第25話『遺跡空母【広咲】にトラブル発生』


《大問題が発生した!!》


 遺跡天空空母広咲の浮上計画を任せていた角さんからそんな連絡を受け取った。

 俺とメティアの間にかつてない戦慄が走る。

 

 ――あの忖度スキルが大問題だとぉーー!?


 都合が悪いことも大抵報告しないが大問題だと報告してきたのだ。

 これは本当にまずい事態だ。

 一体どれほどの事態が待ち受けているのか。

 俺は元広咲城城郭神【津軽穂花】の神核がある神域に急いで駆けつけていた。

 そしてそこにはいつ復活したのか。

 穂花が実体化していた。

 しょぼんとした様子で正座させられ、周囲を怒り心頭といった顔のスライムたちが囲んでいた。

 まるで逃がさないといった風に。


「で、何があった?」


 バツが悪そうな穂花は俺に土下座したまま語ろうとしない。

 なのでメティアが顕現して代わりに状況を説明してくれる。


《私が話すよ。単刀直入に言うとこのままじゃ広咲城は空を飛べない》

「はあ? なんでだよ。あれだけ空を飛ばすために質量削ったりいろいろやっただろう。それに十分な神力をためてあったはずだ。まさか角さんが演算ミスったのか。それこそまさかだろ」


 AIが演算をミスるとかあり得ない。人間とちがうんだから。


《それが誰かさんのせいで神力が足りなくなったんだなあ》


 メティアが穂花にじとっした目を向けた。

 そうか、なんとなくそうなんじゃないかと思ったてたさ。

 お前が原因か、ポンコツ城郭神。


「申し訳ありませんでした。おいしそうな神力がたくさんあったのでちょっとくらい食べてもいいかなって」

《ちょっとくらい?》


 笑顔なのにちっとも笑ってないメティアの圧力に『ヒィッ』と悲鳴をあげて穂花が訂正する。


「最初は本当にちょっとだけのつもりだったのです。ですがあまりにも良質な神力だったのでつい、二口三口と……」


 駄目人間のパターンじゃねえか。

 つまり、空を飛ぶための神力を勝手にバクバク大量に食っちゃった訳か。


「ほほう、つまり神様がつまみ食いした訳か。神核も大分修復しているし再び顔を合わせる事も出来た。またあえてうれしいよ」

「そう、言っていただけると助かります」

「――皮肉だよ!!」


 メティアは頭痛をこらえるように頭を抑え、ため息をつく。


《ふうーーっ、私のと美咲からの余剰神力分を丁寧に練り上げて貯金したのによくもまああれだけ食べてくれたわね》


 んっ、メティアに神核?

 きっと聞き違いか比喩だよな。


「どれだけ使ったんだ?」

《貯金全体の八割。ちなみに初回起動は大量に神力使うから空を飛ぶには六割必要》

「はあ? 穂花お前どれだけ神力爆食いしたんだよ」

「あはは、照れますね」

「ほめてねえよ!?」

《だからぜんっぜん神力がたりなくなっちゃったんだよね。さすがの私も困っちゃったのだよ、ぷんぷん》

「どうすんだよ。あの醜女蜘蛛が今も向かってきてるぞ。このままじゃ帝国艦隊を追い払ってもあいつの灼熱爆轟砲でこの城ごと領地を更地にされちまう」

「醜女蜘蛛ですか。あわわ、それは不味いですね」


 穂花が青ざめた様子で慌て始める。

 そうだおまえ、もちっと反省しろよ。


「穂花、醜女蜘蛛知ってるのか」

「はい、かつては世界の至る所で災厄や悪事から人々を救って回った偉大な女神です。それこそ自分の身を削るように精力的に動かれた女神です。元は下級の女郎蜘蛛の化身で上級神の眷属だったのですが努力と功績で上級神となったお方です」

