第11話 (※途中ですが小説返歌を)
「小説返歌」
いみじき世せちなる世とぞ何かせん世に迎へらる我ならなくに
人見れば厭はしく声聞かば憂し手負いの獣牙剝くごとし
風を聞く森の千葉(せんば)のそよげるを人の世みにくただ風を聞く
―上三首、著者
卯の花のうき世の中のうれたさにおのれ若葉のかげにこそすめ
とにかくも超えるを見ましうつそみの世わたる橋や夢の浮き橋
世の人はよも知らじかし世の人の知らぬ道をもたどる身なれば
―上三首、樋口一葉
(注)小説返歌とは和歌の世界における長歌の形式に倣ったものです。古来わが国には長歌という和歌の一形式がありまして、五・七、五・七の連続のもとに己が抱くところの心象や事象への感慨を綿々と謳ってまいります。そしてその末尾にこれまでの長歌に対する(呼応する)和歌一首を置くのですが、ここでは長歌に代わるところの小説(就中ここまでの文章)に対して、同じ形式を踏んでみました。すなわちここまでの小説の内容に呼応するような和歌数首を樋口一葉の和歌集から、またわたくしこと多谷の拙歌集からそれぞれ選んで置いてみたのです。ところでご存知でしょうか?樋口一葉が小説家である前に歌人であったことを。生前彼女は日々の生活における己が喜怒哀楽や苦しみなどを綿々と綴ってまいりました。あたかも和歌がなんでもうちあけられる友ででもあるかのように、己が真情をそこに吐露して来たのです。翻って一葉と比べれば至って拙くはありますが私もまた歌人であり、和歌への思い入れだけは一葉に同じくするものがあります。和歌は友であり、私の魂の吐露であり、生き行く上での指針(これを和歌の世界では「言挙げ」と云います)でさえもあります。そのような分けですのでこれ以降も小説の節目節目で「小説返歌」を置いてまいります。小説ともどもどうぞお楽しみくださいませ。
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