「SARF×カクヨム 短編こわ~い話コンテスト(朗読型)」白鷺様と赤い女の子。

シーラ

エピソード



夏休み。お父さんと2人で湯涌温泉に観光に来たアナタは、泊まる宿の主人から昔話を聞きました。


「この地には、2つの言い伝えがありまして。一つは、1300年程前の事。一人の男が、玉泉湖で白鷺が身を浸しているのを見つけました。気になって近づくと、突然湯が沸き起こったそうでして。以来ここの温泉を『白鷺の湯』と呼んでいるのです。


もう一つは、氷室が開かれる時期。太陽が玉泉湖を照らす時間に湖畔に立つと、白鷺が舞い降りてくるそうな。深く二礼をして「白鷺様、お導き下さい」と言い、白鷺が一言鳴いて飛んで横切って行けば、幸運に恵まれるそうですよ。」


主人の話を聞いたアナタは玉泉湖に向かってみると、丁度白鷺が水辺に立っていました。近くに寄っても逃げなかったので、宿の主人が教えてくれた通りに呟くと、なんと白鷺が鳴いて横切り飛んでいったのです。


良い事が起こると喜ぼうとしたら、急に背筋がゾクっとする視線を感じた。先程白鷺のいた場所に目を向けると、一人の女の子が立っていました。


暑い時期なのに、長袖の真っ赤なワンピースを着て、真っ赤な麦わら帽子を被った女の子。嫌な予感がして逃げようとした時、アナタに向かって近づいてくるではありませんか。


音もなく、水面を歩く少女。顔は見えないが、よく見れば全身が赤い。人では無い何かだ。怖くて動けないでいると、何かはアナタに楽しそうに語りかけてくる。


「今夜、連れて行ってあげるね。」


何かは笑うと、瞬く間に立ち消えました。


アナタは近くで野鳥観察をしていたお父さんの元へ走って行き、今見たものを伝えました。しかし、お父さんはそんなものは見ていないと笑うだけ。

困ったアナタは宿に戻ると、言い伝えを教えてくれた宿の主人に助けを求めました。


「それは、人攫いの類いかもしれませんね。このままでは常世に連れ去られてしまいます。あなたは運が良い。白鷺様がきっと守ってくれるので、今から言う通りにして下さい。


こちらの温泉で身を清め、月明かりの満ちた時間に宿を出て『白鷺の足湯』に一人で行って下さい。


ただし。着くまでに誰に話しかけられても、絶対に返事をしてはいけません。

足湯に着くまで、白鷺のように片足ずつ歩いて下さい。両足をついては行けません。アレは夜目が効かないので、この約束を守れば大丈夫です…アナタが無事に辿り着ける事を祈っております。」

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