「そんな偉大な女神がどうして災厄に与してるんだ?」


 そういえばあの蜘蛛は首輪をつけられていたな。


「確たることは知りませんが噂では人助けで自身を犠牲にしすぎたあまり、穢れがたまり邪悪に落ちたのでは、と。ただ……」

「ただ?」

「醜女蜘蛛の元主は眷属だった彼女の事で周りに圧力をかけ、真実が隠蔽されています。なにかよからぬ因縁があるのかも」


 なにか突破口になる情報も期待したがさすがに無理か。

 もし、醜女蜘蛛が意思とは関係なく従わされているのなら助けてやりたいが今は余裕がない。

 まずは撤退を最優先だ。


「とにかく今は目の前の問題をクリアにしよう。どうやって逃げるかだが」

《代替案としては遺跡の主要な設備をアイテムボックスで回収してスライムコロニーで撤退することかな》

「最悪そうなるか。美咲さんは天守さえ回収すればいいよな」

《城郭は無理でも天守だけならスライムたちが力業でやってくれるよ》

「えっ!?」


 城郭神穂花がそれを聞いてあわあわと慌て出す。


「えっと、あたしも当然回収してくれるのですよね。そのアイテムボックスで」


 俺とメティアは顔を見合わせると互いに顔を左右に振った。


「残念だが神様や人間はアイテムボックスで回収できない。おいていくしかないな」

「ひいいっ」


 穂花は自分が何をしてしまったかようやく自覚して反省するがもう遅い。

 必死に俺にしがみついて懇願する。


「ひええええ、お、お助けを。見捨てないで。一人にしないでええええ」

「ええい、離せ。それと涙と鼻水で俺の毛皮がベタベタになってるだろうが」


 自慢のさらさらした白いウサギの毛が今は無残な有様となっている。

 まあ俺は見捨てるつもりはさらさらないのだが?

 これで少しはこれで懲りてくれるだろう。


⦅私は本気で見捨てる気だったけど⦆

「ぴゃあああっ」


 ……メティアがガチ切れだった件。

 冷気すら感じるメティアの視線に穂花が怯えきっている。


《まあ、実際問題どうするの。妙案はあるのかなにゃあ》


 メティアが期待のまなざしを向けてくる。

 こういうブレイクスルー的な発想についてメティアはまだ苦手だ。

 なので自ずと突発的な事案には俺が対応するのが通例となっている。

 手を組んで懇願するように拝み出す穂花。

 いや、お前女神だろ。本来お前が拝まれる立場なんだぞ。

 どうしたものかと頭をぐりぐりしながら悩んだ末、俺はあまりスマートとはいえない策を提案する。


「そうだな。エーテライトを使った飛空艇技術を使うか」

《あ、ごめん。鹵獲した飛空艇のエーテライトとかあるだけスライムコロニーで使ったちゃったよ》

「知ってる。でもあるだろう。今はすぐ近くにさあ。エーテライトが」


 ニヤリと笑い、顎で上を指す俺にメティアも気がついた。


《あはは、そうか。あるよね~~。大小含めて24隻分のエーテライトが》

「だろう。いやあ、帝国軍には感謝しないとな~~。戦争仕掛けた賠償金代わりにもらってやるんだからあっちも文句はないだろう」

《だね。仕掛けてきたのはあっちだし。物資の現地調達は戦争の基本だよねえ》


 ふっふっふ、と笑い合う俺たちを見て穂花はガクガクと震えている。

 おやおや、心外だなあ。

 お前の尻拭いをしてやろうというのにどうして俺たちを見ておびえるのかね。

 さあ、ちょうど帝国の飛空艇艦隊も動いた事だし狩りでもしますかね。



 ◇ ◇ ◇



 「ようやく戦う気になったか」


 帝国軍地上部隊4000を率いる中年少佐はたまる鬱憤を言葉とともに吐き捨てる。

 散々道中、オークライダー部隊に襲撃を受けた。

 しかも、一度ぶつかればすぐに撤退する。

 なので組織的な反撃が整う頃には逃げてしまう。

 加えてジェノサイドベアはその巨体から想像が出来ないが恐ろしくはやい。

 いいようにかき乱されて常に奇襲を警戒する亀のような進軍が続いた。

 だが、森を抜けてようやく平地に出るとこれ以上は抜かせないと言わんばかりのジェノサイドベアの群れとそれに騎乗する一角ウサギたちが待ち構える。


「ジェノサイドベアは厄介だが乗るのが最弱の一角ウサギかよ。こいつは楽勝だな」


 帝国兵から嘲りや失笑があがる。

 だが彼らは知らない。

 整然と隊列を崩さない魔物軍の異様さに気がつかない。

 それは正に訓練の行き届いた精兵のごとし。


 帝国兵でも所属で練度にばらつきがある。

 ましてや帝国貴族が抱える兵は正規軍といっても練度が低い場合もある。

 今回、相手の力量を見抜けないシューキュリムの地上部隊は精鋭と言い難かった。




 「おい、貴様らウサギのせいで我らまでバカにされているぞ」


 ラビットライダー部隊でも一際異質なジェノサイドベアが文句を言う。

 他の個体と比べても一回り大きな体。

 美しい漆黒の毛皮に黄色い三日月型の模様が額に入る。

 そして、雄々しい40センチを超える角が二本も頭から天に向かって伸びている。


 【月カブト】

 

