第24話 あなたの涙に禊がれました
もし、である。一葉の姿が私だけに見えて余人には見えないものならば、人を抱くような、あるいは透明人間にハンカチを手渡すような仕草はきっと不気味に思えたのにちがいない。しかしもしそれならハンカチは宙に浮かんで見えたのだろうか?もっとも暗くて見えなかったのかも知れない。とにかくまわした手の平には一葉の熱い血潮が、慟哭する身体のふるえが間違いなく伝わって来たのだ。ゆめ、霞まぼろしの類とは思えなかった。
いたわるように私は奇跡の人に言葉をつなぐ。「あなたのお父上が…」と直前に伝わって来た彼女の父上の想念の不思議を云いかけて、その実「いや、ありがとうございました」と云って深々と頭をさげていた。その思いが一番強かったからだ。「あなたの偽りのない姿を見せていただいて、本当に感激しております。もうひさしく私は、このような体験はしておりません(どころか、マジで始めてだった)。あなたの涙に禊がれたような気さえしております」と正直にいまの気持ちを伝える。今まさに共有が、彼女との一体がなされたような気もする。このままじっと見つめ合っているだけで充分な気がした。一葉の私への眼差しにも何か境が取れたような、親近の度合いが深まったような色があった。「いいえ、こちらこそかたじけのうございました。胸の奥まで察していただいた心持ちがして…あの、ほほほ、気が晴れました」と云ってくれたのだが、しかしこの時迂回して来たさきほどの老人が側道の茂みからいきなり現れて「プータロー」と一言小声で罵り、そのまま公園の奥の方へと離れて行った。
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