第16話 【怪談】改造計画



皆様も仲の良い友人や知人と喧嘩した経験が、

一度はあるのではないでしょうか?



千秋さんは都内でジムトレーナーをしている私の知人。



体を鍛えるのが趣味で、

日焼けした体に引き締まった体がトレードマーク。



これからお話する話は、その千秋さんの体験談。



「美雪が千秋と仲直りしたがってるよ」

そう同級生の友人から聞いた時、千秋さんは思わず耳を疑った。



千秋さんがそれを聞いたのはつい最近のこと。



千秋さんには中学時代に美雪という親友がいた。

過去形だ。



吹奏楽部で同じパートだった美雪だ。



美雪は実家がお金持ちのお嬢様で気は強いが、

千秋さんが部活の練習で困っていることがあれば助けてくれる

とても頼りがいのある存在だったという。




当時、気の弱く悩みがちだった千秋さんにとって、

美雪はなくてはならない存在であった。




しかし、そんな二人の関係も、

あっけなく壊れた。



原因は部活の先輩が引退したことによる

ファースト・セカンドポジション争いだ。



ファーストとは主旋律を演奏する云わば花形のポジションであり、

セカンドは主旋律を支えるポジションである。



部活の顧問の先生が千秋さんはファースト、

美雪はセカンドと決めたのだが、これが良くなかった。



美雪は千秋さんより上のポジションでいたかったようで、

千秋さんをイジメるようになり、

千秋さんに暴力を振るうようになった。



千秋さんに腹式呼吸のトレーニングをさせている間に、

美雪が千秋さんのお腹を殴るのだ。



美雪に言わせると腹筋力を強化するためで、

「千秋改造計画」の一環だったという。



千秋さんも当然嫌だったが、

気が弱く体格差や腕力差もあったことから

千秋さんは美雪の言う事を聞くしかなかった。



しかし、ある時猛烈に腹が立った千秋さんは

そのトレーニングの最中にに美雪を突き飛ばし

そのまま帰ってしまったことがあった。



それを切っ掛けに千秋さんは部活を退部し、

学校で美雪とすれ違っても関わらないようにした。

美雪とはそこで縁が切れた。



しかし、再び友人を通して美雪から連絡が入ったのだ。

美雪と喧嘩別れしてから十年の月日が流れていた。



「まさか美雪が私に連絡してくるなんて…」



仲の良かった頃は、美雪が大好きだった。

だけど、今は苦い思い出が蘇ってくるだけ。



美雪からの連絡を無視して、

その出来事さえ忘れたしばらく経ったある日。



朝方、ふと千秋さんが目覚める。



ふうーふうーふうー!

何処からともなく風が吹く音が聞こえる。



と、同時に、

自分が腹式呼吸をしていることに気付いた。

布団に横たわった自分が懸命に腹式呼吸をしているのだ。

何故だか分からない。



「ねえ、許してあげようか?ねえ、許してあげようか?」



その声のする方を見ると、

千秋さんの上に貧相な体つきの女が千秋さんの上に跨っていた。

しかし、その女の顔を見た時はたと悟った。



「(あ、美雪だ)」



髪の毛はボサボサで、やせ細り、

美雪とは思えないほど

みすぼらしい姿をしているが美雪だ、これは美雪の生霊だ。



その時、美雪が連絡を欲しがっていたことを思い出した。



昔はあんなに怖かったのに。

美雪の生霊に腹式呼吸をさせられていたのだ。



「ねえ、許してあげようか?ねえ、許してあげようか?」



ふうふうと腹式呼吸をする千秋さんの

お腹を昔のように美雪が殴ってきていたが、

殴り返すと美雪の生霊は悲しそうな顔をしてふっと消えていなくなったという。



それから千秋さんは美雪に連絡を取った。



その話を千秋さんから聞いた私は、

いじめられていたのに何故連絡を取ったのか?と問うと、



「今だにあのトレーニングを私にしてくるなんて、美雪の性根を叩き直してあげようと思って」と語っていた。

自信のある笑みをしていた千秋さんが私は忘れられない。

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