 それは主である頼経に名付けしてもらった大事な名前である。

 ジェノサイドベアの長である月カブトは頼経に降って以来忠誠を誓っている。


「うっせえわ、熊オヤジが」


 月カブトの上に乗る一角ウサギが悪態をつく。

 毛皮は基本ベージュだが背中と額に星形の黄色い模様が特徴的なウサギだ。

 英雄種ブレイブラビットのカインである。


「何だと、ウサギ風情が。我のことは月カブトと呼べ。引き裂かれたいのか」


 二人はいつもいがみ合う。

 しかし、部下たちは黙々と戦いに備えて無視していた。

 忠実に任務をこなそうとする。

 だってここにはいない鬼教官が怖かったから。


「んだと、やんのかコラ、図体だけでかいうすのろ熊に俺が捕まるかよ」


 そんな二人に伝令用の分身スライムから立体映像付きの通信が入る。


『ふむ。戦の前に喧嘩とはずいぶん余裕があるの』

「「ひぃっ」」


 月カブトもカインも情けない悲鳴を上げ、途端に大人しくなる。

 鬼教官桜花からの通信が入ったからである。

 それを見ていた周囲の部下たちは内心嘆息する。

 この戦いが終わったらまた地獄のしごきが待っているな、と諦観の境地。

 桜花の前で不満は決して出さない。

 顔にも出さない。

 反論はそれだけしごきがきつくなると知っているから。

 だというのに……。


「それはこの熊オヤジがウサギと馬鹿にするからで」

「馬鹿にしてない。帝国にウサギのせいで侮られたと事実を言っている」


 頼むから言い訳するな、と二人に無言の圧力が集中する。

 しかし、その思いは届かなかった。


『ほう、余を前にして言い訳かの。が足りなかったようだの』

「「「ひいいぃぃーーーー」」」


 少しドスの利いた桜花の声音を聞いただけでカインたちだけでなく、ラビットライダー部隊全体が動揺を見せた。


『そんな元気が有り余っているお主らに朗報だ。時間稼ぎを前倒しにして地上部隊と戦闘を開始せよ、と頼経の指示だ。うれしかろ』

「「「イエス、サー」」」 

『予定が変わってのぅ。地上部隊をほどよく刺激して一部飛空艇部隊を引っ張り込み分断しろとのことだ。加減が難しいができるな?』

「「「イエス、サー」」」

『失敗すれば地獄の訓練が待っておる。余に恥をかかせるなよ』

「「「イ、イエス、サー」」」


 桜花は鞭ばかりではない。

 飴だってちゃんと用意をする。


『上手くいけば祝勝会で頼経よりビールや、ワイン、焼酎と酒のつまみが振る舞われる。励め』

「「「イエス、サー!!」」」


 最後に、一番の返事。

 現金なものである。

 そして、桜花にかわり人型の頼経が姿をみせる。


『やあカインくん』


 頼経が手を上げて挨拶するとカインは全身の毛が逆立ち一度震えた。


「なんだよ、気安く名前呼ぶなよ」


 ぷいっとそっぽを向くカインに頼経は笑顔が引きつった。


『あはは、急な作戦変更ごめんね。ちょっとこっちでトラブルがあってさ。帝国の飛空艇に用事が出来たんだ』

「オレら空は飛べねえ」

『そっちは大丈夫、秘密部隊が落とすから。ただ、引きつける以上飛空艇の支援砲撃にさらされることになるんだけど大丈夫かな』

「帝国の豆鉄砲なんかあたるかよ。いらねえ心配すんな」

『おお、頼もしいじゃないか。頼りにしてるよ』

「けっ、いってろ」


 不機嫌そうなカインの態度に頼経は不安げに話す。


『こっちでも砲撃の対策はあるから、砲撃着弾予測情報を各員に送る。いくらジェノサイドベアが頑丈でも限度があるから直撃はさけるように。気をつけてね』

