第3話 あの…ここはどこでしょうか?
しかし何かに思い当ったかのようにその場に立ち止まり今度は一転へつらうがごとく次のようなことを私に尋ねて来た。ただし相当混乱してる観がある。
「あっ…失敬。もしやあなたは久佐賀さんではありませんか?先程の借り入れのこと、お考え直しのうえ私を追いかけて?ふふふ、あの、私至って弱視なもので、あなたが誰だかよく…もしや三組町、顕真術会の久坂佐賀先生ではありませんか?」何のことだかさっぱりわからなかった、私は始めて彼女に口を利いた。
「いや、違います。ただの通りすがりの者で…」とぼっそと愛想なく云う。人とかかわろうとする意志がそもそもまったくないのだ。しかしそれならなぜ凝視を?と女は改めて機嫌を損じ且つとんだ私事の露呈や媚びまで売ってしまってとその度を増すようだった。「ふん」とばかり鼻を鳴らして行きかけたがまた立ち止まる。今度は何だろうか。啖呵を浴びせられるのなら勘弁して欲しい。堪えられそうもないからだ。そうと察して背を向ける私にしかし女は、あとから思えば当然だったが更に意外なことを訊いてきた。
「あの、もし…ただいまは失礼しました」と啖呵どころかまず謝って見せ次に「あの、 此処はいったいどこでしょうか?法真寺の境内に居たはずなのに…それについ今しがたまで昼過ぎでしたのに急に暗くなって…ほほほ、あの、恐れ入りますが此処の所番地を教えていただけませんか?それとただいまの時刻を」と悉皆わからぬことを聞いてくる。髷姿と云い、覇気のまったくない私でもさすがに眼前の女には強く興味を引かされた。いったい何者なのだろう?とにかく事実を伝えてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます