加湿器

佐々井 サイジ

第1話

 フリマアプリで購入した加湿器が届いた。定価が一万円以上する代物を二千円で買うことができた。出品者の備考欄には「未使用ではありませんが、1,2回しか使っていません」と記載があった。限りなく新品に近い状態で、定価の二割で手に入れられてかなりラッキーだった。

 このアパートに引っ越してきてから三ヶ月。乾燥しやすいとはもともと言われていたけど、生活するなかでこんなに気になるとは思わなかった。一番嫌なのは寝ているときに喉が張り付いて咳き込んで起きること。そのあとにお茶を飲んだりトイレに行ったりするうちに目がさえて眠れなくなる。おかげで最近寝不足気味だ。

 だからこそ、この加湿器を安価で仕入れることができて本当に良かった。

 念のため、パーツを隅から隅まで確認していく。錆びた部分やカビが生えているところはない。それどころか、新品を開封しているような心躍る感覚がある。取扱説明書も過剰なほど緩衝材で梱包されていた。出品者は気が利くというか神経質なタイプなんだろうか。

 取扱説明書を手に取ると、何かが挟まっていたようでぽとりと落ちた。拾い上げると手のひらに収まるサイズのお守りだった。出品者のものだろうか。もしかしたら大事なものかもしれない。スマートフォンのフリマアプリを開けて購入履歴から出品者アカウントを探すがなぜか消されていた。こういうときはどうすればよいのだろうか。フリマアプリに連絡を入れるべきだろうか。

 途端で面倒になり、取扱説明書をパラパラとめくった。とはいえ、部品や本体を見ればだいたいの使い方は理解できる。私は部屋の隅に加湿器をセットし、給水タンクに水を入れて試しにスイッチを押してみた。動作音が小さくてコーという音がわずかに出る程度だった。これなら寝るときも気にならなさそう。蒸気の量やタイマー設定もできるようでありがたい。給水タンクは五リットル入るみたいだけど、重くて頻繁に管理できるか怪しい。一晩でそんなに消費するとも思えない。

 でもそんなことより部屋に真新しい加湿器が隅に構えることになり、なんとなく心が弾み、夜が待ち遠しくなった。

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