「はっ、バカかてめえは。自分の心配でもしてろ。そっちの方からやべえ気配を感じるぞ」

『そうか、こっちも警戒するよ。じゃあみんな頑張ってね』


 通信がきれるとカインは不機嫌そうな顔と態度が嘘のように反転する。


「よ~~し、お前ら、やってやんぞこらああーー」

「そうだねえ、

「がんばろうねえ、 」

「ほんとは主が心配なんだねえ、


 一角ウサギやジェノサイドベアたちから生暖かい目と言葉が集中する。


「うるせえわ。お前ら黙れ」


 カインは煩わしそうに仲間たちの言葉を振り払う。

 彼にとって頼経は苦手な主だ。

 カインはシャルが頼経を主と仰いだとき気絶していた。

 英雄種故に周りからちやほやされてきた。

 いずれ元王女のシャルと番になり、一族のトップになる。

 それが当然のことだと信じて疑わなかった。

 それが突然はしごを外されたのだから面白くなかった。

 だから頼経を認めないと決闘を申し込もうとした。

 だが、カインは戦わずして頼経にノックアウトされる。


 部屋に突撃すると人型になっていた頼経は風呂上がりの着替え中だった。

 控えめにいっても衝撃的だった。

 男だと思っていた。

 なのに着替え中の見返り姿は間違いなく美少女(注:無性)。

 それも人を狂わせるほどの美貌の持ち主。

 少女特有の未熟さがあるものの大きな胸の膨らみがあった。

 瑞々しい珠のような肌。

 なめらかな体の曲線を水滴がなまめかしく幾重にも流れる。

 整った顔にうさ耳と尻尾が凶悪なほどに可愛らしい。

 あまりに暴力的な魅力に目が釘付けになる。

 そして、くらくらするような甘い香りに酔ったような感覚。

 その際、鼻血をだして情けなくも気絶してしまったのである。

 ――負けた。戦う以前に敗北したのである。


 それから裸を覗いたことを謝る機会も逃して気まずい関係のまま今に至っている。

 周囲の仲間たちはその経緯を知り、面白がって見守っている。

 月カブトも思春期の初々しいカインの反応に溜飲を下げた。

 不意にラビットライダー部隊の空気は引き締まり戦闘モードに切り替わる。

 それは帝国軍にも伝わり、戦場に幾ばくの静寂と緊張が続く。


「突撃!!」


 カインの号令にラビットライダー部隊が一斉に突撃した。

 ひとかたまりの雪崩のように帝国兵に押し寄せる。

 まず帝国軍は歩兵銃部隊と弓兵を前に出し引きつけた後、上からは弧を描いて弓矢が放たれ、前方からは銃撃を一斉に放った。

 ジェノサイドベアは急所を腕でかばい、一角ウサギは小さなウサギ形態のまま背中に隠れ突き進む。

 弓矢も銃撃もジェノサイドベアの堅いオーラ障壁と毛皮を突破するには至らない。


「弓兵、銃兵下がれ。重装歩兵、槍部隊前へ」


 指揮官である帝国軍少佐は遠距離攻撃が通じないと判断すると部隊を下げる。 

 最前列に重装歩兵、奥に槍兵が待ち構えた。

 その後方に魔装銃を構えた銃兵、弓兵がつく。

 防御力の高い重装備の歩兵と槍を並べてジェノサイドベアの突撃の勢いを殺した後、逆襲するという思惑が透けて見える編成だ。

 

「見え見えだっつの」


 月カブトの上でカインが後方より続く味方に合図を送ると、互いの軍がぶつかり合う前に上に乗る一角ウサギたちは持ち前の高い跳躍をみせる。

 一斉に帝国軍の重装歩兵を乗り越えた。


「ジェノサイドベアを踏み台にした!?」

 

