク様も、全く心当たりがないとおっしゃっておられるのです…。お二人の関係は遠目にも仲睦まじい様子でしたから、ミレーナ様が突然失踪される心当たりが僕にはわからないのです…」

「では…。誰かに消されてしまったとか?」

「その可能性も…。悲しいことですが、彼女の事を快く思わない方は多いでしょうし…。いずれにしても、何もできない自分が悲しい…」

「(…そう思っていただけるだけで、十分だと思いますよ)」


…かなうなら、今この場ですべてを話してしまいたい。

あなたが想っているミレーナはすでに死んでしまったけれど、生まれ変わってあなたの目の前にいるのだと言ってしまいたい。

そして…そして彼と一緒に…


「…シュルツ様、私にはご協力できるようなことはなにもなさそうです…。お力になれず、申し訳ありません…」

「そ、そうですか…。も、もしもなにか新しいことがわかったら、僕のところまで知らせてもらえると嬉しく思います」

「かしこまりました、シュルツ様…」


…本当はこんな話じゃなくって、もっといろんなことを話したい。

今まで聞けなかったあなたの事を、あなたの話を、あなたの気持ちを…。

だけど、それはダメなこと…。

私が彼に近づけば近づくほど、それは彼を不幸にしてしまうことなのだから…。

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