 帝国軍少佐は驚き戸惑った。

 途中一角ウサギたちは人型に変身すると後方の銃兵と弓兵にむけて流星のように鋭い降下キックで襲いかかっていった。

 人型になれる上位種一角ウサギの蹴りは大木すらもなぎ倒す。

 はじけるように何十という帝国軍兵士が飛ばされていく。


「銃を持つ者を優先しろ。倒さなくてもいい。武器破壊を優先だ」


 カインは自身の聖剣【エクスガラディン】を召喚し、次々と帝国兵をなぎ払う。


「くそ、接近戦の弱い後方部隊にまんまと……してやられた。すぐに体勢を立て直せ。後方の予備兵を出すのだ」


 後方の予備部隊は撤退時には殿もこなせるよう中でも精鋭が配置される。

 敏捷性に優れる一角ウサギたちは帝国軍が立ち直る隙を与えず、戦場の機微を持ち前の危機察知能力で感じ取り後退する。


「よし、あらかた銃は潰したな。下がりつつ前線の敵を挟み熊オヤジどもと合流する」

「「「応」」」


 カインの指示に従って素早く後退を始めてジェノサイドベアの猛攻をしのぐのが手一杯の重装歩兵と槍兵へ、背後よりウサギ獣人たちが挟撃する。

 戦いはじめてからわずかな時間で目を覆いたくなるような被害を出している少佐は焦燥に駆られ追い詰められていく。


「まずい、不味いぞ。このままではシューキュリム閣下に殺される。家もただではすまないぞ」


 追い詰められた少佐は精霊核を用いた通信魔導具を起動すると後方に控える飛空艇に要請する。


「支援砲撃を要請する。魔物軍を撃て」


 少佐の要請に相手側は指摘する。


『待て。それでは前線の味方にも当たるぞ』


 帝国の魔導大砲は現代兵器と違い機械補正の精密射撃などない。

 すべて人による運用だ。

 出来るのは地上面攻撃。

 これは敵味方関係なく砲撃が降り注ぐことになる。


「かまわん。撃て。これは命令だ」


 程なく飛空艇艦隊から了承の返事が届くと少佐は狂ったような笑みをこぼす。


「相手はジェノサイドベアの群れだ。味方を多少失おうが勝てばおつりが来る。くくくっ、下っ端の兵などいくらでも替えが効く。討伐すれば俺は英雄よ」


 


「……釣れたな」


 月カブトは空を見上げ、飛空艇部隊の一部が前進した事を確認した。


「ウサギども、砲撃が来るぞ」


 月カブトの注意が入る。

 攪乱しジェノサイドベアの支援をしていたウサギ獣人たちがウサギに戻り背中に乗った。


「オーラを防御に回せ。やられるんじゃねえぞ」


 間もなくすさまじいほどの砲弾が高速で飛来してくる。

 前線で戦う帝国軍の兵士ごと狙った卑劣な砲撃に月カブトは虫唾が走る。


「これが帝国のやり方かっ!!」


 地面に当たると周りにいた帝国兵は次々に吹き飛んでいくのが見える。

 ラビットライダー部隊はジェノサイドベアの防御力に守られているが次第に傷つき倒れていく者が増えていく。

 着弾の爆発が途切れることなく連続し、大地が怯えるように震えている。


「すさまじい砲撃だな」

「不味いぞ熊オヤジ。このままじゃ一方的ななぶり殺しだ。撤退する」 

「しかたないな。お前ら、退け。後退するぞ」


 倒れた仲間に肩を貸しながら、ラビットライダーたちは這う這うの体で逃げ出しはじめる。

 これを見て帝国軍少佐はほくそ笑む。


「ふははは、どうだ。これが飛空艇部隊の力だ。偉大なる帝国の力だ。手も足も出まい。いかに堅いジェノサイドベアとて魔導大砲の前ではあのざまよ」


 少佐は気をよくして飛空艇に通信を入れる。


「このまま追撃する。ジェノサイドベアも魔導大砲なら通じる。このまま蹂躙するんだ。災害級指定の魔物だ。倒せば昇進、最低でも報奨金が山ほど手に入るぞ」


 これには飛空艇部隊から通信越しにも歓声があがり沸き立っている。

 支援砲撃に入っている帝国軍の飛空艇艦隊は功名心に目がくらむ。

 逃げていくジェノサイドベアの群れを追って旗艦に確認をとることもなく前進を始めるのだった。



 その様子を帝国軍飛空艇艦隊の飛行限界高度より遙かに高い位置より監視するがあった。

 メティアの統制によりスライムで形作られた飛行船。

 そこから身を乗り出すエルフの少女たち。


「帝国軍艦隊の一部が突出。リーン隊長!!」


 部下の報告にエルフのリーンは頷く。


「……特別作戦【プリマステラ】開始」

「「「了解」」」




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